第05話「暴力者と人を魅了する人間は同じではありませんよ」
いらっしゃいませ。
「兄の言いたかった事は高良さんが見せてくれたようですね」
「え? あの……Lv100になる方法……気持ち次第だって事?」
「そうです」
それを知っているならば。
「お兄さんはLv100に?」
「一度もなれてません」
なれてなかった。
「……じゃなんで知って――」
「人から伝え聞いたようですね」
「えっと……」
うん、まあそれが悪いと言うわけでは決してないのだけど。
「気にしないでください。それを自分の力だと思う人間でもないので。
何と言うか……呑気なんです。あの人」
「そ、そう」
呑気、普通ならあきれるところだけど繭さんの表情はドコか柔和に微笑んでいた。
『良いでしょうかぁ?』
「あ、はいごめんなさい」
「申しわけありません」
『――と謝られたところで~両者バトル用意!』
オレは肩に乗ったアエルの目が赤色になるのを確認する。この辺は昔のアニメ動画の影響だ。戦闘色、かっこ良い。
「フレンズ」
繭さんはパペットの名を呼んだ。「パンッ」と風船が割れるのに似た音で出てきたのは――あ、可愛い。
頭くらいの大きさの海竜と、その周りを飛ぶ水・雷・炎の三つでできた三つの矛。
高レベルパペットには見えないが、表示を見るとLv70。アエルより上だ。そこまでなら珍しくないのだが……ユーザー自身のレベルが――Lv99だった。
お姉ちゃん以外でユーザーLv99なんて初めて見た。
予め言っておくけどユーザーLvはこのパペットソフトにおけるもので、人としてどうこう言う物ではない。
『はじめまーす』
――バトルスタート――
電子ボイスが戦闘の開始を合図する。
オレは合図と同時にアイテム――八つの人魂を装備し、一足飛びに繭さんに向かって――行こうとしたらフレンズが間に入って炎の矛を飛ばしてきた。
「――わっ」
オレは慌ててしゃがんでかわし……いや、最初から当てる軌道じゃなかった気が……ま良いや、かわせたんだし。
「アエル! フレンズに飛びかかって――あれ?」
いなかった。肩に。
……ひょっとして――
オレは矛の飛んでいった方を見る。
あ、やっぱり挟まってた……。
アエルは矛に捕まって飛んでいき、適当なお菓子に突き刺さった。
オレはアイテムのうち二つをアエルに向けて飛ばし、改めて繭さんに顔を向ける。
その時アイテム発動の音がし、繭さんの周りに山のように『武器』と分類されるものが突き立った。
繭さんは剣と銃を両手に取り、オレに向かってくる。武器の山も彼女に沿ってついてくる。
オレは足を止めて人魂を飛ばそうと思ったのだが、繭さんはオレをスルーしアエルに向かう。
「え?」
彼女の背中を目で追ったのが間違いだった。
後ろを向いているうちにフレンズがオレの前にまで到達し、至近距離から水の矛を放つ。
ダメだ! 当たる!
オレはなんとかダメージの大きい・下手をすれば一発でデッドエンドになる心臓や頭だけは避けようと左に体を反らす。
「――……っ!」
矛がオレの胸の中心に当たり、ライフの40%を削られる。
そのままフレンズは水の矛の形を解き、オレの両腕・首・足を固定。
そこに炎の矛を放たれ、しかしオレは脳波で人魂を操りがぶりと噛ませて矛を止めさせる。
ピィ!
「――!」
今のは――アエルの鳴き声だ!
急いでそちらを向くと、アエルを囲んで武器が展開されていた。まるで武器でできた籠に閉じ込められたようだ。
「フレンズ」
『あ、やるんだ』
喋れたのか。いや、それ自体は驚異には成らないんだけど、ちょっとオレは動揺してしまった。
その間にフレンズは距離をとり、オレにぶつかってきた。
「――た!」
体当たりを喰らって倒れこむオレ。
別に本当に喰らったのではない。散布されているナノマシンが影響を計算・計測しオレの体を倒したのだ。
『こっちも痛いんだからね』
オレの周りにアエルと同じく武器の籠が作られ、動けなくなった。
「よーさん、降参してください」
それって負けだよね?
……お姉ちゃんに心配かけて、教えてもらったLv100。
それにおごってまた負けて……。
変わった男性に心配され、妹に可愛いと言われ、高良にはちょっと変わったところを当てられた。
でもここでまた負ける……?
……い・や・だ。
「――!」
アエルから黒い炎が上がった。見た覚えのない現象だ。
「……いけない」
少しアエルから距離を取る繭さん。
「よーさん、暴力的な強さだけ求めてはいけません。
コンタクトは――パペットは貴方の遺伝子情報・心拍・血圧・脳波・精神状態をリアルタイムで観測・更新しているのをお忘れなく」
でも負けたくないって思うのはいけないの?
「勝ち方によります。
暴力者と人を魅了する人間は同じではありませんよ」
今のオレは暴力者?
「はい」
炎が消えた。
アエルはオレに向かって小さく鳴くと、
『『『儂
私
俺
我
うち
自分
手前
小生
を信じろ』』』
そう八種の声色でオレに向かって囁いた。
オレは応えなければならない。
アエルの親として、パートナーとして、友達として。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ォ!
アエルから八色の細い光線が上がり、それを取り巻く黒い炎が上がった。
ある炎は更に天を目指し、ある炎は方向を変え地上を目指し、またある炎は大きく口を開けて鳴いた。
やがてその炎が消えるとそこには白い腹、黒い鎧をつけた巨大な八つの首を持つ大蛇が。
「……あれ?」
アエルのレベルは、Lv69。100ではなかった。69、無垢。
でも体躯はLv100の時と同じ――はず。大きすぎて細かいところまではわからないけど。
「名前が必要ですね、ひと首ひと首」
はて、前にも言われたな、名前。
「意外でした。てっきりLv100までいくかと」
それ、オレも思ったんだけど。
「では最後に、あたしのLv100を見せます」
「え? なんで?」
「貴方はもう少し学習をした方が良いでしょうから」
なんかバカ言われた気分……。
「フレンズ。
あたしのレベルに同期。あたしを介して、Lv100に」
『了解』
フレンズは繭さんの前にふわりと漂うと、彼女の小さく細い人差し指にカプリと噛み付いた。
あ……Lv99だったユーザーLvが減っていく。
代わりにフレンズのLvがどんどん上がって行き――ついにLv100に達した。
フレンズの体表に光るヒビが入り――割れる。
溢れる海水。波打つ海面。
跳ねる海竜――フレンズ。
金の装飾をつけた体はとても綺麗で、思わず見とれ――
海水が集まり、巨大な矛になった。
「――……え?」
矛はアエルの尻尾と首の合流地点を突き刺し、電撃を放ってあっさり倒してみせた。
「……そんな簡単に!」
「成程。
……えっと」
繭さんがオレのパペットを見て口ごもっている。
……なんだろう? ――あそっか。
「アエルです」
「アエルがLv100に行けなかった理由がなんとなくわかりました」
「そ、その心は?」
「貴方、アエルのジョーカー、発動させた経験ありますか?」
ジョーカー――パペットの持つ特殊能力だ。
これはステータスに最初からは表示されず、マスターユーザーが『発見』しなければならない。
「ない……はず」
それらしい能力は見ていない。
「Lv100への到達はユーザーとパペット、双方の『理解』が重要です。
まずジョーカーを引き出しましょう。
Lv100はそれからです」
――バトルエンド――
『勝者! 前野&フレンズペアです!』
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