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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第49話「きゃ――――――――――ち!」

いらっしゃいませ。

「要望が通らない場合力尽くになるのだけど?」


 少年は、氷柱(ツララ)――さんは、黄の色に輝くエネルギーソードを片手で軽々と振るい、突き出し、鋒をハウス・ドッグの首を狙う位置に止めた。いや、流石にこの距離から突きが届くとは思えないのだけど。

 ハウス・ドッグはどこか逡巡しているみたいに氷柱さんに視線――多分メインカメラ――を向けたまま止まり、少しの間静かな時が一帯を支配する。


「返す気はない、と? では宣言通り力尽くで行かせてもらおうかな」


 クスリ、そう氷柱さんが笑うと、エネルギーソードの刀身が十以上に分裂した。ビルのコンクリートの上を飛ぶハウス・ドッグ。勿論前にだ。同時に分裂したエネルギーソードがハウス・ドッグを狙い一斉に襲いかかった。ハウス・ドッグは右に左にと動き、小さな傷を受けながらも少しずつ氷柱さんとの距離を詰める。

 早い、疾い。ハウス・ドッグは体格が大人程あるからなんとか動きを追えているけどエネルギーソードの方はもう目では追えない。しかしハウス・ドッグはその性能で追えているらしく動き続ける。

 一つ、また一つとハウス・ドッグに傷がついていき、また一つ一つエネルギーソードが壊されていく。

 氷柱さんは右手に握ったエネルギーソードに左手を添え、離す。と、エネルギーソードが更に分裂し、ハウス・ドッグを襲う軌道に乗った。

 それをオレがぼやけた視界で見ていると御伽(オトギ)君がこっそりと近寄ってきた。


「おい、大丈夫かあんたら?」


 人間の耳では微かにしか聞こえない声でそう言った。彼が選んだ声量だ。このくらいならハウス・ドッグの集音機能に当てはまらないのかも。


「……う…」

「動くな。あれを喰らったら時間経過で治すしかないんだ。そっちの彼女も」


 涙月(ルツキ)は何とか上半身を起こそうとしていた。しかし腰と腕に力が入らないらしく何度もコンクリートの床に頭を付け直している。


「すまない……あんたらのパペットを……」


 アエルとのリンクはまだある。それはわかる。なら引き戻せるはずだ。


「今やるな。やるなら『聖剣』がハウス・ドッグに一矢報いた時だ。あいつの機能が落ちた時に戻す」


『聖剣』――前大会中学生トップになった折、付けられた氷柱さんの栄誉の名。

 その氷柱さんはハウス・ドッグの全方位にエネルギーソードを展開し終えたところで、刃を中央にいるハウス・ドッグに向けて同時強襲させた。

 ――……!

 逃げ場なしの一撃。違う百撃と言ったところか。しかし聖剣はそれで満足しなかったようで。


「おいで、『シンボルスォード』」


 氷柱さんの呼びかけに応えて、彼の背後にエネルギーソードを集めて作った剣の聖獣が顕現した。

 あれが、聖剣のパペット。


「斬れ」


 呟かれると、聖獣の姿が消えた。

 ――どこに?

 そう思うオレだったが、その時にはもうハウス・ドッグの残骸が宙に舞っていた。

 突進したのだ。目に見えぬ速さで。そんなものをどう避けろと言うのだろう。

 ハウス・ドッグだったものがバラバラと落ちてきて、所々で光っていたライトが消えた。


「今だ!」


 泉王(イズミオウ)

 オレの心中での叫びにも似た呼び出しに応じて泉王が首を大きく持ち上げた。本当は言葉に出して呼んでやりたかったけど、あいにくまだ体が全回復してはいなかった。

 泉王は開いた口に蒼いエネルギー球を作り出すと天に向けてソレを撃った。少し雲の残る青い空に溶けて消えると光がオレと涙月に降り注ぎ、アエルとクラウンジュエルの時間を巻き戻していく。籠が現れ、二体のパペットが解放され、籠が消えた。

 良し……。

 奪還、完了。


「二人はちょっと休んでろ」


 そう言って御伽君は実況に降りてきてくれと呼びかけ、ドクターを呼んでオレたちを介抱するようにと話した。

 いやちょっと……それは困る。この大会には制限時間があるのだ。医者が出てきたら当たり前に治療され、時間がかかる。動けるからもう行って良し、とはならず完全回復まで休憩させられるだろう。その間に大会が終わったらどうする? そんなリタイヤは嫌だ。


「嫌だと言われてもな……」

「自力で動ければ――良いんでしょ?」


 オレは体を転ばせ、両の手をビルの屋上について力一杯腕を伸ばし、足の力も加えて何とか二足で立ち上がった。けれど足はガクガクと揺れていて……。

 くっそ……。


「きゃ――――――――――ち!」

「「「え?」」」


 どこかで聞いた声が襲ってきた。まるで風圧まで感じるような叫びだったから足に入っていた力が吹き飛ばされ、尻を付いた。浮遊する医療椅子、かつてあった車椅子の役割を受け継いだそれに。


「……コリス?」

「重症です? 痛いです? ガクブルです? これサービスです。もとい。これはわたしたちの本来の役目なのです」


 ああ、この良く喋る口は間違いなくコリスだ。


「こっちも頂いたー!」

「わっ」


 驚く涙月も別の少女に体を持ち上げられ、医療椅子に乗せられた。

 誰? 見覚えないんだけど? でも格好はコリスの服に良く似た特徴を持っている。

 となると――


魔法処女会(ハリストス・ハイマ)永久裏会(セレーネ)】所属、可愛(カワイ) 村子(ムラコ)、十五歳です」


 少女は頭に被せているシルクハットを取り、にっこり笑って頭を下げる。


「因みにわたしが処女かどうかは秘密です」


 …………言われたら気になるじゃないか。


『あの~……』


 小さく申しわけなさそうな声。実況のお姉さんの声だ。


『ドクターとの通話が繋がっているのですが、どうすれば……?』

「大丈夫ですウチの裏会(セレーネ)は優秀ですそこら辺の軽傷重傷ともに治療します怪我がなくてもメスで割いて治療しますこのお二人もシスター村子が治しますのでどうぞご安心を!」


 早口で捲し立てるコリス。

 治療の前に傷増やすのはやめて欲しいな。やりそうで怖い。


『リタイヤはしなくて済みそうですか?』

「「しない」」

「「させません」」


 オレと涙月、コリスと村子さん、計四名の声が重なった。


『そ、そうですか。でも一応治療風景は見せてもらいます。合法かどうか確かめないといけませんので』

「構いませんよ。わたしはこうするだけですので」


ド―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「え――」


 村子さんは名字の通り可愛らしい笑顔のままで手を振り、そのままオレと涙月の胸に向けて振り下ろした。

 メスを握っている手を。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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