第47話「おおおお? 愛の逃避行?」
いらっしゃいませ。
魔法処女会がコリスを引き取り去ってしまってから五分弱。こちらからは彼女たちの姿が見えなくなったところでオレは限界を迎えた。
「子供じゃないからー!」
「うぉう⁉」
突然の叫びに横にいた涙月は目をぱちくりさせて「まあまあ」とオレの肩を二度叩く。
「可愛かったのさ」
「それ男にとって褒め言葉じゃないから……」
かっこいいが良いんです。
「ああ言ってもらえるのは今だけさ。成長すればかっこいいに変わるんだよ」
「……ほんとに?」
「ほんとほんと。
それよりほら、私たちも動かないと。制限時間あるんだから」
「ん」
気を取り直して二人一緒に歩いていくと、どう見てもこのフィールドには不似合いなオブジェが目に飛び込んできた。
「罠?」
それは引き伸ばされた卵の殻を思わせる楕円の形をしていて、玩具の宇宙船みたいに軽い素材でできているみたいだ。なぜ軽いとわかるのか? 涙月が好奇心を我慢できなかったらしく持ち上げたから。もし爆弾だったら涙月もオレもアウトだったのでは……。
「よー君これなんだと思う?」
人の大きさほどもあるそれを弄びながら、涙月。
「自己主張の激しすぎる卵」
形は勿論、色が問題だ。黄色をメインにした本体には子供の落書きのような派手な画が描かれていて、見ていると目が痛くなりそうだった。
「ほっとけないぜ」
「いや、それが罠ならオレたちもう関わっちゃってると思――」
「ん? どした?」
卵から手を離した涙月がオレの横にやってきて視線を辿り始める。
「おお?」
そこにはそっくりな卵があって、更に先にも同じ物があってどう見てもこっちに来いと言わんばかりに直線に並んでいた。
「よし、無視しよう」
「よし、蹴ろう」
「なんで⁉」
何言ってんのこの子!
「ちょっと大きなラグビーボールだと思えば蹴るしかない!」
「そんな風に思わなくて良いから!」
「せーの!」
「わぁ――!」
足を振り上げる涙月。頭をかばってしゃがみこむオレ。しかし幾ら経っても何も起こる気配がなく。
「ん?」
オレは目を開けて様子を伺った。
「涙月?」
の姿が見えない。どこ行った?
「涙月ー」
「ここ!」
……声が小さい。遠くから聞こえると言うよりも何かに遮断されているよう。
「こ・こ・だっ・て――ば!」
「うわぁ!」
卵に穴があいてランスが出てきた。涙月のランスだ。その先端がオレの鼻に当たりそうなところまで伸びてきて、死を覚悟した。
「やだなぁホログラムだって」
「あ、そっか」
バカを見てバツの悪そうな顔をしていただろうオレだったが、その間に涙月が卵から出てきた。
「パカッと開いてさ、中から出てきた手に捕まって閉じ込められてしまったのです」
「拘束系のアイテムって感じ?」
「いやぁ中でカウントダウンが始まったから多分拘束→爆殺じゃないかなぁ?」
またサラッと言う……。
「……カウントダウンは止まったの?」
「いや? ほら見てみ」
中を覗くと、確かにデジタル数字が順調に減っていっていた。残り二分。オレは涙月の手を取ると一目散に逃げだした。
「おおおお? 愛の逃避行?」
「ボケてる場合じゃない!」
あ、爆発した。ちょっと暖かい風が吹いたもののこの位置ではそのくらいの衝撃しかなかった。だからもう大丈夫かな? と思って油断していると。
「まず……」
爆発の影響で他の卵もカウントダウンを始めてしまった。
「これはあかんで、よー君」
「わかってるからぁ!」
と言っても爆発の連続からは逃げ切れず、あっさり巻き込まれてしまった。回復させて100あったライフがいきなり半分ほど減らされ巨大な岩と岩の間に隠れて爆風をなんとかやり過ごす。
「お、終わったかな?」
「ん~爆弾はもうないみたいだね」
「いやでも卵以外の爆弾があったらどうする?」
「形が自由ならこう言う逃げ場にも仕掛けるだろうねぇ」
「…………」
オレと涙月は嫌な予感を肌で感じて、なんとなく左右前後を確認し最後に上を向いた。そこには白いロングコートを羽織った少年がいて(あ、コートの背の方に可愛いキツネの絵がある)、真剣な眼差しでこちらを見下ろしていた。ん? いや真剣なのは真剣だけどなんか怒ってる? そのお怒りと思われる少年はコートを広げると――
「裸かと思ったぜ」
横にいた涙月が両手で顔を隠していた。指の隙間から覗いてるけど。や、それより! コートの裏側にデフォルメされた手榴弾がずらっと並んでいるではないか。
「は?」
手榴弾が落ちてくる。総勢百個。オレはアエルを大きくしようと考えたがここでは狭い。それじゃ、と思って岩の隙間から出て行くとそこにふっくらと膨らんだ帽子を被った玩具の兵隊さんが並んでいた。どう見ても頭が爆弾です!
「お任せ!」
「え?」
自信満々の涙月がオレの頭を抑えて腰を折らせると、肩車の姿勢を取った。え? オレなんで涙月を肩車してるんだ?
「クラウン!」
『おお!』
この狭い中でクラウンジュエルを巨大化させ、岩のホログラムが崩れていく。どうやらこの岩はビルに重なるように映し出しているらしい。ビルの姿が薄っすらと見えた。
「涙月⁉ 何する気⁉」
「こうするのさ! クラウン! 肩!」
クラウンジュエルが鎧のガルドブレイズに力を込めた。すると右のガルドブレイズに周囲にある空気が吸い込まれていき、左のガルドブレイズから勢いよく吐き出された。空気は激しい爆風になり、竜巻となって二人を包んだ。そこに手榴弾と兵隊さんの爆発が重なり二人を爆殺しようとするも風に阻まれオレたちにまでは届かない。
クラウンジュエルの『ジョーカー』だ。
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