第46話「【魔法処女会(ハリストス・ハイマ)】です」
いらっしゃいませ。
さて、コリスがパペットもユーザーも打倒したところで彼女に10Pが加算された。
オレと涙月は隊と言う認定になり、パペット打倒分2P、ユーザー打倒分2P、計4Pの獲得となった。
「コリスちんどうやって偽コリスちん出したの?」
「秘密です! トップシークレットです! 機密です! 禁則事項です! 霧の精霊に手伝ってもらいました!」
「「言っちゃった!」」
「てへ」
「「わざとか!」」
中々にあざといコリスだった。名前は子リスなんて可愛いのに。
「あの~、俺もう行って良いかな?」
と申しわけなさそうに声をかけてきたのは、つい今し方コリスにしてやられた少年ユーザーだ。このバトルは負け=退場ではない。あくまでポイント制だ。退場になるのはライフが0になった時である。
「良いよ。ゴインだっけ? あのパペットも待ってるだろうし」
「どうも」
少年はそう言って律儀に頭を少し下げて立ち去っていった。パペットは弱そうなのから襲っていたのに存外良い子のようでなぜか安心した。
と一種の感慨に浸っていたら。
「なんて帰るかよ!」
これである。
「ん?」
オレたちを余裕で収納できる大きさを持った鉄の牢がどこからともなく降ってきて閉じ込められてしまった。オレは咄嗟に牢を持ち上げようと試みたが上がらない。重い。触れたならばこれも拘束系の攻撃でかつ傷つく心配は皆無であるが。
「だはははは! ポイント貰っちまうぜ!」
本性を見せる少年。彼は、その、バカなんだろうか? これ世界中継されてるのにそんな姿見せたらもう二度と騙せないのに。それを口に出して言ってみたら彼は、
「…………」
顔を真っ赤にして大爆笑の姿のまま固まった。
「…………」
少年は口を一文字に引き結ぶと、いそいそとアイテムを取り出してオレたちにパチャッとかける。水――いやこの再現されている匂いは――石油だ。
「サヨナラだな、楽しかったぜ」
フッと悲しそうに微笑む少年。もうどんな表情をしても本性隠せないと思うのだが。少年はマッチを取り出すと――これもアイテムだ――火をつけて石油の端っこに放った。
「アエル、お菓子食べて良いよ」
肩に止まっていた小さなアエルは表示されたお菓子を八つの口でひと思いに食べ、体が光った。猛る八つの色の炎。天に昇り、地を疾しる。牢などとっくに壊されていて、石油についていた火も巨体に押し潰され消えていて。
「………だ……はは……まじ?」
「大まじです。『電王』」
「ひ……やめ――」
少年の制止の声は届かず、電王は彼を噛み砕いた。
「おーい」
「あひ……ひ」
涙月の呼びかけにぴくぴくと動く体。痙攣が返事だ。
「もの凄くびびったのにおしっこ漏らさなかっただけ立派だぜ」
立派……なのかそれ?
結局彼のリベンジも失敗に終わり、オレたちにはポイントが加算された。
「ん~、ほっとこうか」
涙月はいつまでたっても少年が正気に戻らないので放ったらかしにする事に決めたようだ。ポイっと投げられた少年の頭がそこそこ大きな石にゴンと当たったような気がしたが、まあ良いか(いくない)。
それより、コリスのブローチを覗き込んでいる涙月が気になる。
「何してんの?」
「うん、コリスちん、ブローチ起動して良い?」
「良いですよん」
つん、指でブローチを啄く涙月。するとブローチが光り文字と数字が表示された。このブローチは大会運営側から配られたもので現在のポイント数を確認できる。
「あ、やっぱりだ。戦い慣れてると思ったらこの子ったら」
あんたおばさんか。
「見てみよー君」
ブローチを傾け、表示されているポイントを見せる。
「52P? この短時間で?」
「コリスちん相当戦ってきたんだ?」
「いや~戦ったのは四回です。おっきな隊に入っていて、そこからポイントが流れてくるんですね」
「隊……名前あったりする?」
「ありますよぉ。【魔法処女会】です」
オレと涙月は肩を落とした。有名な隊名だ。誰もがよく聞く隊名。ただちょっとした問題がある。
キリストに全てを捧げたシスター集団。そこまでは良いのだ。魔法――まあオレたちができる技をちょっと昔の人が見たら魔法と勘違いもするだろう。処女――と言うのもまあ良い。キリストの好みは知らないが宗教に生きるのも人として問題はない(悪徳商売除く)。
では何が問題か? 彼女たちの【永久裏会】だ。
魔法処女会の分隊に当たる永久裏会は医療団体である。魔法処女会が祈りで精神を治すなら永久裏会は医術で体を治す。とだけ聞けばそれはもう善。責める処なんてない。
なのにどうして――犯罪者に傷を負わせて治すと言う酔狂に走っているのか。
「全くどうしてだ?」
「? 何がですかよー君さん」
「いや『君』か『さん』のどっちかで良いよコリス。て思わず声に出したついでだけど、永久裏会はどうして犯罪者を捕まえるだけじゃなく傷負わせて自分で治すの?」
「? 罰及び医療団体だからでは? スパッと切って、シュババと治す。でチュ~と打つ。何も問題ないと思いますが」
……確かに、そこだけ聞くと良いのだが……。
「犯罪者を捕まえる道具も医療器具だよね? メスとか」
「ですね、それしか扱えないので」
「そう言うと語弊がありますよ、シスターコリス」
「「え?」」
「あ」
いつの間に。本当にいつの間にかオレたちは彼女たちに囲まれているではないか。魔法処女会――世界最大のシスター団体に。
「紹介に足りない一文がありますね。世界最大のヴァージンシスター団体です」
「……あ、はい……ごめんなさい」
因みに処女かどうかは見た目ではわからない。わからないから彼女たちは入会の時に調べるらしいがその方法は門外不出だ。いや、想像はつくけどね。
「シスターソリイス」
と、コリスはひまわりが満開しているかの笑顔でソリイスと言う女性に抱きついていった。コリスのそれと似たタキシードのようでいてマジシャンでもあるかのような変わった衣装をしたシスター。確か魔法処女会の日本支部長だったはず。
「コリス、貴女日本に慣れていないのだから単独行動はダメと言ったでしょう?」
ぴん、と額にデコピン一発。
「あぅ、ごめんなさい痛いです。あのお二方に助けられたので泣かずに済みました」
「そのようですね」
ソリイスはコリスを横に立たせるとオレたちの方に向き直り、白百合かの微笑みで頭を下げた。
「コリスがお世話になりました。これはそのお礼です」
「あ、いえ、助けられたのはこっちも同じですし礼なんて――」
てっきりお金でも出てくるかと思ったのだが、出てきたのは二つの宝石だった。流石純白を好む集団と言ったところか、白を基調にした楕円の宝石で、綺麗にカットされ所々陽の光を受け虹色に輝いて見えた。
「初めて見る宝石ですけど……」
「名称は伏せておきましょう。知識を付けない方が純粋な気持ちで観る事ができる場合もありますゆえ」
いくらなんでももの凄い安い宝石だったりはしないだろうが、それでも貰うには躊躇する。
「よー君、貰っときな」
そう耳元で囁く涙月。
「でも――」
「これ、サイバーなジュエルだよ」
「え?」
「お嬢さまの言う通りです」
小声だったけれど会話が聞こえてしまったらしく、ソリイス。宝石をどこかから呼び寄せた小さな白い布で包みながら。
「アナタ方に今必要なのはリアルな宝石ではなくこちらだと思ったので」
「その通りだぜ。ね、よー君」
「う、ん……。アイテムなら――欲しい」
「そうです、貴方は少し欲を出した方が良いですよ。損な人生になってしまいますゆえ」
オレの手を取りその上に布で包んだ宝石を載せるソリイス。
「じゃ、じゃあ、戴きます」
「はい」
ソリイスは子供を褒める母親に匹敵する微笑みを見せると、オレの頭を撫でてきた。
いや……それはちょっと……。
「それでは、コリス」
「はーい。
涙月さん、よー君さん、お世話になりました」
勢い良く礼をするコリス。彼女はその後ニパ~と笑って、
「またどこかでお会いしましょう」
こう言った。
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。