第45話「「男女差別禁止! でもレディファーストはいるのだ!」」
いらっしゃいませ。
声はオレたちの傍からした。具体的に言えばオレたちの傍に着弾した一m位の大きさを持つ鉄球からだ。大きな鎖のついた鉄球はぐりんと回転し、ギザギザの真っ赤な口と尖った目をこちらに向けた。
『男・女・女。油断しまくりぎゃ!』
鉄球はふわりと持ち上がると、鎖でオレたちの足を取ろうと大回転。
「ジャンプ!」
「あいよ」
「ふへ」
三人は鎖の位置よりも高い高さまで飛び跳ねてそれを回避。
『ぎゃぎゃぎゃぎゃ!』
……今の、ひょっとして笑い声なんだろうか?
『飛ぶのは予想通りぎゃ!』
鉄球が空中で動きを変えた。一番体の小さい――つまりひ弱に見えるコリスに向けてだ。
「褒められ――ない!」
『ぎゃぎゃぎゃ! 弱いのから屠って何が悪いぎゃ!』
鉄球がコリスに衝突して――吹き飛ばされるコリス。そのまま蔦に覆われたビル壁に激突してずるずると落ちていく。
「コリスちん!」
『ぎゃぎゃ! 骨の砕ける感触確認ぎゃ!』
――ん? 感触?
オレと涙月はコリスの元へと駆け寄りながら同時に疑問を覚えた。
『いやもうパペットに実体はないだろう?』と。つまり吹き飛ばされた事自体が不思議なのだ。
オレたちはコリスの体を下手に揺すらないよう注意しながら彼女の傷を確認して、僅かに皮膚を貫いて見えている骨に唾を飲み込んだ。
オレたち人間は仮想ケガを負うとその映像が実体に重なり表示され、100あるライフを失えば死亡判定される。
「よー君この子――」
「うん。乗ってみよう」
鉄球に聞こえないようにボソリと小声で話す。
『ぎゃぎゃぎゃ! 今二人とも隙だらけぎゃ!』
鉄球が超高速で回転を始めた。
『抉ってやるぎゃ!』
迫る巨大な砲弾。オレはコリスを抱えたまま、涙月はクラウンジュエルを肩から掌に乗せ替えて左右に飛んだ。
鉄球は二人の足の先ぎりぎりを飛んで行き、廃ビルを砕いてその内部へと侵入する。ビルに重なっていた廃ビルの立体映像がボロボロと落ちていき、一気に崩れていった。どうやら中で滅茶苦茶に暴れているらしい。オレたちは立体映像に当たってもダメージを負うから瓦礫が当たらない位置まで走って距離を取る。その時廃ビルの天井を突き破って鉄球が姿を見せた。
大きく旋回して、オレたちを両目で追い、涙月に襲いかかる。
「だから褒められないってそのやり方!」
『知らんぎゃ!』
「クラウン!」
『オウ!』
巨大化するクラウンジュエル。立派な騎士となったクラウンは白と金でできた巨体で――その足で鉄球を踏みつけた。
『ぬっ……ぎゃ!』
「ん?」
足の下で鉄球が暴れて、回転する自身の体を掘削機として土を掘り始めた。鉄球は地中を進み、オレの真下に出現。
「――!」
一撃当た――らず、鉄球はコリスの体を透き通って再び空中に飛び出した。
『……ぎゃ?』
「そこまでで~す」
呑気に降ってきた声。鉄球は声の出現位置を確かめようときょろきょろと見回すもそのセンサーに引っかかるものはない。
「センサーを誤魔化すのは大得意です! 大特価です! 大セールです!」
いや、セールして売ってはいけない。
「いきまーす!」
『――⁉ ぎゃ! ぎゃ――!』
巨大な槌で殴られたのか、それとも雷に打たれたのか、あるいは両方の攻撃を受けて鉄球はパチンコ玉のように色んな物にぶつかりながら彼方へと飛んでいった。
「ゴイン――――――――――!」
思わぬ事態に自制が効かなったのか、少年が近くで寝ていた恐竜の影から現れて相棒へと叫んだ。
「「「見っけ!」」」
「あ」
三人に指を差され、少年は逃げ忘れて動きを止めてしまった。油断大敵。
「ツィオーネ!」
『はいお嬢さま!』
ツィオーネの両手に小さな精霊が生まれて、その赤い子が『火』と呟いた途端、少年が火に包まれた。
「あ、熱い! 気がする!」
実際にダメージを受けるわけではない。しかし仮想現象である火は少年のライフを減らし続け、今度はツィオーネが緑色の精霊を生み出した。
『木』
緑の精霊が呟き、蔦が少年の手足を拘束する。こう言った『拘束』系攻撃の場合はフィールドにばらまかれているナノマシンが手を貸す仕組みになっている。
『水』
水色をした精霊の言霊に合わせ、氷の槍が少年の首に密着。
「ご、ごめん負け! 負けたよもう!」
少年のコールを聞いて、ホログラムが浮き上がる。
『winnerコリス!』
と言う音声と表示。コリスはそれを聞いて、
「勝ちました!」
両手を広げてオレと涙月に抱きついてきた。それと同時に消えていく偽コリス。少年も拘束が解かれて言った。
「女の子に負けるなんて……」
それを聞いた涙月とコリスは声をハモらせて言うのだ。
「「男女差別禁止! でもレディファーストはいるのだ!」」
――と。
……男どうすりゃ良いのさ……?
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