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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第44話「……ワン」

いらっしゃいませ。

☆――☆


『ではパペットも戻ってきましたところで十分後に大会リスタートとなります。繰り返します――』


 と言いながら上空を飛行していく実況アナウンサー。ミニスカートだがしっかり懐かしのブルマを履いていて男性ユーザーをがっかりさせて去っていく。


「よー君」

「オレはがっかりなんてしてないからね?」

「私のおパンツでよければいつでも見せるぜ」


 同じテントにいた男性陣の目が涙月(ルツキ)に向いた。オレはそんな彼らにちょっと目配せして、こう言った。


「いや、二人の時に」

「「「っち」」」


 あからさまな舌打ちと、


「「「ぬぐぅ」」」


涙目になって呻く声が聞こえてきた。絶対見せてやるもんか。


「…………」

「ん?」


 男性ユーザーに向けていた目を涙月に戻すと髪をいじりながら耳を朱くしている彼女がいた。


「……あ、いや、今のはだね!」


 慌てて弁解するオレ。その横でひゅーひゅーと口笛を吹くコリス。

 しまった、やりすぎた。早く過ぎろ十分。


『あ~』

「え?」


 服の中に隠した小人改め歌詠鳥(ウタヨミドリ)から発声練習のような声。


『ママ友からのご連絡~。大会中は邪魔しない事~』

「へ? なんでそうなったんだい?」


 正気に戻った涙月。いや耳が朱いままだから普通を演じているだけかも。


『ゆうれい~じゃなかった幽化(ユウカ)って人が約束したの~』

「幽化さんが? 詳しく教えてくれる?」

『大会が終わったら手伝うって~』


 あの幽化さんが? めんどくさい事やらないあの人が?


「幽化さんって世界トップって言われてるあの方ですか? やぱり強いのですか? 文字通り幽霊のように攻撃当たらないのですか? 怖い人ですか? 危ない人ですか?」


 怖い人と危ない人は違うよ、と教えてあげようかとも思ったけど話が脱線しそうだからオレは「最強プレイヤーだよ」とだけ言っておいた。間違ってないし。


「ん、あの人が言うならそうしようか」

「よー君ってなにげに幽化さん信じてるよね?」

「え? そうかな?」


 自分的には逆らえないだけなんだけど。


「まあ信じられる年上のお兄さんがいるのは良い事だべさ」


 ぽんぽんとオレの肩を叩く涙月。


「私も師匠信じてるしね」


 涙月の師匠と言うのはオレのお姉ちゃんだ。オレの家に勉強しに来た時にいつの間にか姉とファッションのこだわりについて熱戦を繰り広げていた。いつもロングスカートで憂い姿の姉と健康的な腕や足を出しまくっている涙月。二人が交わるはずがない――と思っていたのだが、互いに自分ではしない服を着せて遊び続けてどちらも着せ替え人形状態になって笑っていた。その一方で結局勉強は進まなかった事を記しておく。


『ねーねー』

「なに? 歌詠鳥」

『ボクママ友のところに戻って良い?』

「え? え~」


 オレは涙月とコリスを見る。二人とも「そんなぁ~」と言う顔をしている。いや、欲しかった対応は行かせて良いかまだダメかの二択だったのだけど。


「また会えるかいの?」

「もっとお話したかったです~」

『大会見学終わったらどっか放浪してます~』


 放浪すんのかい。


「んじゃどっかで私ら見つけたら声かけとくれ」

『あいあいさ~』


 と言うと歌詠鳥は体を光る砂に変えてどこかに流れ去ってしまった。ピンク色の発光体と一緒に。


『再開五分前です。ユーザーの皆さまは休憩テントから出てお好きな場所に移動してください』


 それでは、ゲーム再開だ。


☆――☆


「まさか……なぜ君がここに?」

「ふふふ。わたしの尾行に気づかないとは! これが探偵の実力なのです! 諦めて攫った人々を閉じ込めている金庫の鍵を開けるのです!」

「ねぇ、その寸劇いつ終わるの、涙月、コリス?」


 手の甲を唇に当てて目を見開いた姿で固まっている涙月。口に咥えたパイプで涙月を指すコリス。二人はオレの問いには応えずただじっと突っ立っている。


「?」


 なに? 何なのこの間?

 オレが戸惑っていると、涙月が目だけを動かして瞼を開けては閉じてを何度か繰り返した。

 これはあれかな? 次はオレの台詞と? でも涙月は犯人役だし、コリスは探偵っぽいし、他の役目ってなにか必要なのだろうか?


「……ワン」

「「犬ですと⁉」」


 悩んだ末にオレが出した『ひと鳴き』。その見事な犬っぷりに二人は感嘆の意を隠せずに頭を垂れた。


「「垂れてないし!」」

「まーそのへんはともかく、だって後残ってる役って言ったらもう淫獣――じゃない、愛玩動物しか思いつかなくて」

「いや、待てよ……よー君がペット? ……よー君や」

「なに?」

「これを着ないかい?」


 そう言って涙月が出して来たものとは!


「どっから出したケモミミパーカー!」

「あ、可愛い。らぶりー。ひっつきたい。甘えたい。食べたいです」

「「食べたい⁉」」


 思わずパーカーを背中に隠す涙月。流石に彼女から見てもおかしな反応だったらしい。


「焼き加減がわからないぜよ」


 そう言う問題ではない。


「も~二人とも、大会再開してるんだから、早く動かないと位置の察知とかされちゃうよ?」

「『も~』だって」

「可愛い男の子アピールですかね? 小賢しいですね。媚びてますね」

「ちがーう!」


 そう言われてしまうとかなり恥ずかしいのですが。


「あ! よー君のおバカさん!」

「え?」


 急に涙月におバカさん扱いされてきょとんと顔から力を抜くオレ。

 うん? おバカ? 超心外。

 と思っていたのだけど、なぜバカなのか割とあっさり解決した。

 風切り音がする。空気が鳴っていると言うよりもトーンの高い笛の音を聞いている気分だ。その風切り音の元が――どすん! と土を抉って着陸した。

 あ、あ~……、大声出すと敵が来ると。


「ごめん二人共」

「ん~素直に謝ったから許す! と言うかこう言う大会なんだから良いさね」

「やりましょう! ヤりましょう! ()りましょう! ()りましょう!」


 ウィンクしてオレを安心させてくれる涙月。一方で蒸気が出そうなほど興奮しているコリス。バトル好きだったんだ。


『油断!』

「え?」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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