第43話「オレはガキの笑みなんか興味0だが」
いらっしゃいませ。
『今度はなんだ? 俺はお前とお友達になった覚えはないんだが?』
「ひどい!」
いやまあ確かに先生と生徒がお友達って言うのもどこか変だけど。違う学校とは言え。
でもママレード○ーイじゃ先生と生徒が恋愛関係にまでなっていたよ。
『さっさと要件を言え』
「あ、えと……」
『仮想災厄……確かにアマリリスが何でもできるとなれば今の社会においてこれだけ排除したいプログラムはないだろうな』
「でもアマリリスには『標識』がついている。誰かが管理しているのでは?」
『そうだな、蔵書印と同じ役割だろう。「これは自分の所有物だ」と言う目印だ』
そんなものをつけた人物がいる。
「誰だと思います?」
『お前だ』
固まった。誰が? オレが。
…………は? オレがアマリリスの所有者? あの、オレAIを『物』とは思ってないんですけど……。
『――とオレと、合わせて世界の十三人だ』
「ちょ、ちょっと! 意味わからないんですけど!」
『そんな事はオレに質問している時点でわかっている。お前は頭は良いがバカだからな』
頭良いのにバカってどう言う? 同居しない風に思えるけど。
『バスに乗っている時アマリリスのパペットと会っただろう?』
「はい」
今でもしっかり覚えている。温度のない体。冷たい体だった。
『その時に触れられた人間がアマリリスに標識をつけた。
お前自分を善人だと思うか?』
「……そう在りたいと思いますけど……でも自分を善人って言う人間は善人じゃないと思います」
『そうだ。そんな奴は阿呆だ。で、オレとお前含む十三人はバカだ。だから無意識に願ったんだ。
「この力が欲しい」
――とな』
力……。
「オレはそんな――」
『絶対に願っていないと言えるか?』
「……絶対とは――」
言えない、か?
『支配欲が働いて、オレたちはあのパペットを通じアマリリスに標識をつけた。だから――』
「オレたちが解くしかない?」
『今のところはな』
ふぅ~、と息を吐く音。会話を切り替える間であって、言いにくい何かを言おうとしてるのだろう。
『仮想災厄とやらには注意をしろ。巻き込まれてもオレは知らんぞ』
「……はい」
☆――☆
「あうぅ~」
「少しは反省したか?」
とオレ。オープンカフェの適当な椅子に腰掛けてオレが――幽化が見下ろす相手はエルエルと名乗った少女だ。同じカフェの椅子に電子の鎖で縛られてベソをかいていた。
「オレに紐をつけてもろくな情報が流れないぞ」
「で、でもぉ、それでも世界トップとしてやれているではありませんか。それって貴方が認められてるからでしょう? でなければ不正とかチートとかコミュ力0とか言われ社会的抹殺を受けているはずですよ?」
「…………」
別にそう見離されても構わない。それならそれでオレが優位にいる事を証明するだけだ。
「お淋しい方」
「喰うぞ」
「ひぅ」
口から、と言うより喉から空気が漏れる。
「……お前、アマリリスを解放してどうする気だ?」
「へ? そんなの解放してから考えれば良いのでは?」
「……何も考えてないわけだ」
やれやれと額に手を当てて頭を振る。だが解放してから考えると言う姿勢は嫌いではない。それは今・つまり経過にもちゃんと目を向けている事の証明だ。
「だからぁ、大人しく紐つけられて尚且つ標識を取り除くのにご協力くださいな」
にっこり笑うエルエル。それは大人と言うより可愛い若い子を思わせる微笑みで、オレは――
「オレはガキの笑みなんか興味0だが」
「ふぐっ」
「加えて言うなら作り笑いはもっとな」
「作ってはいませんピュア度100%の天使の笑みです」
微笑み。確かに演技には見えないが。
「そうか。そのピュア度100を下げてしまうかもしれんが言わせてもらおう。アマリリスが直接頼みに来ないのはなぜだ?」
「…………」
ピュア度100%を下げるどころか怒りの表情が現れてしまった。
「……捕まってしまいました。勿論助け出すつもりですけど」
「そうか。大変だな。大変ならそろそろ行ったらどうだ?」
「そんなぁ……。こう、気の利いたアクションで励ましてくれたり手伝ってくれたりするのではないのですか?」
もう半泣きだ。ひょっとしたらオレの思う状況より悪い事態になっているのか。
「そうだな。一先ずこの大会は邪魔するな。終わりまで見ていろ。そうすれば手伝ってやるのもやぶさかではない」
「本当ですか⁉」
ぱぁぁぁと明るくなるエルエルの表情。勢い余って広げた翼が風を起こしてオレの顔面に大きな葉っぱを直撃させてしまう。
「……やめるか」
「ごめんなさぁぁぁぁぁい!」
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。