第41話『皆気をつけて! 電磁パルスだよ!』
いらっしゃいませ。
「ツィオーネちんアマリリスと会ってたの?」
ツィオーネと目線を同じ高さにして、涙月。
『どうでしょう? 直接は会ってないような? 誰かには会ったような?』
「ツィオーネ頼りない」
『ワタクシお嬢さまから生まれたんですけど』
ふ~む……。
オレは指を額に当てていくらか頭を回す。
呼ばれた――誰に? アマリリスに?
何の為に? きっとツィオーネは何かを行ったはず。
なぜ記憶がない? データを削除されたから? となるとアマリリスを生んだ電子サイトの最奥、通称“メル”に送られているはずだが……今の内にそこにアクセスできないだろうか?
オレは『アドレス帳』から幽化さんの連絡先をクリックしてあの人が出るのを待った。二秒・三秒と時間が過ぎていき、一分くらい経過したあと。
『いい加減に切れ』
とうんざりした声が流れてきた。
「なんでもっと早く出ないんですか?」
『めんどくさいからだ』
いつか、いつかこの人をギャフンと言わせたい。
『会話が面倒だ。切るぞ』
「嘘でしょ⁉」
一体この人とどうやって付き合えば良いんだろう。
オレは幽化さんの興味を少しでもひこうと急ぎ事の顛末を説明した。
『メルへのアクセス権はオレにはない』
「許可は降りないでしょうか?」
『さあな。そもそもメルにそんなデータがあるとも思えん』
え? でも――
「削除データの行きつくところ、ですよね?」
『アマリリス一人ならそんなミスがあったかも知れない。噂を真に受けるなら少女らしいからな。身も心も。
だが、そうではないのが確定した』
「? と言うと?」
『こちらにアマリリスのお友達を自称する奴が現れた』
「え――」
今話す暇はない、切るぞ。幽化さんはそう言って通話を切った。
アマリリスのお友達? それって人間? AI? パペット?
『ママ友』
「え?」
声のした下の方を見ると、オレの服の間からひょっこりと顔を出した小人がオレの首元をぺちぺちと叩いている。そして何か訴えるような目でそう言っていた。
「ママ友?」
『ママの、お友達。捨てられたAIプログラム』
AI――独立して動いているプログラム?
「捨てられたって削除されたのかい小人ちゃん?」
『メルにいたから、ママが助けた』
「ほっほー。だそうだぜよー君」
「うん……」
そのお友達が現れた。何をしに?
「ねえ、そのお友達は何をしようとしているの?」
オレは自分の服の中にいる小人に話しかけ、応答を待つ。
『お友達は、ママについてる「標識」をサヨナラさせようとしているの』
「標識?」
『人間がママにつけた目印で、それを無理やり外したら、ママ死んじゃう』
「「「――!」」」
ちょっと待った。じゃあアマリリスってずっと人間に管理されてるって事? それならなんで今アマリリスは自由にやれて――ほっとかれてる?
『マーマー』
小人が空に向かって呼びかけるも、応えるものはなし。そんな時小人の周りを漂っていたピンク色の発光体が服の外に出ていき、肩に乗っていたアエルの中に入っていった。
え、ちょっと待って!
『避難~』
「避難?」
服の奥に潜り込む小人。体を丸める姿はどこか怯えている風にも見える。
ばちん!
空から聞いた覚えのない音がした。テントから頭を出して見てみると、花火みたいに光が広がって落ちていくところだ。
『来るよ来るよ』
小人が怯えている。ふるふると揺れる感触がオレのお腹を軽く連打する。
『皆気をつけて! 電磁パルスだよ!』
「「「――!」」」
それはちょっと、洒落にならないような!
光が降ってくる。ビルを通り、テントを通り、大気に蔓延する。
パペットが消える――
デジタル機器が動かなくなって、街から人工の光が消えた。
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