表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
40/334

第40話「心は彼女と共に」

いらっしゃいませ。

☆――☆


「ふ~んふふ~ん」


 鼻歌を奏でながら、『鬼』であるアタシは大きな瓶から金平糖を一つ取り出す。二本の渦巻く細い角を耳の上に生やしたアタシは金平糖を口に含む――のではなく、ポストの上にちょんと乗せて軽くステップを踏みながら去っていくのだ。

 一つは路地に、一つはビルの上に、そんな風に色鮮やかな金平糖を乗せながら、アタシは一つ金平糖を口に入れた。


「あま~い」


 ぷるぷるぷると身体を震わせる。頬は軽く紅潮していて、可愛らしく手を添えてみる。うん、可愛い。

 アタシは背後に引き連れるパペットの群れに金平糖を分け与え、一緒にその甘さにぷるぷるぷると身体を震わせる。ゲキかわ。


「火球さん」

「あ、エルエル」


 空から舞い降りる――天使。虹色に輝く光の翼を背に持つその存在は? 彼女もまたパペットを両腕に抱えられるだけ抱えている。本来ならばもっと巨大なパペットもいるはずだがそれらは力をセーブされて小さく収まっていた。


「お待たせでーす」


 降下する体にブレーキをかけず、エルエルは火球と呼んだ鬼の少女――つまりアタシに抱きついた。


「う~ん、アマリリスさんの匂い」

「やめて、抱きつきたいならアマリリスに直接やりなさい」


 顔をアタシの首に押し付けて匂いを嗅ぐエルエルを押しのけ、彼女の抱えていたパペットたちを見、観察する。


「紐は付けたのね」


 落ち着いた可愛い声で紐を確認するアタシ。


「そうですね。そろそろお友達のところに戻してあげませんと」

「それじゃ」


 拝むように手を合わせ音を鳴らす。途端パペットたちは何かに気づいたのか顔をハッとさせ、口々に己のマスターユーザーの名を口にする。


「帰って良いですよ~。ごめんなさいねちょっと用があったもので」


 微笑むエルエル。その笑顔に悪意はない。まさに天使の笑みだ。

 パペットたちはそんなエルエルとアタシを呆然と見上げ、全員同時にアマリリスの具合を心配した。いや、具合とは体の話ではない。心だ。


「アマリリスは大丈夫よ」

「わたくしたちがついています。貴方がたにも紐をつけたので心は彼女と共に。笑いましょう? 皆さまの喜怒哀楽はアマリリスさんに届きますので」

「バイバイ」


 手を振るエルエルとアタシ。

 パペットたちは後ろ髪を引かれながらそれぞれの友の元へと帰っていった。


☆――☆


『コリスお嬢さま――!』

「ふ⁉」


 休憩タイムに入って小一時間。問題が一向に解決しない中で名を呼ばれ、コリスは口に含んでいたラーメンをそのままに振り返った。


「hちーな!」

「こらこら食べながら話さない」


 オレに軽く注意され、コリスはズズ! と麺を飲み込む。あ、今噛んでなかった。


「ツィオーネ!」


 二度目の驚き。一度ラーメンを挟んでいるから多分二度目は演技だろう。


「女の子の反応を演技と思ってはダメっすよよー君」

「え? 読心?」

『コリスお嬢さま!』

「ツィオーネ!」


 ひし! と抱き合う二人。ツィオーネと呼ばれた一方は内側から光っているからパペットだろう。姿形から人じゃないけど。

 となると、コリスのパペットが戻って来た?


「スタッフさん!」

「はい⁉」


 突然オレが呼びかけたからスタッフの男性は飛び跳ねて驚いた。ほんとにジャンプする人いるんだ……とオレは思いつつ、「あ、すみません」と謝罪を入れる。


「他のパペットも戻っているんじゃないですか?」


 先ほど見た動くものがパペットであるなら。


「そっそうですね。連絡を取ってみます」


 と言って自分のサイバーコンタクトを操作するスタッフさん。オレは涙月(ルツキ)たちの方に向き直り、近寄っていく。それに最初に気づいたのは小さな魔術師の姿をしたコリスのパペット・ツィオーネ。彼(彼女?)は抱きしめるコリスの腕から脱出すると、浮いたままオレの方を向き、


『主が世話になりました』


と大きな帽子をかぶる小さな頭を下げた。


「いえいえ」

「ツィオーネ、どこ行ってたの? 不満があったの? 実家に帰ってたの? 離婚なの? より戻すの? 荷物取りに来たの?」

「コリスちん、ちょっとストップストップ」


 後ろからコリスの口を塞ぐ涙月。ツィオーネが返答する時間を与えなければいけないと思ったのだろう。


「もっと涙を溜めて突き放すように言えば効果的だよ」


 思っていなかった。そんな知識どこで覚えた。


『お嬢さまにはできかねますよ。ワタクシがいくら注意しても薄らした言葉を吐き出すだけでしたから。まあなんだ、バカですから』


 こっちもこっちで……。


「えっと、ツィオーネ? どうしてコリスの傍からいなくなったの?」


 話が進まなそうだったからオレが割り込んでみた。ツィオーネは小首を傾げながらオレの方を向き、涙月とコリスはじゃれあいながら瞳孔をこちらに向けた。


『ん~、頭の中でワタクシを呼ぶ声が響きまして、そうすると目の前が真っ暗になったのです。体が勝手に動いている感覚はありました。意識もはっきりとありましたね。でも体が言う事を効かないんです。ちょっと怖くなって思考停止しましたが、次に目覚めた時にはアマリリスが――アマリリスってなんです?』

「いやなんです? って聞かれても……」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ