第04話「パペットはおもちゃじゃな―――――――――――――――――――い!」
いらっしゃいませ。
高良はスキップしながら控え席まで行く。目立ってる目立ってる。
程なくして今行われていたバトルが終了し、高良の出番になった。
対戦相手は戦闘機と……迷彩服の軍人? いや多分軍事マニアだろう。あれ? 戦闘機パイロットって迷彩服着たっけ?
「頼むぜいクラウンジュエル」
『おう』
クラウンジュエルは意気揚々とバトルステージ・ウォーリアフィールド『岩石地帯』に飛び上がり、高良もあとを追って登壇する。
「歩兵か。上からの爆撃には弱いだろう」
「お兄さん、地上に攻撃するのは攻撃機ですぜ」
「…………」
『…………』
無言で軍事マニアさんとそのパペットは顔を見合わせ、やはり無言で高良を見る。
え? まじで? と目が語っていた。軍事マニアかと思ったけど、そうでもなさそうだ。
「これから学ぶんだ!」
「知らんがな」
「く……くぅ……どうりで地上を狙いにくいと……」
『28番のお客さまー次対戦でーす。控え席にどうぞー』
あ、オレだ。
――バトルスタート――
「ほい行きますよ!」
「く……くぅ……こうなったら! 『バトルファイター』! 体当たりだ!」
「「「名前ださいぞー」」」
「うううううるさいな! 行けぇ!」
バトルファイターが地上すれすれを飛んで一気にクラウンジュエルとの間を縮める。
「任せた!」
『任せておれ!』
クラウンジュエルとバトルファイターがぶつかりクラウンジュエルが吹き飛んで――いや、後ろに下がりながらもバトルファイターを受け止めている。
クラウンジュエルの足がバトルのとばっちりを防ぐエナジーシールドの壁に押し付けられる。
『ぬぬぬぬぬぅ! 涙月よ行くである!』
「らじゃー! アイテムしょーかん!」
ぽちっと高良が空中の一部を押した。彼女のコンタクト越しにはそこにボタンが映っていたのだろう。
高良の右手に西洋剣にもランスにも見える武器が、左手に盾が装着された。
パペットは与えられたキーワードを元にコンタクトに入っている情報からならマスターユーザー用のアイテムを作り出せるのだ。
「いっくぜー!」
高良が走る。けどナノマシンでできている大地はゴツゴツしているし、足の速さは変えられないしでちょっと遅い。
「うわわわアイテム!」
対戦相手が空中の一部を押した。
出現したアイテムは――リュックのように担いだミサイル四発。
「こっちこそ行くぜ!」
まず二発、ミサイルが発射された。
「うわぁ! とか言うのは嘘で!」
「――! お、俺のミサイルを」
斬っちゃったよ。いくらコンタクトのサポートがあるとは言えなかなか凄い。
でもそれじゃ――やはり爆発した。
けれど高良のライフは――MAX100からの減点方式で、僅か13ポイント削られただけだ。
「こ・の・た・て・は! 風を動かして盾の範囲を広げられるんだぜい!」
「そうかい! でも!」
もう一発のミサイルは高良を越えて二体のパペットに向かっていく。
でもこのコースじゃ!
「あ!」
高良も思い至ったらしく一瞬足を止めたが、次の瞬間ユーザーに向けて走り始めた。
爆発する前にユーザーのライフを0にしてアイテムごと消そうと思ったのだろう。
「こ、この!」
相手のユーザーは残りのミサイルを発射し、高良の特攻を防ごうとする。
だけど――
やはり斬られ、爆発。
煙に紛れ相手ユーザーは姿を消す。
高良が行方を捜しているその時――パペットに向かっていたミサイルが爆発した。
「あ――」
高良の表情が後悔に染まり、
「ちょっと! なんで自分のパペットを捨てたんだよ⁉」
と叫ばせた。
高良が守ろうとしたのはクラウンジュエルだけではないのだ。
「ぎ、犠牲は戦争につきものだ!」
「そっこかー!」
高良が岩を斬る。そこに隠れていたユーザーの服を掴み、怒声を上げる。
「パペットはおもちゃじゃな―――――――――――――――――――い!」
シ――――――――――ン
ドーム内にいた人間が全員静まって。
「ひ…………ひぃごめんなさいいいい」
相手ユーザーの足が震え、立っていられなかったのか掴まれたまま膝が折れて。
「重いわい!」
高良の腕力では掴んでいるのは無理だったらしく、服を掴んでいた手を離す。
「クラウーン! エネミーちゃーん!」
ランスと盾を消しながら二体のもとへと駆け出す高良。
『無事である!』
クラウンの声が響くと同時、先ほどの静寂とは打って変わってドーム内がざわめいた。
なぜなら――
「……クラウン……超成長期!」
いやいやいや、小さな騎士だった彼は、ガン○ムのような立派な騎士になっていた。
が。あ、戻った。
その騎士の傍にバトルファイターが漂っている。通常こういった対戦ではパペットを『殺さない』ようライフ数値が割り振られているが、それでもきっとクラウンジュエルの背中にでも隠され守られていたのだろう。
「クーラウーン!」
を抱きしめる高良。
「君もよく無事で!」
戦闘機の頭(?)――コックピット付近――を撫でる高良。
「今の姿なんだい?」
『う~む、コンタクト内に記録されている――つまり私を構成しているものの一つである君の情報が爆発した、と言うのはわかったのであるが』
「要するに心の力だね!」
そんなアバウトな……と言うかそう言うLv100への到達方法もあったんだ……。
――バトルエンド――
『佐藤選手戦意喪失により勝者・高良&クラウ――ンペア――!』
沸き立つドーム。ここに来るのは初めてではないけど、オレたちは特にバトルでは目立っていなかった。が、これで高良は一躍ヒーローだろうなぁ。
さ、次はオレだ。
オレは高良たちの後と言うのもあっていつも以上の緊張の中登壇する。
逆側にある小階段には対戦相手が既に現れている。
帽子を目深にかぶっていて顔がよく見えない。でもロングスカートだから女の子だろうとはわかった。……いや、そう言う趣味の男の子もいるかも知れないんだけど……。
『バトルフィールドこうしーん』
一度フィールドの風景が解かれ、スロットが周り、止まり、今度はお菓子の都市になった。
ファンシーだ……。
『天嬢選手v.s.前野選手、スタート位置へ』
前野? どこかで聞いた――はず。アエル、検索――
「やめて下さい」
――お……。
こちらの心を読んだかのようなタイミングで声をかけられて、オレは思わず喉から声が出かけた。
「詮索されるのは好きではありません」
そう言って帽子を取る前野。服の中に隠していた長い髪を腕を使って外に出す。サラサラで、テレビCMのように光を受けて輝いて見えた。
「あ……前野――繭、さん?」
「はい」
今朝逢った、前野兄妹の妹さん。その人だった。
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