第39話「パペットは良い相談役にもなってくれるからさ」
いらっしゃいませ。
「――て、パペットの居場所はマスターユーザーにわかるはずだよね?」
「そのはずなんですがぁ……ゲームがスタートして他のユーザーとバトルしてたら――あ、勝ったんですけど――してたらパペットが急にあさっての方向を眺めまして、飛んで行っちゃったんです。そのすぐ後にタイムがかかって探しに行きたい気持ちと待たなきゃいけない気持ちがバトルを初めて、なんと探しに行く気持ちが勝っちゃったのでウロウロしてたのです」
「パペットがマスターユーザーを放ったらかし……」
「繰り返しになるけどマスターとパペットは痛覚以外の感覚を共有してるからパペットの目線も追えるよね? できない?」
「できないのです……」
コリスの目が潤んだ。
あ、しまった泣かせ――
「なので脚をもって探しに行くのです目をもって探しに行くのです耳をもって探しに行くのです鼻をもって探しに行くのです!」
「落ち着いて落ち着いて。休憩タイムがあけたら手伝ってあげるから」
テントから出ていこうとするコリスの手を掴んでなんとか引き止める。思いの外強い脚力にちょっと足が引きずられて軽く男としてショックを受けたが、まあ良い。
「うむ、おいでクラウンジュエル」
ぽん、と軽い爆発エフェクトの後小さな肩乗りサイズのナイトが現れた。涙月のパペット『クラウンジュエル』である。
「パペットは良い相談役にもなってくれるからさ、コリスちんが困ってんのに現れないのは変だなぁと思った次第なわけだ」
ああ、それで『私が当ててしんぜよう!』に繋がるわけだ。
マスターユーザーの趣味趣向の塊であるパペットは家族に次ぐ理解者である。同時に友達でも人によってはペットでもあるわけだから愚痴・悩み・喜びを分かち合える存在でもある。
それはパペットの方から見ても同じだ。悩み一つない・愛情一つない一昔前のAIとはものが違う。そんなパペットだからこそマスターユーザーを放ったらかしにする、それはレアケースの事象で。
「んで、コリスちんのパペットがいなくなった場所ってどこかいな?」
「真っ直ぐ十四歩右に二十一歩左に十六歩斜め右に四十五歩左に十九歩マンション回って十五歩のところです」
「うん、わかんね」
『私は記録したぞよ?』
――と、クラウンジュエル。流石AI。記録大得意。
「んじゃ行って――」
「待って待って涙月」
今にも走りだしそうな涙月の小さなサイドポニーテールを掴み暫しの猶予を願い出るオレ。ものすごく低姿勢で止めてるあたりオレらしい。
「え? どこが低姿勢?」
「それはともかく、第一に今タイム中でここから出たら連れ戻されるよ。
第二にコリスのパペットが行方不明になったならオレたちのパペットだってどうなるかわからないんだから顕現状態で連れて行くのは危険じゃないかな?」
「な、成程。ところでよー君私のポニテを指で持て余すのはやめないかい?」
「あ、つい」
ほら、筆の先っぽって気持ち良いよね? そんな感じで触ってた。
「ごめん」
「うむ、う~む、なんかこそばゆいぞ……」
二人してちょっとテレて。
「じ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
「……見続けても何もないよ? コリス」
「え~? 三流シアターでももっと良い映画流れてますよぉ?」
「そんなストーリー気にされても」
とりあえず、パペットがいなくなってもコリスの元気は暫く続きそうだ。オレたちは素直に休憩タイムが開けるのを待つ事にした。
のだが、時間は進むけれど休憩タイムは一向に開ける気配がなく、それどころか。
『パペットの顕現を解いてお待ちくだーい。ただいまパペットが行方不明になる現象が続いております。心当たりのある方は運営までお願いしまーす』
事態は悪くなる一方だ。
「わたし行った方が良いですかね全部話した方が良いですかね大っぴらにした方が良いですかねもう裸晒した方が良いですかね?」
「「やめなさい」」
いや話はした方が良いんだけど。多分。
その場で足を動かし走る意志を示すコリスだが、話だけならここに駐在している運営スタッフでもできるはずである。だからオレはコリスを連れてスタッフの男性のところまで歩いて行き、コリスに話をするよう促した。
「え~と~」
話を始めるコリスとスタッフ。特にオレたちがいる必要はなさそうだったのでちょっと距離をとった。
「ん?」
ふと横に向けた目。そこに映ったのはホログラムを解除された街並。特に変わったところはない、はずだ。でもさっき一瞬何かが動いたような気が……。
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