第38話「わたしのお腹は真っ白ですよ」
いらっしゃいませ。
じ~
「…………」
じ~
「…………」
強烈なラブコール(多分)にオレはそっと顔を背けて知らんぷり。
じ~
「くぅ!」
ラブコール――つまり熱視線に負けて唸るオレ。金髪少女がこちらを見ているのだ。恐らく小人を見られたから。
「よー君モッテモテ」
「多分違うと思う」
「……パペット? ですか?」
金髪少女はそう言うと涙月の腕からするっと体を出してオレの服の襟元を引っ張って中を覗き込んだ。そしてそのまま頬を紅潮させ――
「……綺麗なおヘソですね」
「何見てんの⁉」
紅潮させたいのはこっちだ。
「あーそれは私も思う」
「涙月はいつ見たのさ⁉」
見せた覚えはない。
「水泳教室」
「そういえば同じとこ通ってるね!」
因みに涙月は泳ぎが得意だ。オレは……ええカナヅチだから通ってますの。なにか?
「このちっさいお子さまはお二人の赤ちゃんでしょうか⁉」
頬を紅潮させたまま、金髪少女。
「子供ができるような行為してないよ⁉」
「……そう……か、あの時のアレは私の妄想なんだね」
「何言ってんの⁉」
もう止まらない。
「お~」
「キラキラした目で見ない金髪ガール!」
『そこの三人組さ~ん』
「あはいすみません今移動します!」
再三の注意を受け、オレたちは一番近くの休憩ポイントまでそそくさと移動した。その間も小人の仲間は回収されているようで、色とりどりのコスチュームに身を包んだ運営スタッフさんが数カ所に集まっている様子や何かを追いかけている様子が見えた。
「う~ん、これはまずい」
「小人の話?」
「そうだぜ。仮にこの子以外の――」
涙月はオレの服を指さし、話を続ける。
「アマリリス関係の子たちが削除されたら怒るのではなかろうか?」
怒る……怒られないのが一番なのは万人共通だと思うけれど、怒られたとして何が起こるだろう? 情報通信全般が乗っ取られる? 破壊される? いやそれより何よりも――
「アマリリスは一人ぼっちになるのかな?」
ぽそりと口から出た言葉。オレは暫く経ってから恥ずかしくなって顔を二人から背けた。
「…………」
「…………」
二人+小人の反応がない。どうしたんだろ? オレは横目で涙月たちの姿を捉えると、ぎょっとした。真っ赤になった顔で素知らぬ顔をしていたからだ。これは……本気で恥ずかしがっている。
「なんかごめん」
「だ・大丈夫だぜ」
「日本人もヨーロッパに負けず劣らずのロマンチストですね」
『けらけらけら』
グッと親指を立てる涙月。両手で頬を隠す金髪少女。一人大爆笑の小人。三者三様の反応を見せて沈黙する。
「あ、と……君、名前は?」
「わたしですか?」
静まった空気に耐え切れず、オレは金髪少女に話しかけた。
「コリス・冥・ロストファイアです。はい」
「ここにいるって事は日本国籍?」
「そうですハーフです。お兄さんは純血ですか? 純粋培養ですか? アニメオタクですか? オタクって全員メガネみたいなイメージがマスコミで流れてますがメガネしてないですね? コンタクトですか? フィルターですか? アンチですか?」
「ちょーとストッピング!」
「ピング? トング? トンボ? 秋ですか? 今夏ですよ? ネジぶっ飛びましたか?」
「お・ち・つ・い・て」
ペラペラと喋りだすコリスの口を手で塞いで、ため息を一つ。オレはそれでも口を動かし続ける感触を掌で感じてすぐに手を離した。
「う~ん、塩の味がしました」
「何⁉ 私でさえよー君の掌舐めてないのに!」
「張り合わなくて良いよ! あと塩の味は多分手汗!」
夏な上に動き回ってその上ツッコみまくっているのだから。
「ほんのり甘い味もしました」
「あま――甘い? それは心当たりないけど」
クンクンと自分の掌の匂いを嗅いでみる。汗の臭いと……チョコレート?
「あ、わたしがさっきまで食べていました。てへ」
「てへ、じゃないやい」
可愛い子とはいえ、唾液のついた手は……………………………いや、洗うべきですよね?
「コリスちん意外とあざとい?」
「わたしのお腹は真っ白ですよ。お姉さんの歯のように。色が塗られる前の塗り絵のように。雪のように。驚きの白さ」
にぱ~と笑うコリス。裏のなさそうな大きな笑顔だ。例えるならば、太陽。
「で、コリスはなんでタイムがかかってたのに街中にいたの?」
「あ~え~、不測の事態と言いますか不可避と言いますか不満と言いますか不純と言いますか……」
両手の指を顎の位置で交差させて、困り顔のコリス。
「私が当ててしんぜよう! ずばり! パペットを見失った!」
「えええええええええええ⁉ なぜわかったのですか超能力ですか読心ですか魔法ですか超科学ですか神さまですか⁉」
涙月、神さまに昇格。
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