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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第36話『遊ボ』

いらっしゃいませ。

 例えばこのフィールドを闊歩する恐竜。彼らはあくまでオブジェとして存在するのであって、攻撃を仕掛けてはこない。だからナノマシンによる顕現を認められているのだ。

 だが今のエネミーはどうだろう? プログラムされているとは言え敵だ。明確なる敵。彼らはオレたちユーザーを排除する為にいるのであって雰囲気を盛り上げる為にあるのではない。だから本来ナノマシンによる実体なんてあってはいけないのだ。

 なのに。


『遊ボ』


 ぽつりと、何かが囁いた。

 声に顔を向けてみると、足首に小人のパペットがしがみついていた。

 え? なに? パペット? 誰の? いやこのパペットは――


「アマリリス――」


 ぽそっと口からこぼれた名前。花の名前であり、かのAIの名前でもある言葉。アマリリスのパペットをデフォルメしたらきっとこんな感じになるのではないだろうか?

 小人は声に惹きつけられたのかぽかんとした様子で顔を持ち上げ、


『ママじゃないし……』


と呟いて足首から飛び離れた。

 ……なんか、オレが傷つけたみたいな……。

 そんな事を考えていると涙月(ルツキ)がオレの肩にぽんと手を置いて言ってくれた。


「ダメだぜ子供を悲しませちゃ」

「あ、オレのせいになった」


 ママは誰? って言ったら涙月はどんな反応するだろう?

 試してみたい気もしたが、それを実行するよりも早く小人が動いた。


『ミンナ行こー』


 小さな手を振って皆とやらに話しかける小人。

 誰? 誰が集まるの?

 と思ってみていたら、アエルやエネミーからピンク色の発光体が出てきた。発光体は粉みたいになっていて、風に流されないか不安げな動きで小人の周りに集まってくる。


「なんだなんだ?」


 涙月と二人して様子を見守っていると、小人はこちらに振り返って言った。


『バイバイ』


 小さく頭を下げて手を振り、去っていこうとする。オレたちは爽やかにそれを見守って――じゃない。


「ちょっと待って!」

『キャーびっくりんこ!』


 思わず飛び跳ねる小人。


「ご、ごめんびっくりさせて」

『もーダメでしょ』

「ごめんなさい……」

「よー君、押されてる」

「だって」


 うちの妹より小さいもんだから接し方がわからない。


「んじゃ私が代わってあげましょう」


 涙月が堂々と前に出る。なぜか自信満々に胸を張っているが、涙月の弟もこの小人よりは年上だったはずだ。


「君たち!」

『うん?』

「や~~!」

『キャー!』


 涙月は小人を抱き上げ、上に下に。要するに赤ちゃんや幼年期にしてあげる『高い高い』を繰り出した。


『キャー!』


 小人は楽しそうに笑い、叫び声を発している。

 おお……高い高いってちゃんと効果あるんだ……。


「うりゃー!」

『キャー!』


 今度は小人を高く掲げたままくるくると回る。オレは小人がすっぽ抜けて飛ばされないかハラハラしていたがそれは杞憂だったらしく、暫くすると涙月が目を回してぶっ倒れた。


『はぅ~』


 小人の方もフラフラとしていて、終いには地面にへたれこんで。


「ふ……ふふ……親の何と偉大な……」

「結構余裕あるね、涙月」

「よー君……心を開いてくれている内に何をやっていたのか聞くんだぜ……」

「う、うん」


 オレは涙月の上半身を起こして木の陰に座らせると小人の方に小走りで向かい、そっと抱き上げた。小人はまだ目を回していてふにゃ~と体を力なく横たえている。


「えと、話せる?」

『ば……ばっちこぉい……』


 腕だけを上にあげて、親指を立てる。ノリは良さそうだ。

 ピンク色の発光体は小人の周りを飛んでいて、オレはハッとした。

 これ、ナノマシン? 光っている粉――或いは霧に見えるが、その動きはドームで見られるナノマシンに近いものがある。あっちは水色だったけど。


「えっと、君はなんて呼んだら良いかな?」

『ばっちい……子ォイ?』

「いやそれは名前にしちゃダメかな?」


 回っていた目も回復してきたらしく、小人は首を可愛らしく傾ける。

 オレは横になっている小人を立たせて服についた砂を払ってあげた。すると小人は無邪気な微笑みを浮かべてオレの服についている砂を払ってくれた。


「ありがとう」

『どういたしましテ』


 小人はオレがした風に頭を少し下げてお礼を返し、涙月のところにテコテコと小さな足で歩いて行き、今度は涙月の服についている砂を払う仕草。


「おお……ありがとや我が孫よ……」


 いつからそんな関係に?


『ねーママ知らない?』


 小人は一連の作業を終えると、オレと涙月にそう聞いてきた。


「マ――」

『ご連絡します!』


 ママってアマリリス? と聞こうとしたのだがそこにアナウンスが入ってきた。彼女たち実況アナウンサーは本部テントに二人、日本エリアのゲーム会場に百人が散らばって各バトルの行方を随時実況している。TVでも流されているから皆容姿と声が良い。オレたちのいる場所の上空にも一人エア・ジェットと呼ばれる浮遊道具に乗った実況アナが漂っている。先程はいなかったが追いついて来たみたいだ。


『既に遭遇していらっしゃるユーザーの方も多いでしょうが現在エネミー及びパペットにナノマシンが同化する現象が起きています。ゲームを一時中断し、怪我をされた方はお近くのホスピタルエリアまでお越し下さい。

 ゲーム再開にはこれより十分いただきます。

 繰り返します――』


 つまり、十分で事を終えさせると言う決意表明でもあるアナウンスだ。オレは自分の体と涙月の体を見て、血は出て来ていないがこすった痕があるのを確認。


「涙月、ホスピタル行こう」

「我慢できるよ?」

「消毒くらいはした方が良いと思うよ。オレは男だからともかく涙月は女の子なんだし」

「……男女差別」


 と言い返してきたが頬は少し朱くなっていて、唇が波打っていた。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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