第34話『バトル――――――――スタ――――――――――――――――――――――――ト!』
いらっしゃいませ。
☆――☆
『改めて説明します。これが最後の説明なので聞き逃しがないようにお願いします』
夏休み、第一週。
『この後十時から開催される二年に一度の「パペットウォーリア日本代表決定戦」!』
元気に声を上げるのは大会メイン実況のお姉さん。
『小学生の部、中学生の部、高校生の部、社会人の部!
まずは
「北海」
「北陸」
「東京」
「京都」
「西京」
「四国」
「南州」
にて予選が行われます!
一日目! 第一次予選は都市にMR複合現実を被せたバトルフィールドにてバトルロイヤル! そこで残り十名になるまで戦っていただきます!
二日目! 第二次予選は一v.s.一! 五名が選出されます!
そして本戦!
第一戦! 計七地域の代表者五名とのチーム戦!
勝者チームはなんと!』
「世界へ⁉」
『おしい!
第二戦! 五名の内から一名をアーミースワローバトルにて選出!
各国各部門の代表者と共に舞台は世界に移ります!
第三戦! 各国各部門の代表者と世界戦!
最終戦! 雲上緑地都市にて部門を超えて優勝者を決定! 公式覇者が決まります!
エキシビションマッチで前優勝者「幽化」氏と対決! 非公式覇者が決まります!
よろしいですか⁉ よろしいようでしたら説明を終わります!』
打ち上がる花火。
色鮮やかな煙を引く空飛ぶ軍用機。
派手な演出だけどそれは良い。盛り上がるの大歓迎。
ただ。
「涙月、その格好何?」
「うちのお母さんが作ってくれたバトルコスチューム! かっくいいでしょ?」
「う~ん……」
足が、見え過ぎな気がする……健康的だけどさ。
「よー君こそきっちりバトルコスチュームじゃないかね」
「これはお姉ちゃんが着ていくようにって」
「ふむ……スーツをベースにしたデザイン性溢れる革の刺繍。そしてアスファルトの上でも滑るように走れるエアアップシューズ。
やるなお姉ちゃん」
『開始時刻まで三十分です! 今のうちに準備を整えましょう!』
綺麗にウィンクを決めるお姉さん。ノリノリである。
「あ、よー君、私おトイレ行ってくるね」
「うん。オレそこの松の木の下にいるから」
「らじゃ!」
そう言って駆けていく涙月。そう言えばさっきコークボトル一気飲みしてたな。
約束の松の木までとことこと歩いていく。その途中に――
「宵」
珍しく名前で呼び止められた。
「あ、繭さん」
「…………」
「……繭」
「はい」
オレ、女子を名前で呼びすてるの慣れてないんだよな……。
前に繭にそれ言ったら、
「へぇ」
で済ませられたけど。
「涙月から聞きました。アトミック・エナジーとの戦い勝ったそうですね」
「あ、うん」
「楽しかった!」
そう言ってアトミックは去っていった。
「彼、きっとその時より強くなってますよ」
「だろうね。
お兄さんは?」
「高校生用のバトルフィールドで貴方のお姉さんに会ったそうです。
一戦けしかけて、負けたってメールが」
「あ……はははは」
苦笑しかできない。
「? なに?」
繭がジーとオレの頭を見続ける。なんだろう? 寝癖はないはずだけど。
「…………」
一歩近づき、繭は変わらずオレの頭を見続ける。
「背、少し伸びました?」
「え? そう?」
「気のせいですかね、一ヶ月ですし。とすると大きく見えるのは――」
あの、顔が近いんですけど……。
「ハイストープ」
と、涙月が後ろからオレの口を塞いできた。
「それ以上の接近はNOですので」
「二人はお付き合いされているのですか?」
「そ――」
「そうです」
うん……まあ……ね。そうはっきり断言されると恥ずかしいのですが。
「では婚約を?」
いやいやいやいや。
「へ? いやそこまでは……」
ほら、涙月でさえ困ってる。
「そうですか。
では」
それだけ確認して、去ろうとする。
「ま――繭! 勝ち残ろうね!」
「――はい」
首だけで振り向いての返事。どこか、少しだけ笑ったように見えた。
「よーく~ん」
「痛い痛い頬つねらないで」
『バトルスタートまで五分です!
バトルフィールドを決定します!』
「あ」
フィールドの上空に巨大なルーレットが浮き上がった。
『選定スタート!』
ルーレットの針が回る。くるくるくるくる回って、止まる。
『白亜紀に決定! 映します!』
現実と映像が重なる。ビルは錆び、今にも崩れそうに草葉が絡みついている。
そこを往く恐竜たち。
白亜紀、と言うよりはるか未来で恐竜たちが復活したみたいだ。
『エネミーを放ちます!』
バトルフィールドに設置されていたヴァーチャルの網籠から『敵』が放たれた。
『エネミーは1P! パペット&ユーザーは5P!
リザイン宣言でその場は敗北! パペットかユーザーライフが0になったら退場です!
終了時刻になっても十名が決まらない場合ポイントで決します!』
「そう言えばよー君、あれからずっと【紬―つむぎ―】使ってるね」
『皆さま街への突入ポイントに移動しましたでしょうか⁉』
「うん。あの時みたいな事件があったら困るからね。
念の為」
クスクス
あの時あの時――
「「「――⁉」」」
冷たいパペットが、再び現れた。
クスクス
クスクス
『そいつ』は赤ん坊のように笑うと、すぐに消えていく。
「……あの子邪魔してくると思う、よー君?」
「じゃなきゃ現れた意味ないと思う」
「そっか……」
拳を握る涙月。その手が小刻みに震えていた。
「弟の仇じゃ! 今度は私のジョーカーぶち込んでやるわい!」
震えを勇気に変えて叫ぶ。
「いや、弟さん死んでないし」
「それだけムカついてるの!」
涙月が燃えていると場面転換を狙ったかのような合図があった。ポーンと言う軽い音だ。
この音は――メール。差出人は――
「幽化さんからだ」
『あれはAIの持つパペットだ』
「――え⁉」
オレは驚きに目を見開き、それに驚いた涙月が「ん~?」と覗き込んできた。
「AI? またAIが――人間を敵にしてんの? なんか恨まれる事誰かやったんかな?」
「いや……幽化さんは遊びだって言ったよ。遊んだ結果どうなるかわからないけど」
メールの内容はもう少し続いていた。
『電脳課から連絡があった』
電脳課とはインターネット、VR、AR拡張現実、MR複合現実を利用した犯罪に対抗する為に作られた警察の新しい課。
『全く、一般人に協力を仰ぐようでは先が思いやられる』
「あ……はは……」
『まあ、それはどうでも良い。
お前、削除したデータはどこに行くと思う?』
削除したデータ? どこもなにも完全に消えるんじゃ……。
『建前では消失になっているな。実際昔はそれであっていた。
しかしサイバー犯罪が増えた頃それは変わった。決して公にするな』
オレは涙月の顔を見た。そしたら涙月もオレの方を見ていて、二人、目が合うと「うん」と頷きあった。
『善し悪し全てのデータをチェックする為に一時削除データを貯めるシステムが作られた。システムは電子サイトの最奥にあり、通称“メル”と呼ばれる。
実際、フランスで始まったこれのおかげでサイバーテロを起こす人間は大量に捕まった。
だが――
何兆と集まったデータは偶然一つのプログラムを作る形に並んでしまう。
それがあのパペットのマスターユーザーだ。偶然生まれた優秀すぎるAI。
未知のプログラムを容易く作り出す情報の究極。
目撃されているAIの髪飾りから“アマリリス”と名付けられた』
「前にTVでやってたよ、よー君。
真歌さんたちの言うとおりにこのままAIの精度が上がっていけば人間より上に立つだろうって」
「そっか……情報の究極AIアマリリス……下手したら物凄くまずい流れになるんじゃ……」
「二十一世紀にあった人とAIを対話させた実験じゃ悪人さんを称えるようになっちゃったって言うし、人とAIの戦争? もあり得るのかな?」
オレと涙月はこっそりと話を続ける。人の少ない所に行こうかとも思ったけど、ちょっと怖くなってしまったから場所は移さないでいた。
「……うん、かも知れないから、遊びで済んでいる今のうちになんとかしなきゃ」
「アマリリスと逢って、悪い遊びを続けるようなら叱ってあげよう。悪い奴に会う前に」
「――うん。そうだね涙月。
オレたちがアマリリスを、必ず」
しかし、叱る側が情けなかったら意味がない。
だから。
「この大会、絶対に優勝する! 必ず!」
『えーハプニングがありましたが、時間です!
皆さまよーい!』
「まずどうする? よー君」
「海岸に行こう。海岸ならエネミーの接近にも他のユーザーとパペットの接近にも気づける」
「了解」
さて、いよいよ。
『バトル――――――――スタ――――――――――――――――――――――――ト!』
パペットウォーリア、開幕だ。
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。