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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
333/334

第333話「喜怒哀楽全てを経験し、『成長』していけ」

いらっしゃいませ。

是非に読んでいってください。


「最高管理?」


 涙月(ルツキ)の中にいる星冠(ホシカムリ)最高管理。珍しく声が緊張を帯びている。

 異邦人……てさっき話に出てた――


「前の世界の生き残り、だよよー君」

「前の世界」

<異邦人については詳しい情報を送ります。

 幽化(ユウカ)星冠卿、貴方は本当に?>

「……っち」


 舌を打つ幽化さん。その間に最高管理から【覇―はたがしら―】に異邦人についての情報が送られて脳にインプットされる。

 カムリ、それが幽化さんの本当の名前だと彼自身が言った。

 ただ名前がかぶったと言うだけではなく、


「異邦人……カムリ……」


神さま、であると?


「……この姿では久しいな、“閉ざす人”」


 言葉を向けられた“閉ざす人”は幽化さんをじっと見ている。攻撃するでもなく。


「お前とはこの世界を開いた時に顔を合わせて以来だ。せめて一つ泡を吹いて去れ」

「え? 倒すんじゃないんですか?」


 去れ、と言う言葉が気になった。


「あれは(コトワリ)だ。倒すなど不可能。初めから考えていない」


 マジか。


「んじゃどうするっすか?」

「あれにここが閉ざす必要のなかった世界だと認識させる。少しの後悔が奴にとっての泡だ。無条理に振るわれる力を今後そうさせない為のな」


 成程。双子世界までも閉ざされてしまったら冗談ではない。


“この愚生が何も感じていないかと言えば異なるのだが”

「「「――!」」」


 今の声、は――まさか。


「“閉ざす人”が喋った?」

“この愚生が言葉を持たないと言ったかな”

「言ってないけど……」


 会話が成り立つならもっと早く教えて欲しいものである。


「で? 感じているのか?」

“無論である。この愚生は常に悩み、苦しみ、後悔している。そう、後悔しない日などあるものか”


 それは自分の存在を揺るがすもので。


「ならばなぜこの世界を閉ざした? まだ老い尽きる時ではないだろう」

“この愚生の役割である。目覚めた時それこそ世界を閉ざすべき時”

「違うな。お前は切縁(キリエ)・ヴェールに目覚めさせられた。

 それはイレギュラーであるはずだ」

“否。

 彼女の行動、その他全ての行動がこの愚生を目覚めさせた。それは世界を閉ざすべき時である。

 よって、この愚生は彼女の言う双子世界に渡ったこちら側の生命を閉ざす必要がある”

「「「――!」」」


 全員――死なせると、そう言うのか。


“それが、世界を閉ざすと言う事であるゆえに”

「そうか。ではここで――」

「ふ・ざ・け・ん・なー!」


 怒声を上げたのは、涙月。


「皆精一杯生きてんのに! それを閉ざして後悔⁉ あんたはあんたの運命を変えようとしてないだけじゃん! 後悔する資格すらないよ!」

“この愚生が運命に? それこそ愚か。運命とは決して変わらぬものを言う。変えた気になっているだけである”

「それでも――」

“生きるもの全て、役割に殉ず”

「貴様の戯言など、私めには必要なき事だ」


ド――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!


“――⁉”


 なっ?

 黒い体、“閉ざす人”の腹から一本の腕が生えた。嘘のように真っ白で、とても華奢な腕だった。その手に握られるものは、“閉ざす人”の(コア)で。


「切縁・ヴェール!」

“この愚生を――”

「“産まれの()”は手に入れた。次は貴様の力“死まいの灯”だ」


 言葉の終わりと同時にオレは斬撃を飛ばし、涙月はランスを突いて、幽化さんが発砲した。


「イエル」


 しかし現れたイエルに当たると全ての威力が0まで落ちて。


「私めのイエルを貫くなどできないさ。

 これの防御は絶対母性。あらゆる攻撃性から私めを護り抜く」


“閉ざす人”が渦を巻く。体が歪んで回転し続け、小さな渦となってイエルの中へと消えて逝った。

 これが――パペットに喰べられると言う事か。


「これも絶対母性の一つ。胎内に宿しイエル自身の力として再度産み落とす。

 そしてこれが攻撃の要。流産」

「「「――⁉」」」


 突然心臓がはねた。あり得ない程に大きく、ドクンドクンと音が聴こえる程に。その心拍が段々と弱く、少なくなっていく。

 これは……。


「流産の力を受けて貴様たちは死に至る」


 嘘だ。そんな絶対的な力がある何て……。


「例えカムリ、貴様でもだ」


 見れば幽化さんも苦しそうにしている。

 三人の命は、ここで途絶えて――


「は~いインフィで~す」


 …………お?

 場にそぐわぬゆったりとした口調。少し可愛めの声と共に現れたるは仮想災厄ヴァーチャル・カラミティの一人、インフィだった。


「ゴメンねぇ切縁グランマ。

 でも『(コトワリ)』を裏切るのに使われちゃったから、これは仕返し。

 貴女の能力を裏切るよ」


 ――!

 心拍が、正常な心拍が戻って来た。


「――はぁっ!」


 肺の空気を刷新する為に大きく息を吐いて吸い込む。


「涙月!」

「問題ナッシング!」

「古いな!

 幽化さん!」

「誰の心配をしている」

「ですよね!」


 どうやら二人も助けられて正常な状態に戻ったらしい。


「インフィ! ありがと!」

「ど~致しましてぇ。んじゃ怖いのでこの辺で。ドロン」

「君も古いな!」


 同時に潔い。ひょっこり現れて脱兎の如くに去っていった。


「ふむ」


 能力が敗れたにも拘らず切縁・ヴェールは怒る事も焦る事もなくそれどころか感心したように顎に手を当てた。


仮想災厄ヴァーチャル・カラミティとは言え我が一族にしてやられるとは。私めの力もまだまだだな。

 だが良い。それは私めにもまだ成長の余地があると言う事。実に喜ばしいな」


 全っ然喜ばしくない。これ以上強くなられては正直困る。

 もしもう一度同じ攻撃をされようものなら――


「二度はないらしい」

「え?」

「インフィの力はまだ私めに残っている。一度裏切ったものは暫く効果ありのようだ。安心しろ」


 と言われても、全く安心できない。だって切縁・ヴェールの実力は流産能力だけではないのだから。


「さて、では貴様たちに聞こう。

 この世界は閉ざされた。双子世界は無事だ。閉ざす力は私めの中。

 この状況で貴様たちが私めと戦うのに何の利がある?」

「地球人――地球産の命はどうなる?」

「さあどうしようかな? (ヨイ)、貴様はどうして欲しい?」


 どうして? 決まっている。


「双子世界に生きられるなら皆を生かして――」

「それに意味があるかな?」

「奪わなくても良い命だろう」


 皆必死で生きているのだ。


「であるならばなぜ命と言うものは消えて逝く? なぜ命には寿命と言うものがある? 時間に命を奪われるのは皆平等だろう? ならば貴様は時間に喧嘩の一つでも売るのか?」

「それは……」


 その手の話は考えた事がない。


「一方で私めが奪うのはダメだと言う。その根拠は?」

「くだらんな」


 ぴしゃりと切って捨てたのは、幽化さん。


「命が逝くのは凝り固まった思想思考を刷新する為。お前が奪うのにそんな理由があるか?」

「ないな」

「ならばお前の殺しは否定されて当然だ」


 銃口を切縁・ヴェールの眉間に向ける。


「成程。ではこう言おう。

 双子世界の地球には生物が存在する。知性体だ。二つの知性体は果たして共存可能か?」

「難しいだろうな」

「そうだな。人間など二人いるだけで争いを始めるのだから。

 ならこちらの地球人はどうしたら良い? 争わせ、主権を握らすか?」


 それはさせられない。誰かがやろうとしても止めて見せる。

 だから共存を目指し――


「オレたちは双子世界の月に住む」

「「え?」」


 月に?


「異地球を眺めて住ごすか。それで満足できるか?」

「統率するさ」

「ふむ……」


 思案する切縁・ヴェール。幽化さんの案が通ろうとしている。


「切縁・ヴェール、お前の目的は既に果たされている。それを忘れるな。この勝負はお前の勝ちだ」

「そうだな」


 ……確かに、悔しいけれどこの世界は閉ざされ、切縁・ヴェールは時間を創造した。間違いなく勝敗は決している。


「良いだろう。貴様たちは月に住め。宵も生かしてやろう」

「……ありがとう」

「礼を言うか。ふっ、宵、貴様どこまでも人の好い事だ。

 涙月」

「ふへ?」


 涙月も勝敗を感じ取っていたのだろう。悔しそうにしていたところに声をかけられて変な返事になっていた。


「貴様は知らんだろうが私めには想像がつく。貴様の仮想災厄ヴァーチャル・カラミティとしての能力、異地球人に使うと良い」

「能力……」

「きっと貴様たちの役に立つさ。

 で、ユメ、ピュア、貴様たちはどうする?」

「え?」


 切縁・ヴェールの視線を辿って振り返る。するとそこにはユメとピュアが。


「さあ、どうしよう? 切縁が一緒にいたいって言うならいるけど」

「私めが言うとでも?」


 ふっ、とこれまでとは違う意味の笑みを浮かべた。どこか、優しい笑み。


「思わないね。それじゃこちらから言おうかな? これからは家族として暮らさない?」

「家族か」


 すっと瞼を降ろす。


「――まあ、それも良かろう」


 ゆっくり、瞼を持ち上げながら。


「では行くぞ、我がひ孫共」


 どこかに繋がるゲート現出。行先は――本当にどこだろう?


「ユメ」

「君に言おうと思っていた事がある、宵」

「何?」

「期待には応えられないけれど、礼を言うよ。

 星冠に誘ってくれてありがとう」

「……うん」


 多分、オレは笑っていたと思う。ユメと同じように。


「ピュア」

「何? 涙月」

「良いお嫁さんになれよー」

「……そうね」


 こちらも先程の切縁・ヴェールと同種の笑みを浮かべて。


「では往くぞ」

「「はい」」


 そうして、三人はゲートを潜って消えて行った。行く先を伝えないままに。


「……っ……」


 それは誰の嗚咽だったか。


「悔しいか? 宵、涙月」

「……はい」

「ん」


 二人の言葉に、幽化さんは一度だけ頷く。前を見つめつつ。


「……オレもだ。

 だが忘れるな。人は勝利だけでは歪んでしまう。敗北を経験し立ち上がった時に得られるモノこそが本物の強さだ。

 喜怒哀楽全てを経験し、『成長』していけ」

「「――はい!」」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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