第332話「オレの本当の名は―――――」
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
「本来魂とは意識体である霊体に護られている。体は世界に干渉する為のものでこの三つは繋がっているのが通常だ。が、今ここに霊体はない。それを今からオレが連れ戻す」
そんな事を――
「どうやって?」
「コラプサーで引き寄せてオレの体に入る前に切る。どうやら体からの出入り口は“閉ざす人”に鍵をかけられているらしいからな」
「それって……失敗したら?」
「死ぬな」
「んなあっさり」
「それよりだ。お前は奴を近づけさせるなよ」
眼だけで横を指す。その先にいたのは黒炎の女性“閉ざす人”。
「オレの邪魔をするな。宵を助けたいならな」
「はっはい」
幽化さんは完全に涙月からオレの体を受け取り、銃口をその魂に当てた。
涙月が“閉ざす人”と対峙したのを認めて、引き金を引く。
(――!)
オレの意識が引っ張られる。しかし力は充分には届かずにこの空間から出ていけない。
「……っち」
舌打ちが聞こえた。すると幽化さんは思わぬ行動を取った。オレの魂と自分の額を合わせたのだ。途端流れ込んで来る強力な力の波動。
何だ? 星章でも人の愛情によって作られる力でもない全く別の力を感じる。これを幽化さんが?
川となって流れる力にオレは身を委ねる。すると自然と体が流されて――
「―――――――――――――――――――――――――――――――――はぁ!」
オレは大きく息を吸った。随分久しぶりのように感じる呼吸だ。【覇―はたがしら―】で作られる空気はとても澄んでいて気持ち良かった。
「戻ったな」
「は、はい……ありがとうございます。でも……貴方は一体?」
何者なんだ?
「……つまらん事だ。だがお前には教えておこう。
オレの本当の名は―――――カムリだ」
「咆哮!」
「のわぁ!」
放たれた炎の息吹に涙月は慌てて横っ飛び。その上を咆哮は駆け抜けて“閉ざす人”の直前で捩じれて消える。
「お? おお、よー君。戻った?」
「うん」
ぺちぺちとオレのお尻を叩いて来る涙月。なぜ肩ではなくお尻……。
「んでも今、私に当たりかけたけど? 言いわけがあるなら聞こうか」
「オレ、涙月の上に飛ばしたんですが」
横っ飛びは意味なかったと思うのだ。
「熱でガングロギャルになるところだったわい!」
「んなバカな!」
ガガ!
「「うわぁ!」」
二人してとぼけていると後ろから銃弾が二つ飛んで来た。勿論オレたちに直撃するコースでだ。
「「幽化さん!」」
「苦情は受け付けん」
「「あ、はい」」
確かにバトル中にふざけたオレたちが悪いのだけど……だけど。
「どんな調子だ? 涙月」
「え、えっと。ダメですどんな攻撃も“閉ざされて”しまうっす」
「そうか」
そう言うと幽化さんは“閉ざす人”に向けて銃弾を一つ撃った。しかし先の咆哮と同じく直前で捩じれて消えてしまう。
「……だが当たる攻撃もあった。あれの“閉ざす力”は万能ではない。恐らくは発動までのタイムが関係していると見たが」
「『溜め』の時間が必要って事ですか?」
「ああ」
「それなら」
オレは涙月と目を合わす。オレの言いたい事がわかったのか涙月はすぐに頷いた。
「私が近距離で、よー君が中距離、幽化さんが遠距離で攻撃を続ければ力を溜める時間はない」
「良し、行って来い」
「「はい」」
まず先手は。
「一刺し必中!」
涙月の西洋剣にも見えるランスの一刺し。顔面を狙ったその先端部を“閉ざす人”は右の手で受け止める。つまり右手が塞がれた状態だ。だからオレは右手に回り込んで、
「威閃!」
斬撃を飛ばす。
と、“閉ざす人”の口が開かれる。
アッ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
透明な叫び。それが斬撃に当たる前に。幽化さんの銃弾が“閉ざす人”の頬に当たって閉ざす力が途切れ斬撃が黒い首を――狩った。そう思ったのがダメだったのか、“閉ざす人”は自分の左手で首をキャッチ。何事もなかったように元あった場所にくっつけた。
「これは――」
普通の生物の常識に当てはまらないならば、核持ちだ。
「繰り返せ、宵、涙月」
「はい!」
「いえっさ!」
と言う涙月はまだランスを掴まれている状態。どうするのだろう?
「螺閃!」
何とランスが高速で回転したではないか。回転するランスは“閉ざす人”の掌を開かせて、自由を取り戻したランスが黒い肩へと飛び込んだ。
「――セッ!」
その隙を逃さず威閃の連撃。左肩、両太腿を狙った三連撃だ。そこに飛来する銃弾。今度は“閉ざす人”に叫ばす時間も与えない幽化さんからの援護射撃。それは一寸のブレなく“閉ざす人”の口内へと飛び込んで喉を破る。更に三斬撃が着実に手足を斬り取る。
アッ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
“閉ざす人”はよろめきながらも叫び、体全体が形を持たない黒炎となって収斂。元の姿を取り戻した。
今、確かに胴体のあった位置に黒炎は集まった。ならまず間違いなく胴体に中心となる核があるはず。
「んじゃ行きまっせ!」
回転するランスが“閉ざす人”の臍を狙う。オレも続いて威閃を、胸を横に割く形で繰り出し、次いで幽化さんが――
「散弾」
え?
まさかのまさか、銃口から飛び出た銃弾は目標に到達する前に割れて小さな銃弾が山となって“閉ざす人”の胴体へと降り注いだ。
「わ! わ! わ!」
散弾を浴びそうになって涙月は慌てて逃げだして。
「ちょっと幽化さん!」
「お前も手を隠していただろう」
「う」
あ、しまった。オレ、隠し手何て持ってない……。
一抹の悔しさを感じながらオレはそれでも紙剣を構えた。なぜなら“閉ざす人”の体がこれまでに見た事のない動きを見せたから。
女性の形を保っていた体が震え、崩れていく。これは核に――
「あれか」
核と思われる物体が臍の下から現れた。小さな黒いピラミッド。それに一つの銃弾が穴を開けていた。
ヒットした。これで“閉ざす人”は。
死んだ、そう思った。なのに核が黒炎に変わって刺々しい形に変貌する。
ラッ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
「「「――⁉」」」
“閉ざす人”の叫びが変化した。
核に向かって黒炎が収斂し、大きな黒い光の翼を以て復活。伴う威圧感がより洗練されて感じられ、三人は冷気に似た殺気を感じ取った。
ラッ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
翼が振動する。気泡が翼の中を流れて、射出。オレたちに向けて放たれる金の鏃の雨。
これは、閉ざす力の凝縮! しかもその数、数千。
「くっ!」
回避はできない。オレはエナジーシールドを全開にして鏃を防ぐもシールドが閉ざされて、飛び込んで来る鏃を紙剣で斬り落とそうとするも紙剣すらも閉ざされる。だから鏃を幾つも喰らってしまった。
まずい、これはまずい。
傷は負っていない。ただ閉ざす力が体に流れ込んで来る。【覇―トリ―】の力が閉ざされ、パペット・キリエとの同化が解ける。
「涙月!」
を見るとそちらも同じ状態で。
幽化さんは?
「……え?」
幽化さんを見るとそこに幽化さんはいなかった。
否、正確に言うならばオレたちの知る幽化さんがいなかったのだ。
いたのは――人の形に良く似た光の生命体。
何だ? あれ?
<まさか――異邦人>
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




