第331話「異邦人? それってどこの人?」
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
星冠、魔法処女会、王室ネットワーク、アンチウィルスプログラム、パトリオットの各面々が世界に回って一分弱。涙月と幽化さんがオレの――“閉ざす人”の左右に陣取っていた。
今も世界は崩れて逝っていて特に“閉ざす人”の周辺はもう元の様相を取っていない。白い、ただ真っ白な空間とすら呼べない場所に三人はいた。
「宇宙には最初空間もなかったって聞きますけど」
「無だったと言う考えだな。恐らくはこの状態がそうなのだろう。
最高管理、識っているな?」
<はい。私には世界の成り立ちの記憶があります>
「え? 最高管理ってそんな昔からいらっしゃるんですか?」
<ええ。とんでもなくおばあちゃんですよ>
「ほえ~、んじゃ何で無から“産まれの灯”が誕生したのか知っているんですか?」
<そうです。
この世界は――
三体の異邦人が宇宙卵である“産まれの灯”を創り出した事から始まります>
「へ?」
いきなりの告白に涙月は間の抜けた声を上げた。“閉ざす人”の中から聞いているオレもだが。
「異邦人? それってどこの人?」
<世界は開いては閉じ、閉じては開いてを繰り返しています。世界と言えど成長には限度があり固定する力が老いるのです。異邦人とは一つ前の世界を生きたものの生き残り――最後に残った至高の存在と言って良いでしょう。
彼らの名は
【フィエル】
【カムリ】
【トーカ】
行方は三体とも知れません。私を構成する意識からは外れているので今もいらっしゃるのかもわかっていません>
「その人たちって人の進化に手を貸しました?」
あ、涙月ちょっとワクワクしてる。
<いいえ。であれば私が知らないなどありませんから>
「んじゃ進化のミッシングリンクはただ解明されていないだけって事っすね」
<さぁどうでしょう?>
「ええ?」
涙月をからかうように。最高管理の事だ、場の緊張を少しでも和らげようとしてくれているのだろう。
<言ってしまってはつまらないでしょう?>
「そうですけど……」
「それよりもだ」
「あ、はい」
「見ろ」
言って脚の遥か下を目で指す。
「最早地球が消え去る直前だ」
「……皆避難したでしょうか?」
肯定して欲しかった。が、幽化さんは。
「双子世界に渡った途端切縁・ヴェールに襲われているかもな」
「ちょぉっと!」
<エリアデータバックアップで復元をするべきでしょうか?>
「いや、双子世界に生きればそれで良い。
お前たちは地球でないと人を名乗れないと思うか?」
「……いえ」
<重要なのは心です>
「そうだ。移住先に何者が産まれているか不明だがそこにいてもオレたちは人。それさえ忘れなければ問題ない。
さて。終わりが近いな」
“閉ざす人”の行いが終わろうとしている。
世界は無に帰って――帰って、また世界が始まるのだろうか?
「最高管理、ここの無はどうなるんでしょう?」
<異邦人がまた世界を産む可能性はありますが、それとて生命が産まれるのは何億と言う時間が必要となります。私はともかく、御二人は……>
「そう言えば綺羅星とエレクトロンがタイムポーテーションを計画してましたなぁ。それでずっと未来に飛べるかな?」
<それも面白いですね>
「――終わったようだ」
見回すと世界は最早なく。一面の白だけが埋め尽くしていた。
「【覇―はたがしら―】がないと呼吸もできないんでしょうね」
「ああ、決して解くなよ」
「はい」
“閉ざす人”の叫びは途切れていて、涙月と幽化さんを不思議そうに眺めていた。閉ざす事のできていない二人を。
「【覇―はたがしら―】が保っている内に“閉ざす人”を切り離す」
「はい!」
銃口をオレに向ける幽化さん。え? “閉ざす人”じゃなくてオレに?
撃ち出される銃弾。バチン! とオレの耳に当たって銃弾はポロリと落ちた。
「ちょっと幽化さん⁉ 何でよー君に⁉」
「銃弾をゴムに変えた。激痛はあるだろうが死にはしない」
「あ、そんな事もできたんですかい……」
確かにむっちゃ痛いけど……死んでないな。オレは良くわからない空間で耳を摩る。こんなとこでも痛みはあるんだな……。
「宵の方をショックで起こすのは無理か」
起きてはいるんですけど。意識と体がリンクしないんです。
再び銃を構える幽化さん。
一思いに引き金を引いて、今度は“閉ざす人”の肩へと銃弾を飛ばした。“閉ざす人”はそれをオレの体ごと前転してかわす。
「避けたな」
「避けましたね。反応速いっ」
「そうではない。効かないなら避ける必要がないと言う事だ」
うん? すると。
「当たれば効くようだな。涙月、あれを捕えろ」
「うっす! 一刺し必中!」
ランスを以て突撃。狙いは――“閉ざす人”の胸の中心。どんな生物であれ体を固定している中心があるはずで、それが胸の中心だと読んだのだろう。果たしてそれが正解だったのか、“閉ざす人”の腕が伸ばされ形を変えた。涙月のランスと同じ形に。
「――⁉」
ランスの先端と先端がピタリと合う。両者の力も同じらしく一ミリも動かない。少しずらせば良いのかも知れないが寧ろ涙月はこの状況を好都合と見たのだと思う。あえて動かさないで硬直状態に持っていった。
なぜなら。
銃声。幽化さんの放った銃弾が“閉ざす人”の胸の中心にヒットした。
よろめく“閉ざす人”。ランスに込めていた力も抜けてここぞとばかりに再度突き出された涙月のランスが更に胸に空いた穴へとめり込んだ。
「避けろ」
「へ?」
「爆散」
「うぉう⁉」
“閉ざす人”にめり込んだ銃弾が中で砕けて散る。その破片は内側から“閉ざす人”を傷つける。涙月の方にも飛んで来たから慌てて身を引いていた。
「コラプサー」
幽化さんの体のあちらこちらで吸収の力が発動し、“閉ざす人”の黒炎の体が吸い込まれる。
アッ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
開かれる黒い口。それから放たれる無音の透明な声。
すると幽化さんのコラプサーが閉ざされた。花弁のように散っていく力の残滓。それらを貫いて出て来た幽化さんの掌が体を取り戻した“閉ざす人”の顔面を掴んだ。その瞬間に放たれた膝蹴りが顎を撃ち、超至近距離から銃の二連射。“閉ざす人”の両手首を撃ち抜いて、更に足首を穿つ二連射。トドメとばかりに銃口を黒い口内へと刺し入れてゼロどころかマイナスの距離で撃った。
「うへぇ」
その容赦ない攻撃に思わず声を出す涙月。幽化さんはそんなのには気を取られずにオレと“閉ざす人”を引き剥がしにかかる。
手首を撃たれたせいで“閉ざす人”の腕はオレの体から離れていて、引き剥がす事は容易にできた。物理的には。
「受け取れ」
オレの体を乱暴に涙月へと投げつける。
「わっ」
涙月は慌ててオレの体をキャッチして、頬をぺちぺちと叩き始めた。
「オーイよー君朝ですよー!」
貴女はオレのママンですか?
涙月の声は聞こえているのだ。だけどオレは閉じ込められた空間から出られずに……。
くそ……男女差別する気はないけれど男として情けない……。
(キリエ!)
閉じた空間でパペットの名を呼ぶ。応えてくれる声は――ない。アイテムの人魂を出そうとしても出てくれない。
せめて、せめてどちらかの紙剣があれば。
「物理的に離してもムダらしいな」
聞こえて来る幽化さんの声はいつも通りの声色で。彼が焦っていないだけでも少しばかり救われる。
しかし“閉ざす人”は幽化さんの掌に顔を掴まれたまま尚も健在。
貫かれたはずの口が再び開き。
アッ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
叫ばれる透明な声。
その時幽化さんの体から電気に似た光がスパークした。
「オレを閉ざしに来たか」
だができなかった。それは幽化さんの体が希望で満たされていたからだ。
「ふっ」
短く息が吐き出され、幽化さんの蹴打が“閉ざす人”の首に当たり黒炎の体を遥か彼方まで蹴り飛ばす。
……幽化さんって体術もいけるクチだったのか……。
「涙月、そこの寝坊助の体を持って来い」
「え? あ、はいっ」
言われていそいそとオレの体を差し出す涙月。
寝坊助……。
「何するんですか?」
「強制的に叩き起こす」
そう言うと幽化さんは銃を持たない左手をオレの胸に当てると、希望でできた掌を胸の内側へと入れた。
「ちょ⁉」
「黙れ」
「あ、はい」
幽化さんが刺し入れた掌はオレの中で握りしめられて、抜き出された。その掌の中にあったのは桜色の光球。
「な、なんですかそれ?」
「魂だ」
「た――」
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




