第33話『さあ! 勝負が決着を見ました!』
いらっしゃいませ。
なん……。
唖然茫然。オレの力なのにオレの頭がついていかない。
え? なに? 神さま降りてきたの?
「真歌!」
一目散に少女に抱きつくのは真帆先輩。
神さまではなかった。真歌さん、真帆先輩の想い人。
『おーおー。
泣くな泣くな。
そんな顔させたかったんじゃないんだから』
言いながら、真歌さんは真帆先輩の頬に両手を当てて。
『あんたも出といで』
真帆先輩の口に指を突っ込み、カプセルを取り出す真歌さん。
そして彼女は。
『せーの』
あっさりとカプセルを割るのだ。
『人工心臓がちゃんと機能しているみたいだからさ、維持カプセルはもういらないでしょ』
『真歌』
『あんたも面倒な立場だからさ、悪いと思っているよえにし。
真帆。
折り鶴を取って』
「ん」
ふわふわりと浮き続ける折り鶴を両手に降ろす真帆先輩。
『実はこれ、白紙です』
「「「……は?」」」
いや、気持ちを綴ったんじゃないんかい。
『いろいろ考えたんだけどさ、真帆を縛りそうだからやめといた。
まあ? 結局こんな事になったんだけど。
ごめんなさい』
軽く頭を下げながら。
そんな真歌さんに真帆先輩は。
「真歌。
わたしは……わたしも、連れていってほしか――あう!」
必死に心情を訴えようとするも真歌さんにデコピンを喰らってしまい。
『そんなん言わせる為に遺したんじゃありません。
真帆にはきちんと幸せになってほしかったから遺したんです』
「真歌なしで幸せ何て――あう!」
デコピン、二発目。
あ、そう言えばコピーの珠が消えている。
他所に注意を向けられるようになったのは場の空気が緩んだからか。
『真帆にはね、やってほしい事もあるんだ』
「?」
『パペット含むAIに人権を与えるよう動いてほしい』
「人権?」
AIに、人権。
理想的なAIの保護方法だけれど、難しいと思う。
AIを道具だと考える人はまだまだいるから。
『けれど動いてほしい。
聞いたよね? いずれパペットと人間の立場は逆転するって』
「うん」
『逆転するのはパペットだけじゃない。全部のAIとだよ。
そうなる前に、AIロボットの真帆に頼むのはおかしいかもだけど、AIが上に行く前に人権を与えて人とAIを同じレベルの両翼にしてほしい。
これが実現すれば人の尊厳もAIの尊厳も守られるから。って死んでから思いついたんだけど』
その時だ。
小さく ピシ と言う音が鳴ったのは。
『ああ、神木の限界だ。ひびが入ったね』
「真歌!」
右腕から始まったひびが大きくなっていく。
どんどん、どんどんと全身にひび割れが起こってしまう。
『頼んだよ、真帆。えにしも。
それと、愛してたよ』
愛してた。
あえて過去形にしたのだろう。真帆先輩に前を向いてもらう為に。
魂を鼓動に乗せて、想いを心に乗せて、誰よりも強く一歩を踏みこんでもらう為に。
『宵少年の言葉を借りようか。
夢を、全てに乗せて活きるんだよ、二人共』
「真歌!」
『バイバイ』
神木が割れた。
割れて炎の人魂へと姿を戻した。
途轍もなく力強く咲く花のような真歌さんの笑顔を皆の心に刻みつけて。
「……ごめんね、情けないわたしで、ごめんね真歌」
『真帆……』
「うん、わかってる……これからは、強くなるよ。
ただ今は、今は……」
涙した。
大きく声をあげて、真帆さんは涙を流し始めて……。
『……皆、僕たちはリタイヤする。
僕たちの生きる意味はもうここにはないから』
真帆先輩の頬にすり寄って、えにし。
この二人はもう独りぼっちじゃない。これからはちゃんと共に活きられるだろう。
これで、残るは四人か。
「いや、俺はリザインする。
宵くんに敗けた身だしな。
だから残りは三人だ」
「わたくしと――」
「私がバトルするよ。
途中だったし再開再開」
フィールドも随分小さくなった。残り時間も僅かと言う事だ。
オレと樹理先輩は二人から離れてバトルを見守る事にした。
ただその前に。
「涙月」
「ん?」
オレは涙月に向けて、右手の親指を一本立てておいた。
それを見た涙月も同じく親指を一本立てて。
「……樹理」
「いや、俺は恥ずかしい」
「はあ、まあ良いでしょう。
では涙月さん」
「はい!」
両者身構えて――
「「勝負!」」
バトル再開だ。
『さあ! 勝負が決着を見ました!
勝者二人は――』
「派手にやられたな、蕨」
「貴方が親指立ててくれなかったからですよ」
「ええ……」
元気いっぱいな実況さんの声を聞きながら、横になる蕨先輩に付き添う樹理先輩。
その一方で。
「おめでと、立てる涙月?」
「ん~、ダメだぁ。体力使い切った」
こちらも横になっていたり。
『勝者は天嬢 宵選手! 及び高良 涙月選手です!
お二人は予選への道に立たれました!』
拍手が起こる。歓声が起こる。
まあ、一部はオレへの不満からかブーイングもあるが。あるが、彼らには親指を一本立てておいた。
頑張るぞ、と言う意味を込めて。
『では閉会式を始めまーす!』
◇
「はあああああ。
日本への帰国かあ」
閉会式を終えて午後。オレたちはアーミースワローに乗って帰国の途についた。
流石に疲れたのか波月は大人しくベンチに座っている。
「激疲労きてるけどもうちょい遊びたかったぁ」
ああ、何となく気持ちわかる。
疲れてはいるけれど名残惜しいのだ。
「大丈夫。オレたちはきっと――絶対にハワイに凱旋するから」
「ん。だね」
日本に戻り夏休みが来たらいよいよパペットウォーリアが始まる。
どんなライバルが現れても構わない。絶対に勝って見せる。
オレはちらりととある人物に目を向ける。
目標である男性、幽化さんに。
あの人を超えたい。いや、追いつき、そして超えるんだ。
夏が、本格的にやって来る。
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