第327話『余は天を統べる天空神。地を這う狼を潰す手ならば残っている』
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
「……撒いたかな?」
レヴナントの位置より凡そ三キロメートル離れた場所で僕は一息ついた。あの光にはコンピュータの機能を一時的に機能不全に陥らせる効果がある。でなければ自分の動きを追尾されていただろう。
「早く無限吸収の秘密を……それには――」
もっと吸収されなければ成らない。下手を撃てば自分の意識を失い兼ねないが、やるしかない。
「――真央真牢の光――」
少し前に宵を封じ込めた光で自らを包み込む。少しでも吸収を遅らせる為に。
「良し、あとは流れに乗って……」
自分の位置を固定していた力を解く。するとまるで水に流されるかのように球体ごと体が流れ出す。
「……思ったよりも流れが速いな……ピュアかな」
外で戦っているピュアの力が吸収されて流れ込んで来ているのだ。
「もってくれよ……ピュア」
流れ流れ、流れて行き――――――――――――――――流れが緩やかになった。
「ここは――まだ終点じゃなさそうだけど」
球体から外を見るに、
「吸収した情報の転送空間、と言うところかな」
外は一面の白。自分が潜ったと思しき黒い円形の穴があって、遥か先にも同じような穴がある。ここに送られて来た情報は僕と同じく緩やかに漂っていて、先の穴へと向かう道すがら整理されていると見える。
「……行こう」
誰に言うでもなく。
僕は球体を動かして穴へと向かっていった。が――
『やはりここに来るか』
「――!」
一体いつ見つかってしまったのか。背後にレヴナントの姿があった。それを声だけで認めた僕は一目散に――出口の穴へと向かった。
『良い判断だ』
僕はここにレヴナントと戦いに来たわけではないのだ。狙いはレヴナントの、幽化の吸収が無限に行われる秘密を暴く事。その為ならば敵前逃亡の恥は甘んじて受けよう。
しかしだ。
「なっ⁉」
後ろにいたはずのレヴナントが前方に現れて急停止する。追い越されたのではなかった。そんな姿は見えなかった。つまり。
「転送……?」
『少し違うな。忘れたか、ここは俺のジョーカーの中。全てが俺で俺の意識体はどこにでも現れる。かつ、貴様の転送は封じてあるがな』
「……成程……。
――世界消滅の火――!」
『ムダだ』
吸収。僕の光はまたも吸収されてしまう。いや、今はそれで良いのだ。この攻撃は先と同じ目暗まし。
本命は――
『――む⁉』
レヴナントの頭部が巨大な手によって掴まれた。初めて目を剥くレヴナント。その手を辿ってみると腕の先にある体は――
『天つ空か』
僕のパペット・天つ空であった。
『暫し余と戯れていてもらおう、レヴナント!』
頭部を握られたレヴナントが大きく振られる。そのまま手を離されて遠くへと飛ばされる。
『往け、ユメ!』
「感謝するよ」
『貴様は自分が情報体であると言うのを失念しているのか?』
中空で体を捻って姿勢を正すレヴナント。体から吸収の光が幾筋も伸びて来る。
『コラプサーはあらゆるものを情報に変換して吸収する。その手間が省けるのであればこちらにとって都合が良いだけだ』
一つ、二つと光は天つ空の体を不傷不死の能力ごと貫いて吸収していく。
『良いのかユメ? パペットを失うぞ』
『聞くでないユメ!』
天つ空の心を知る僕は、ただ前だけを見て進む。
『そうか。ならばここで消滅しろ、天つ空』
『余は天を統べる天空神。地を這う狼を潰す手ならば残っている』
ズ……
不気味な音が鳴った。上からだ。レヴナントが目を向けて見るとそこにあったのは。
『隕石か』
それも巨大な。天つ空の巨体ですら巻き込む程に巨大な隕石だった。
『……っち』
一つ舌を打つレヴナント。天つ空に向けていた吸収を中断して隕石へと放った。
『――ォ!』
吸収の光が隕石に届いた頃天つ空の唸る声が。見るに、巨大な白き弓を構えていた。
『この戦法はまだ見せていなかったな』
『星座の能力か』
『左様!』
白き弓からエネルギー状の矢が射られる。
『俺に気づかせずに打つべきだったな』
しかし壁となって吸収が立ちはだかり。
『そうだな。だから気づかせずに行った』
しかし矢が壁に当たる直前に右へと曲がった。
『別の星座か』
レヴナントは吸収ではなく飛び去る事で回避――しようとした。
『――!』
その足が凍りついて固定されていなければ。
一瞬の不覚。それは確実に次の一手を遅らせて、矢はそこに飛来した。
「ここが――」
黒い穴を抜けた先に僕はいた。とうとう辿り着いた。幽化の吸収の秘密、もう一つのアイテムに。
「何だ……ここは? ただの宇宙に見えるけれど……」
そこは黒いカーテンを持つ宇宙空間に他ならずに。
恒星も見え、岩石も見え、氷も見え。眼下には地球に良く似た星すら見えた。
「宇宙に放棄していたのか、情報を?」
それならば吸収が無限に続いているようにも見えただろう。何せ宇宙空間は人間が知る由もない程に超巨大空間なのだから。
「いやでも……」
星の配置が違う。別の角度から見ているからではなく確実に自分が知る宇宙とは違っている。
ここは何だ?
『貴方の優れた力は認めましょう』
「――⁉」
宇宙に響く見知らぬ声。【覇―はたがしら―】を通してのものではない。声が宇宙に響いたのだ。
「……誰かな?」
僕は決して油断せずに、それでも笑ってそう言った。
『おや、まだ推論すら立ちませんか』
「幽化のアイテムなのはわかっている。彼を一度護ったね?」
『つまりそれ以上はわからぬと』
読みは僕よりも上か。
「……そうだね。教えて貰えるなら教えて欲しいんだけど」
『構いませんよ。私はレヴナントのように隠して護るタイプではありませんので。
私は「ルン」。情報生命体です』
「情報……生命体?」
待て、それはつまり……。
「アマリリスと同じ?」
『否。答えは否です。
貴方は私をアイテムと称しましたが正確に言うとそれも否です。
私はレヴナントの吸収した情報の中に産まれた生命体であり、世界』
「……まさか!」
あり得るのか?
「情報が――産んだ別宇宙⁉」
『左様です』
「あるはずが!」
『この世界は、私は吸収された情報を元に育っています。御覧なさい、眼下の星を。
これらでは既に原始生命体すら存在しています。
レヴナントに――幽化によって吸収された情報はレヴナントと私双方の進化の為に使われます。その未来が果てしなく永遠であるように吸収の域もまた果てしなく無限に思えるでしょう』
愕然とする。幽化の無限吸収を暴けば打倒できると思っていた。だがこれは、これはもうそんな次元の話ではない。それこそ宵の“死まいの灯”でもなければ消し去れないだろう。
力で幽化を押し切るは不可能。ならば言葉で篭絡できるか? いや、自分如きで幽化の分身たるこのルンと言う存在をどうにかできるとは思えない。
「……しようがないか」
『わかったようで何より』
「ピュア! 僕を浮上させて!」
お読みいただきありがとうございます。
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