第326話『地獄を任された狼王』
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
「――世界消滅の火・流――!」
先手はユメ、光が流星となってオレに振り降りる。
次いでピュアの銃火器弾幕。
それをオレは吸収する。
「接近しても同じだ」
流を撃ってすぐ駆けたユメ。オレとの距離、一メートル。ユメの手が――オレの右の銃に届いた。
「オレはお前に友情などない。だから、お前自身を吸収する」
「――!」
銃に触れたユメの右腕が分解されていく。
「まさかっ、右の銃は放出ではなかったのか⁉」
そう思うが最早遅く。分解されて消えてしまった右腕がオレから逃げる事を赦さずに半身すらも失ってしまう。
「ユメ!」
叫び近づこうとするピュアをユメは半顔で振り返り目で制した。その目は絶望に塗られているわけではなくどこか自信に満ちている。
ピュアは不思議と脚を止めた。止めてしまった。だからユメの体はピュアが見ている前で全て、失われた。
「幽化――!」
「向かって来るならお前も同じだ。吸収されるのが嫌ならばそこから去れ」
「去る? それはできない。去るわけにはいかない。だってユメの目が語っていた。『心配するな』と。だから自分のやる事は。
ユメを迎える為にこの場に生きて留まる事!」
☆――☆
その頃幽化によって吸収されてしまったユメ――僕は、情報の海を漂っていた。
「ここが――」
右を向けば文字と数字、左を見ても文字と数字。勿論上も下も前も後ろも。
「ここが、レヴナントの中か」
よくよく考えてみればパペットの中に入るのはこれが初めてだ。パペットの中とはこうなっているのかと少し驚いた。
『なぜだ?』
「――⁉」
レヴナント内に響く声。これは、まさか。
「レヴナントかな?」
彼に気づかれた。きっと幽化にも伝わっているだろう。
『そうだ。
貴様、なぜ分解されない?』
「僕はAIロボットを産めるんだよ?」
『それの要領で己の命を繋いでいるわけか。宵と似た手段を使う』
急がねば。ここから追い出される、或いは完全に吸収される前に幽化の秘密を暴かねば。
『どうした? なぜ背を向ける?』
「ちょっとね」
『幽化の――俺の吸収の秘密を知りたいか』
「…………」
やはりバレているか。それでも僕は泳ぐように足を動かして情報の海の中を往く。
『であるならば、貴様を生かしては置けんな』
「――!」
情報の海の中に狼が現れた。体躯は通常の大人の狼と同じくらい。銀に輝く鏡の毛並み。角の生えた魔獣――レヴナント。
ただのちょっと変わった狼、であるはずなのに……、僕はごくりと唾を飲み込んだ。
何だ? 圧倒される? 仮にも神をパペットに持つ自分が?
『ふっ、貴様や宵が善側の神とするならば俺は真逆。地獄を任された狼王。感じるものは異なるだろう』
「……そうだね」
『どうした? 脚が下がっているぞ?』
そんな事は言われなくともわかっている。僕は足をゆっくりと下げている。隙あらばここから逃げ去る為に。
自分は今レヴナントの中にいる。だからそもそも逃げられるのかどうかもわからない。しかしここは……レヴナントを正面に控えているこの場はまずい。まず過ぎる。
前足を一歩進める狼王。
下がる僕。
幽化と言うフィルターなしで対面するとこうも恐ろしい。
レヴナントは自らを善の逆だと言った。しかし恐らくそれは違う。パペットの元である情報、幽化の集めた情報が完全悪に傾くとは思えない。
レヴナントはこう言った。「地獄を任された」と。それは神に絶対の信用を向けられ、尚且つその力に絶対の信頼を置かれているのだ。
神の代行者――或いは、それ以上の実力者として。
だから。
『情け無し』
眼をすがめるレヴナント。その眼に走り去っていく僕を映しながら。
『だが逃がさぬ』
レヴナントの姿が消えた。
「――!」
現れたのは僕の直前。僕の脚に静止がかかるが遅い。勢いの付いた体はそう簡単には止まらない。角に貫かれる――そう思ったからこそ僕は奥の手を使った。
『ほう』
僕の体が凄まじい速度で遥か高みへと飛びあがったのだ。その背に――光の翼の上に機械の翼を以て。
『成程、AIロボットを産む要領で強化外装を展開できるのか』
次いで僕は右腕に機械の砲を作り出して――撃った。ビーム兵器だ。
『だが遅い』
神速――否、超神速のレヴナントの移動。ビームなど掠りもせずに避けられて接近される。しかし僕の展開した翼とて飾りではない。こちらもまた恐ろしい程に素早くレヴナントの追撃から逃げる。
逃げて、追って、攻撃して、防御して。
レヴナントに前方を取られた。
僕はレヴナントの下を潜ろうとするがそこに吸収の光が飛んで来る。触れるわけにはいかない。だから僕はその光に向けて砲撃を行った。反動を抑えずに更に下へと潜り、けれどレヴナントの放った光が円の刃となって襲い来る。
「ぐっ!」
何とか盾を展開して防げた。だが盾は砕け、そこに光の手が飛び込んで来て僕の首を掴んだ。これも吸収の光だ。
『さあ、頂くぞ』
光の手に更なる光が灯る。
「ア―――――――アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
掴まれた首から力が抜けていく。まずは僕の力から吸収するつもりか。
「くっそ!」
自分で言うが僕にしては珍しく気性荒く吐き出された言葉。それは本当に追い詰められている証拠だ。
機械の剣を作り光の手を断ち切る僕。すぐに別の機械を展開して超大な砲台を作る。
『ムダだ』
レヴナントの全身が輝く。吸収の力と言う名の防具。
『む』
その周りに僕は別の機械を展開する。
『機雷群か』
「その前にだね!」
ド――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
僕から放たれたそれはジャンヌ・カーラの全街砲撃以上の威力を持つビーム。レヴナントを羽虫の如く轢き、更に機雷が誘爆する。
「――っはっ」
呼吸が乱れる。流石にこれだけの出力だと精神の方に疲れが来るか。だが攻撃はまともに決まった。もう消えていろ。
しかし願いは――脆くも崩れ去って……。
『ムダだったな』
「……くっ……」
現れたのは無傷のレヴナント。
「どう言う……防御力」
『貴様が言うか。不傷不死などを持ち合わせる貴様が』
「僕のあれは無敵って程じゃないんだけどなぁ」
頂点にいる事は確かだが。
『謙遜だな。あれを破れるのは星冠第零等級だけだろう』
「そう言う君の吸収を破るにはどの程度のクラスなら良いんだい?」
『さあな。破られた事がないゆえにわからん』
はぁ、大きくため息を吐く僕。半分もう諦めている。が、もう半分の心は未だ折れていない。
「じゃあ全力で――」
『逃げるか?』
「暴かせて貰おうかな」
『退くのは恥ではないぞ』
「まだ勝機はあるさ。
――真陽開火の火――!」
『――⁉』
閃光。僕の体が眩く輝いた。光はレヴナントに吸収されてしまうが一瞬視界を奪うのには充分の光量で。
『…………』
レヴナントが全ての光を吸収した後、その場に僕はいなかった。
『だが忘れるな、ユメ、貴様は俺の能力内にいるのだぞ』
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