第325話「だが、宵の心はわかってやれ」
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
☆――☆
「どうした?」
宵と涙月が消えて、ユメとピュアはオレ――幽化の相手をする事となった。
しかし、二人はオレを前に肩で息をする程に疲弊している。
「二人がかりでこの程度か?」
右の銃をピュアに、左の銃をユメに向けたまま。
「いや、そもそもお前たちはオレに勝つ気があるのか?」
「…………」
「…………」
ユメとピュアは視線を交わす。互いを見て、戦意が削がれていないのを確認する。二人は一つ頷き合って――オレの左右に展開した。
「――世界消滅の火・煌――!」
ユメの世界消滅の火・夜に希望を上乗せした攻撃。
「聖架」
ピュアの十字の銃弾に希望を上乗せした攻撃。
普通の相手であれば間違いなく致死の二撃だ。そう、普通の相手であれば。
「コラプサー」
しかしその二撃はいとも容易くオレの体に吸収される。
「その程度の攻撃は効かない。わかっているはずだ」
「……幾ら幽化、貴方のコラプサーが有能でも吸収には限度があるはずだ」
「ないな」
ユメの希望を冷たく折る。
「コラプサーがただの吸収だったなら限度があるだろう。だがオレは――レヴナントのジョーカーは吸収進化。あらゆるものを情報として吸収し進化する。限度はない」
それはない、はずだ。希望は必ずあるのだとユメは思うだろう。きっと誰もがそう思う。そうでなければ平等ではないとすら思えるレベルの理不尽さだからだ。
「【覇―はたがしら―】にだって記録できる容量があるだろう?」
「そうだな。そしてその域はとうに超えている」
「超えて?」
「オレが容量を気にして来なかったと思っているならお前たちの落ち度だ。対策は既に行った。説明してやる義理はないがな」
ユメとピュアの目が僅かに細められた。
今のを聞き、対策を無効化できれば勝機はある――そう思っている目だ。しかし二人は思い知るだろう。コラプサーがある限りオレを追い込むなどできないと。
「ピュア」
「弾幕を張る」
あらゆる銃火器を顕現するピュア。銃器だけではない。ミサイルもレールガンもレーザーも。
射撃撃発。それらを以てオレの動きを封じる。しかしオレはそのエネルギーすらも吸収する。
そこでユメの次の攻撃。宇宙カレンダーから夜空色の炎を吹き上げた。どこに? オレの内臓に。
「それもムダだ」
言葉通りにそれすらもオレは吸収する。
「ユメ、お前の不傷不死は外皮にだけ作用するのか? 否。内側もだろう。オレのコラプサーもだ」
「……っ」
歯噛みするユメ。初めて見る表情だな。
「それなら――」
オレの真下に展開される、宇宙カレンダー。
「この質量なら!」
呼び出したのはエネルギーの元、太陽。
「ムダだ」
左の銃を太陽に向けて撃つ。吸収能力を備えた銃弾だ。それは太陽のフレアに当たると溶ける事なく炎を吸い込み始めて、太陽のエネルギー全てを喰らい尽くした。
同時に右の銃に新しい銃弾が装填される。
どうやらユメはそれを見逃さなかったようだ。
「そうか、余分なエネルギーはすぐに放出して!」
「驚く暇があるとはな」
既に銃口がユメに向いている。後はトリガーをひくだけだ。
「させない」
だがオレが撃つ前にピュアが接敵して来た。超至近距離から右の放出の銃に向けて己の銃を撃つ。光の十字架と言う銃弾がオレの銃に当たり、しかしそれすら吸収されて銃弾がユメに向けて撃たれた。
「させないと言った」
ピュアの次弾。それはオレの放った銃弾に当たって軌道を変える。
「――っ!」
弾かれた銃弾はユメの左耳を掠め去っていく。不傷不死すら貫いた銃弾はユメの耳朶を僅かに傷つけた。がそれはどうでも良い。それよりもだ、とユメは思っているだろう。それよりも、ピュアの光の十字架がオレの銃弾を弾いた事の方がよっぽど重大事項だ、と。
吸収されなかった――その事実、その現象。そこにこそオレを崩すヒントがあるはずだ、とな。
「(ピュア! 幽化の放出の銃弾を幽化自身にあてる!)」
「(了解)」
テレパシーによる交信。しかしオレにはその内容がわかっている。今のを見てそう考えない方が珍しい。だから。
オレはわざと右の銃で二人を順次撃った。
ユメは小型のブラックホールを二つ作り出して双方の銃弾を呑み込み、再びオレの内臓に転移させた。
傷つける、上手くいけば重症を狙える攻撃になるはずのモノ。
万が一にでも吸収を発動させないようにピュアの弾幕がオレを襲う。
「――?」
しかし、その状態が五秒、十秒と続いてもオレが苦しむ事はなく。
「なぜ……」
「なぜ? そうか、お前たちは宵とオレとのエキシビションを観ていないのか」
エキシビション――以前のパペットウォーリアでの話だ。
「似たような手を宵も使った。善良的に剣で弾き返しただけだったがな」
「……対処済み」
「そうだ」
「(だが何をした? どうやって内臓を護った?)」
オレの弱点はもう克服されている。今の言葉を元に宵と戦った後に対処されたのであれば新しい何かが付随されたのだろうと考えるはずで。それは間違いなくアイテムであるはずで。パペットは一つのコンピュータに付き一体まで。これは絶対のルール。チート連中なら曲げてしまうかもだがオレは強いだけで卑怯者ではない。……うむ、卑怯者ではない。だからこそ新しい対処法は制限数のないアイテムの精製にて行った。
「(どんなアイテムを?)」
「下の火が熱いな」
「え?」
下、つまりジャンヌ・カーラを崩した宵の黒き“死まいの灯”。左の銃を構え、オレはそれに向けて一つ撃った。黒炎が銃弾を受けて吸収され、右の銃の銃弾となる。
「「…………」」
ジャンヌ・カーラを崩す程のものをいとも容易く吸収した。その事実にユメとピュアから改めて唾を飲み込む音がする。
「それで、もう終わりにするか?」
「……終わりにして、宵たちの所に加勢に?」
「加勢? オレはオレの道を閉ざす奴を排除するだけだ」
ん? それを加勢と言うのか。
「だったらまだ僕らの相手をしてもらおうかな」
「力の差を理解しても退避しないのは阿呆のする事だ」
「宵は逃げたのかい?」
「……いいや」
逃げたなど、オレを本当の意味で恐れぬ宵にはない。
「なら、僕も逃げないさ」
「そうか。
ピュア、お前は?」
「ユメが退かないなら私はここにいる」
確固たる意志で。
「……成程。何となくだが宵がユメを第零等級に推薦したのがわかった気がする」
「僕は星冠には成らないよ」
「好きにしろ」
そもそも他の星冠がどう言うかもわからない話だ。気性の荒々しい星冠はいないが――選ばれなかった――それでも相手がユメとなれば渋面を作るものは一人二人いるだろう。
「だが、宵の心はわかってやれ」
「……そうだね。
もし、自分が唯の人だったなら宵の誘いに乗ったかな――そう考えなかったわけじゃない。けれどifなど考えても詮ない事だよ。
考えてしまった事でますます思い知った」
「……哀れむ気はない」
わかってる、そう言ってユメは一度目を閉じ、勢い良く開いた。僅かな『夢』を断ち切るように。
「ピュア、僕が接近するから外から援護を」
「うん」
……そろそろ終わらせてもらおう。
お読みいただきありがとうございます。
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