第320話「私めは信じているぞ、運命と言うものを」
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
紫炎が強くなって――
「さ・せ・る・かー!」
飛び込んで来たのは――涙月。
巨大な白い鳥の背に乗ったまま西洋剣にもランスにも見えるアイテムで切縁・ヴェールを突く。
「ふ」
しかし切縁・ヴェールはその先端を握り閉めて受け止めた。
「良く戻った、涙月」
涙月の首に伸びる切縁・ヴェールの腕。そこに飛来する幽化さんの銃弾。涙月はすぐに身を引いてオレの隣に並び立つ。
ピュアの方はユメの隣に並んで、インフィは輪からちょっと離れてオロオロと戸惑っていた。
「逃げろと言ったはずだ」
「すんません。よー君がいるなら話は別です」
「……っち」
「……ところで、この鳥なに? フェニックス?」
「あ~」
白い鳥の話を聞いてオレはちょっとばかり困惑する。
「“産まれの灯”……“死まいの灯”……が、同じ時代同じ地域に偶然揃った?」
何と言うか、偶然――か?
「偶然ではあるまいよ」
オレの問に応えたのは切縁・ヴェール。
「力と言うものには、いや全ての物事には引力が作用する。物体だけではなくな。貴様らは出逢うべくして出逢い、惹かれるべくして惹かれたのだ」
「「違うね」」
オレと涙月の声が揃った。そして同時に振り向いて視線がばっちりと合った。二人して少し照れて改めて切縁・ヴェールに顔を向ける。
「力なんてなくても好きになったさね」
「……です」
「ちょいっとよー君! そこで口籠らないでくださいな!」
「いや、口にするのは流石に恥ずかしい……」
口にしなくても恥ずかしいのに。
「女は口にして欲しいもんです」
「好きに……な。まあそう思いたければ思うが良い。私めは信じているぞ、運命と言うものを。
それがあるからこそ――」
人差し指と中指でオレと涙月を指しながら。
「私めも『材料』である貴様らとこうして逢えているのだからな」
材料、と言う言葉が引っ掛かったけれど、まあ良い。確かにこの時代にこうも面子が揃ったのは運命以外にないだろうから。
「では、運命を台なしにしない為にもそろそろリスタートと行こう。
良いな、ユメ?」
「……はい」
返答に間があった。ユメはやはり切縁・ヴェールの意志に染まり切ってはいないと思う。けど今は、この場は戦おう。んで終わったら説教タイムだ。
「やれ」
「――世界誕生の火――」
ユメから虹色の粉を含んだ白い光が溢れた。神々しき神の威圧。その光が消えて――AIロボットの群れが出現した。
オレたちは一斉に身構える。が、AIロボットたちはオレたちを飛び越えて散って行くではないか。
……そうか!
AIロボットたちの――ユメの狙いはオレたちではなく、周囲にいるウォーリアたち!
「邪魔は遠慮願いたいからな」
言いながら切縁・ヴェールは右腕を胸の前に持ち上げ、勢い良く外に振った。すると腕は【門―ゲート―】を開いて中に消え、
「私めは私めで始めさせてもらおう」
【門―ゲート―】に腕を突っ込んだままぐるりと体を回転させて【門―ゲート―】を拡大。そこから種々様々な形をした機械が現れる。人型・ペット型・恐竜型・虫型・はては戦闘機まで。
これは……。
「ああ、安心しろ。こいつらは貴様ら用ではない」
となると、やはり切縁・ヴェールに奪われた低度AIたちか。
「これらの魂をエネルギーに、高度AIの魂を得る。
ユメ、ピュア、こ奴らを押さえろ」
ユメが右手を伸ばし、ピュアは銃を構える。
「宵、ユメをやれ。涙月、ピュアをやれ。オレは切縁・ヴェールをやる」
「「はい!」」
「――世界消滅の火・夜――」
号砲。ユメの一撃がバトルリスタートの号砲となって放たれた。
オレは苦無を発生させてその攻撃をやり過ごし、紙剣を以てユメに向かって行った。
一方でユメの手の中には宇宙カレンダーの棒が握られている。
紙剣と宇宙の棒がぶつかって得体の知れないエネルギーがスパークする。二度・三度と撃ちあってオレたち二人は皆と距離を取り始める。そうなるように動いているからだ。ユメの攻撃は広範囲に及ぶ。常にユメの攻撃に気をつけながらでは涙月も幽化さんも戦い辛いだろう。
「その優しさは君を殺すかも知れないよ? 僕をまだ殺そうと思っていないだろう?」
「うん。まだ星冠に引き込もうとしている」
「悪いね、僕は君を殺すつもりでやる」
「できるなら――ね!」
「ね」、と同時に紙剣に入れる力を最大にして宇宙の棒を押し込んだ。宇宙の棒は下がってユメの胸元がノーガードに開かれる。オレはユメの両肩を掴み、彼の上に倒立。ユメは「?」と戸惑いを表情に現し、その一瞬の間を突いて苦無が彼の胸へと飛び込んだ。
「ぐ――っ!」
ユメの顔に苦痛が入った。不傷不死は前より強くなっているはずだが苦無には黒い炎を纏わせておいた。この状態ならどうやら通用するらしい。
オレはユメの肩に置いていた手を首に移動させてがっしりと掴んでユメの背後へと体を回し、首で一本背負い。勢い良く振り抜いた腕はユメを直下へと飛ばし、砕け堕ちたジャンヌ・カーラへと叩きつけた。
「――⁉」
しかしすぐに夜空色をした炎が撃ち上がり、オレはそれに呑み込まれてしまった。
しまった――喉に入った。
内臓に走る痛み。内側から人間の知らないエネルギーに焼かれる感触。オレはすぐ黒の数式を内面に発生させてユメの炎を消火する。
その間に夜空色の炎はオレの周りを包んでいてさながら宇宙空間に飛ばされた気分になる。
ユメはどこから来る?
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