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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
319/334

第319話「見つけた――世界を“閉ざす”――“死まいの灯”!」

いらっしゃいませ。

是非に読んでいってください。


ゴ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!


「――!」


 切縁(キリエ)・ヴェールの表情が止まった。嗤いは消えて驚愕に染まったままで。

 なぜならジャンヌ・カーラ全体が黒い炎に包まれてしまったから。

 ―――――――否。

 それは黒い炎ではなく、黒の数式だった。


「――!」


 何かが切縁・ヴェールの顔に向けて飛来して、彼女はそれが何かを確かめる前に反射的に顔をそらす。

 それを、紙剣(シケン)を彼女の背後で受け止めるのは、オレだ。

 しかしパペット・キリエとの同化で桜色に染まっているはずのオレの髪の毛は真っ黒で。目は逆に黒から桜色に。胸には黒い見た事のない花が一輪。


 意識が混濁する……。

 まるでオレではない誰かがオレの体を動かしているようで……。


 そんなオレを見て切縁・ヴェールは両手を掲げる。

 両手を、オレに向けて、離れ離れだった恋人を向かい入れるかの如くに愛おしそうに。


「見つけた」


 そうして切縁・ヴェールは、清純に笑う。


「見つけた――世界を“閉ざす”――“死まいの()”!」


☆――☆


『ぴあ―――――――――――――――――――――――――――――!』

「うひゃあ⁉」


 突然大声で鳴いた白い鳥に私・涙月(ルツキ)は飛行のバランスを崩しビルの一つにぶつかりそうになって止まった。


「なになに? 急にどしたん?」

「おーい涙月~置いてくよ~」

「あ、ちょい待ってよインフィ!」


 そうしている内にピュアが追い付いてくる。

 同じビルの屋上に止まった私とピュア。二人は武器を取り合って向かい合う。


『ぴあ! ぴあ!』


 そんな中で私の頭にとまったまま鳴き続ける白い“産まれの()”。

 だからどしたん?


『ぴあ!』


 その時だった。ジャンヌ・カーラが黒い炎に包まれたのは。


「「「――⁉」」」


 炎に呑まれる。そう思われた瞬間、“産まれの灯”が白い炎に包まれて――不死鳥フェニックスの如くの巨鳥となって私を乗せ飛び立った。


「ピュア!」


 その途中で私はピュアに向かって手を伸ばす。ピュアは掴むべきか逡巡して、掴んだ。


「あ~自分も~」


“産まれの灯”の脚に飛びつき抱きつくインフィ。

 三人を抱え込んだ“産まれの灯”は大きく羽ばたき、空高く舞う。


「――この感じ」


 それに最初に気づいたのは、私。


「よー君!」


☆――☆


 刺突。紙剣に黒の数式を――“死まいの灯”を纏わせて切縁・ヴェールの心臓を狙い放つ。切縁・ヴェールは紫炎の数式を纏わせた左腕を伸ばし、紙剣を開いた掌で受け止めた。

 オレは紙剣を少しばかり動かして切縁・ヴェールの腕を横に弾き、蹴打を彼女の右腕に向けて撃つ。切縁・ヴェールはそれを右肘で受けて、しかしその隙にオレの右手は倒れる幽化(ユウカ)さんを掴んでいて、一先ずその場から離脱した。

 崩れていくジャンヌ・カーラ。

 切縁・ヴェールはその中にいて、笑んだままにオレの離脱を見送った。

 追って来ない?

 それならこのまま涙月たちとも合流して――その時、天から夜空色の炎が落ちて来た。オレの行く先を塞ぐ形で落ちて来た為にオレは飛行を止めて、彼が現れた。


「ユメ」

「良くやった、ユメ」


 オレの呼び声と、切縁・ヴェールの言葉が重なる。

 しまった……ユメと切縁・ヴェールに前後を挟まれた。


「……手を離せ」

「え?」


 そう言ったのはオレの肩に抱えられた幽化さん。


「一撃喰らっただけだ……問題ない」


 一撃を喰らった場所が心臓の位置に見えるのだけど。だけどそう言ったら怒られそうだったからオレは口を噤んで幽化さんを宙空に降ろした。彼は何事もなかったかのように立って、息すらも乱れてはいなかった。

 傷、問題ないのだろうか?


「傷は吸収した。問題ないと言っただろう」


 ……そんな事もできたのか……。


「大したものだ、幽化。数式を扱うでもないものが私めとやり合えるとは思わなかった」

「……ふん」


 よくよく考えてみたら幽化さんはパペットと同化すらしていない。この人の事だから傲岸不遜に戦い続けていたのだろうけれど、その状態で勝機はあったのだろうか?


「お前こそ、様子見でやられはしないらしいな」

「そうだな。それより、だ。(ヨイ)を何とかしないで良いのか?」

「……この程度で呑まれるなら必要ない」


 ひどっ。でも信頼してくれているのだろうか?


「“死まいの灯”を操れ。それは“閉ざす人”であるお前の力に過ぎない」

「……はい」


 意識を保て。浸食されるな。オレはこの世界を終わらせたいなんて思っていないのだから。


「“死まいの灯”は――」


 語り始めるのは、切縁・ヴェール。


「時代時代で最も未来あるものに宿り限りなく死を遠ざけると言われている。『デス・ペナルティ』に映らなかったのはそれが理由か、いや、(コトワリ)側に傾いているからか。まあ、それに反して世界を閉ざすわけだがな。何とも悲惨な話だ」

「違うな。終わる未来を変えられるからこそ宿るものだ」


 と、幽化さん。

 何となくだけど、オレに希望を見てくれている……気がした。


「だがこうして覚醒した」

「それもこれもお前のせいだがな」

「いいや。私めが何をせずともそれは覚醒していた。そう言う風に世界はできている。そう、私めに倒されるのもその一つ」


 切縁・ヴェールの両手に紫炎が燈る。


「……レヴナント」

『ああ』

「『ウォーリアネーム――【君臨】』」


 幽化さんとレヴナントの同化。更に。


「【覇―トリ―】――エスペラント」


 黄金の円環。

 黄金の星章(セイショウ)も。

 オレたち人間の出せる最高の形態へとシフトする。


「良いだろう。やってみよ」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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