第314話「オレは――」
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
同化で来たか。
パペットである傘がサングイスの体に溶け込み――その姿が白無垢に、婚礼衣装に包まれた。
おや? 獣の尻尾と耳が生えている。
「そっか。狐の嫁入り」
「そうね」
「可愛いよ? 何で嫌なの?」
「日本では結婚前にこうした格好をすると婚期が遅れると言うから」
ああ、そう言えばそんな話もあったっけ。
「て言うかサングイスって今幾つ?」
「教えない。そしてこの魅了への時間稼ぎもここまで」
「ありゃバレてた」
けどもう遅い。
「魅了はもう完成した」
「……どこも変わった様子はないけれど?」
己の体に目を通すサングイス。彼女は自由に動いている。きっとそう思っているだろう。しかしそうではないのだ。魅了とは本人に意識させずこちらに引き込むと言う事だから。
「サングイス、ちょっとこっちに来て」
ちょいちょいと手を動かしてサングイスを呼び寄せる。
「ええ良いわよ」
それにサングイスは首肯して、微笑みながらこちらに駆け寄って来た。
うん良い調子。
「何かしら?」
「ん、切縁が自分の能力を使って何をするのか、この後どう行動するのか自分と幽化さんに教えて」
「ええ」
サングイスは遠くに離れている幽化さんに目を向ける。
……そう言えば助けてくれなかったなあの人……切縁の計画を止めたいなら自分に味方してくれても良いよね? ね?
「幽化~こっちにいらっしゃーい」
「お前たちが来い」
「「…………」」
動かないのか。何と言う大物感。一度で良いからあんな態度をとってみたい。
説得ができそうにもないから自分とサングイスは一度視線を交わしてトテトテと脚を動かし幽化さんの元へと向かった。
「んじゃサングイス、改めて聞くよ? 切縁が自分の能力を使って何をするのか、この後どう行動するのか自分と幽化さんに教えて」
「了解」
そこで幽化さんは一度自分を見た。多分「本当に魅了できているのか?」「オレに使っていないな?」と言いたいのだろう。……使ってみようかな? どきどき。
「オレにかけたら殺すぞ」
「しません!」
即答。ああ、自分情けない。
「サ、サングイス、どーぞ」
「ええ。
切縁はインフィの能力で『理』を裏切る。この世界には現在、時間が存在していないけれど切縁の大改変で時間は存在している事になっている」
存在していないけれどしている。難しいからスルーしよう。
「時間は存在していないと言う自然の『理』をそのままにしていたら大改変は成功しないから、まずはそれに対抗するのね。
そしてそれの完了が認められたら次は二つのプール。プールを雛型にして涙月の“産まれの灯”――あらゆる可能性を秘めた宇宙の卵で過去と未来を創り出すの。そのエネルギー源に世界に漂う星章を利用するの。星章のグランドクロス、もう一時間弱で起こるそれを使って世界に干渉する」
「それは世界の崩壊を防げなかった時の算段だな?」
「ええ」
凄い事考えるよね。
「ならば世界の崩壊を防ぐ為にどう動く?」
「そもそも世界がどう崩壊するのかそれについて説明がいるわね。
世界には――宇宙には世界を固定する為のエネルギーが満ちているの。これは知っているわね? 解明はされていないけれど。静かだったそのエネルギーがもうすぐ嵐になって宇宙を壊す。それのきっかけとなる何者かが人間の中にいるのよね。
“閉ざす人”――そう切縁は呼んでいたわ。
“閉ざす人”がいるからエネルギーが乱れるのか、それともエネルギーが乱れる周期に合わせて“閉ざす人”が現れるのかはわかっていないわ」
「その子はギリギリにならないと出て来ないんだ?」
さっさと出て来てくれればありがたいんだけど。
「そうよ。史実演算機にも姿が見られない。それはその子の存在が史実演算機の許容する範囲を超えているから」
「では“閉ざす人”を殺害できるのか?」
「切縁の動静も史実演算機には映らないわ。それはつまり切縁と“閉ざす人”の力が同じ次元にあるから。つまり切縁になら何とかできる可能性があるの」
「何とかできずにおっちんじゃったら?」
「保険はないわ。だから一発勝負。その為に星冠や魔法処女会たちは邪魔なの」
星冠、魔法処女会、王室ネットワーク、アンチウィルスプログラム、パトリオット。名も無き国に浮上したジャンヌ・カーラに向かっている人たち。ひょっとしたらもう戦闘は開始されているかも。
「だから、ロシアに協力して貰う事にしたのね」
恐ロシア。
「今、ロシアから【アルターリ】の軍勢がジャンヌ・カーラに向かっているところよ」
「切縁自らが相手をするのではないのだな?」
「そう。切縁には別にやる事があるから」
「それは?」
先をうながす幽化――さん。
「低度AIの魂をエネルギーに高度AIの魂を得る。AIに魂を産んだのはそれを搾取し集合的無意識に自我を与える為よ。そうして集合的無意識に過去と未来を望んでもらうの」
「それも時間を創る為の材料の一つか」
「そう」
そこまで聞くと幽化さんは右手を振って現実への【門―ゲート―】を作り出した。
「行くの、幽化?」
「ああ」
「貴方なら切縁も向かい入れると思うけれど?」
ふん、と鼻を鳴らす幽化さん。
「オレは―――――――――――――――――――――――――――――――――星冠だ」
散々勿体ぶって小さな声でそう言った。
意外、この人職業意識あったのね。
「本当にそれだけ?」
「…………」
「貴方には“閉ざす人”に心当たりがあるのではなくて?」
へ?
「ないさ」
あるとしたら、幽化さんは対象を殺すのを躊躇っている……のかな?
「サングイス、お前はこの後どう動く?」
「妾? それはインフィに聞いて頂戴な」
「……ふん」
自分に聞くかと思われたけれど、幽化さんは自分とは目も合わせずに【門―ゲート―】を潜ってしまった。きっとどうでも良かったのだろう。
「いいえ、あれはあれで誰かを信じているのよ」
「信じる? ……それって自分じゃなくてサングイスじゃない?」
「さぁ? そうだと光栄ね」
エリアにポツンと残された自分たち。いつまでもここにいるわけにはいかないだろう。幽化さんが創ったエリアだからいつ消すか想像もできない。
では、さて、自分はどうしようかな?
「ねえサングイス?」
「なあに?」
「君、魅了にかかっていないよね?」
「あらどうして?」
わかるんだもん、そう言うの。それに。
「だって自分じゃなくて基本幽化さんに熱視線向けてたし」
「……そうだった?」
意外な事を言われたのかサングイスは己に驚いた表情を見せた。
「恋だねぇ」
「刈って良い?」
「ダメです」
笑顔で首を刈ろうとしないで下さい。
「ま、とりあえずここから出ようか」
自分も【門―ゲート―】を開いて、足を突っ込む。出る先は一先ずジャンヌ・カーラから遠く離れたオービタルリングの適当な場所――になるはずだったのに……どうしてこうなった?
顔も【門―ゲート―】を潜らせた先は何と――
「来たか、インフィ」
「……………………………………………………………………………………あれえ?」
何と、切縁の目の前だった。
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