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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
312/334

第312話「ごめんなさいねインフィ」

いらっしゃいませ。

是非に読んでいってください。


「ちょっと待って。

 自分一応切縁(キリエ)側の人間――仮想災厄ヴァーチャル・カラミティなんだけど?」

「けれどインフィは切縁の為に能力は使わないでしょう?」

「心外だなぁ、使うよ多分」


 断言しない辺り自分らしい。


幽化(ユウカ)との戦いにあっさり降伏した貴方が?」

「だってそもそも切縁は自分が幽化さんに勝てるとも足止めできるとも思ってないでしょう?」


 ぷんぷん。自分、ちょーお怒り。


「そうね」

「ね? だったら意味なく努力したくないし」

「インフィ、人生の光は努力の先に見えるものよ」

「成程。勉強になる。それじゃ」

「お待ちなさい」


 背を見せて帰ろうとしたところ襟をグッと掴まれた。う~ん人生って世知辛い。


「インフィ、貴方が取れる道は二つ。

 一つ、切縁に従う。

 一つ、妾に能力を奪われる。

 どちらが良いかしら?」


 決まってます。


「一つ、逃げる」

「そんな選択肢はないわぁ」

「けち」

「何とでも」


 あー女の人の笑顔って怖い。


「ねぇねぇ幽化さん、幽化さん的には自分が切縁側に協力や能力簒奪されたら困るよね? 助けて」

「……お前を守ってサングイスと戦うよりサングイス単身と戦う方が楽そうだ」

「酷い!」


 人間徳を積んでないと天国行けないよ?


「それでは自分は精一杯逃げると言う事で」

「それで良いのね?」

「うん。自分悪役に向いてないし」


 それにだ。

 これは今から二ヶ月くらい前の話だけど。






「え?」


 自分は差し出された小さな包みに小首を傾けた。


「え? じゃなくて、プレゼント。誕生日の」


 包みを差し出すのは――(ヨイ)


「今日が誕生日だってピュアに聞いたから」

「それでわざわざ自分を探したの?」

「うん。星冠(ホシカムリ)の権利使ったら見つかった。まさかイタリアで読者モデルやってるとは思わなかったよ、イタリア政府の監視つきみたいだけど」


 リア充ですから。それに。


「ふふん。親が美形だから顔には自信があるのさ」

「確かにユメもピュアも綺麗だけど……それならもう少し爽やかに笑おうよ」

「え? 今全力で笑ってるんだけど」

「見えない……」


 そう言えば前にも笑顔に見えない言われたなー。


「でもこれで自分人気だよ?」

「そうだね。美形って良いね」


 宵も全然良い方だと思うけどなぁ。十代後半には文学少年してそう。


「ま、とりあえず、ハイ」


 と言って改めて包みを差し出す宵。自分はそれを両手でしっかり受け取って、何となく抱きしめた。


「……ありがとう」

「うん」






 その場で中を確かめるのは恥ずかしかったから家に帰ってから開けさせて貰った。包みの中身は金の懐中時計で、蓋を開けると何とデジタル。五十種類の時計表示を選べると言うもので、今も首にぶら下がっている。

 だから。


「逃げまーす」


 どちらかと言うと、うん、どちらかと言うと自分は宵側にいたいのかも知れない。

 ダッシュで逃亡を図る自分。どこまで行っても板張りの床だけだけど距離を取らないよりは良いと思ったのだ。走りながらちらりと後ろを向くと――あれ? 追って来ないし。たたらを踏みながら止まって体ごと振り返ってみる。ん? 待って。

 天を仰ぎ見る自分。まだまだ緑色の雨は降って来ている。もう攻撃しているから動かなくても構わないのだろうか? けどこれってサングイスに変な気見せる人だけに効くんだよね? 自分逃げてるだけだからセーフ?


「ごめんなさいねインフィ」

「うん?」


 距離があるから声は聞こえ辛い。


「この雨、妾が敵と認めた相手を攻撃できるの」

「うわぁひきょー。うは⁉」


 シトシトと降っていた雨がドシャ―――――――――――と土砂降りになりやがった。水なのに量が多すぎて結構痛い。滝に入ったらこんな感じかな?


「ん?」


 背筋に怖気が走った。あれだ、シャワーを浴びている時に背中が気になる奴、あんな感じの違和感。

 何もいませんように。何もいませんように。

 祈りながら首を縮めてそ~と振り返ってみると……いた―――――――――――――!

 黒~い、丸い頭・ほっそい体をしたへんてこな生物がそこにいた。目が緑に光っていてまん丸い。

 凄く弱そうなのに凄く怖い。何これ? 自分何されんの?


「え?」


 妖しさ満点のそれに集中していると何かを引きずるような音が。目を動かしてみると同じ生物がもう一体。いや、更に一体。おまけで更にもう一体。

 降りしきる雨。ひょっとして雨が止まない限り制限なく増えていく?

 …………あれ?

 視界が霞んで来た。体も小刻みに震えだして……。

 自分は膝を折った。折らされた。

 どしゃ、と緑色の雨が溜まっている中に倒れ込む。

 力が……入らない……。


「ごめんなさいねインフィ」


 サングイスの声が近くから聞こえた。弱った体と緩んだ筋肉で何とか目だけを向けると予想外な程に近くにやって来ていた。

 雨で視界が遮られていたし、雨音で周りの音が聞こえ辛くなっていたとは言え……不覚。


「貰うわね、能力」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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