第311話「それはほら、出して吸収されるのやだし」
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
☆――☆
「いやほんと……ごめんなさい」
自分、ジャパニーズDOGEZA。
や、まあね、この人に勝てるとは思っていなかったけどさ……悔しくないもんねっ。
「切縁・ヴェールはお前をオレにあてた。
狙いは? インフィデレス 人類銀貨プログラム」
狙いと言われても。
「ん~、わかんない――わぁ!」
聞かれたから応えただけなのに銃口を鼻先に向けられた。酷い。もう一度言うけど聞かれたから応えただけなのに。
「ほんとにね、わかんないの。行って来い言われて親が従ってたからホイホイと付いて来たんです」
自主性なんて親子の愛の前には無力だよね?
「そもそもお前は戦う気はあったのか? パペットもアイテムも使わずに」
「それはほら、出して吸収されるのやだし」
本音です。だってもう家族だもん。
「……まあ良い」
「良いの? わーラッキー」
両手を挙げて喜んで。
「それで、お前はどうする?」
「え? 自分は――」
「お前ではない」
「へ?」
他には誰もいませんが?
「サングイス、お前だ」
「あらいやだ」
「へ? おおう」
一人戸惑う自分の影から、一人の女性が姿を見せた。
ええ? いつからいたの?
「気づいていたのね」
「以前お前に貰ったこのボール」
そう言って幽化―――――さんが出したのは(あっぶな呼び捨てするところだった)ゴルフボールくらいの赤い球体。
「お前のジョーカーが封じられていると言っていたが」
「正確に言うと一度だけの使用権、ね」
ああ、そんな情報貰ってたなぁ確か。すっかり忘れていた。
「オレの居場所を探る為の目印にもなっているな」
「正確に言うとそれを持つ誰かの、ね」
「何の為にだ?」
ボールをサングイスに投げ返して。
「ん~、勘違いしないで。妾は窮地に駆けつける為にしただけよ」
ボールを幽化さんに投げ返して。
「決して隙あらば首を斬ろうとか思ってないのよ?」
ボールをサングイスに投げ返して。
「だがお前は切縁・ヴェールの側についた」
ボールを幽化さんに投げ返して。
「それも勘違いしないで。妾は看守としてあの子を管理していただけ」
ボールをサングイスに投げ返して。
「悪いがお前にあれが管理できるとは思えない」
「いた!」
投げられたボールをハタいて自分――インフィね――の顔にぶち当てるサングイス。痛いんですが。
「そうねぇ、正直に言うと統一政府に指示されて切縁の首を狙っていたのだけど、叶わずね」
サングイス・レーギーナ――彼女は統一政府の死刑執行人である。同時にジャンヌ・カーラでの切縁付き看守でもある。
幽化さんとサングイス、一人はくそ真面目な表情で、一人は微笑みを絶やさずに向かい合う。何これ怖い。
「最も、何もする気なかったのだけど」
悪びれようよ、少しはさ。
「では、ここからオレが出ると言っても止めないな?」
「あら以外。妾の許可を確認するなんて」
「……それもそうだな」
そう言うと幽化さんは左腕を真横に掲げる。するとそこに【門―ゲート―】が現れた。それを潜ろうとする幽化さん。自分とサングイス、誰も止めない。
「……本当に行くぞ」
あ、ちょっと戸惑った。ちょー面白い。
「不安なら、少し話して行かない?」
「…………」
「それとも宵たちが心配かしら?」
「ちょっと⁉」
なぜ自分に銃を向けるのか。
「良いじゃない。心配する対象に妾が入っていればなお良いのだけど」
手を口元に持っていきクスクスと笑うサングイス。
……凄いな、幽化さんをからかうなんて自分絶対嫌です。
「話とやらはオレの役に立つのか?」
「そんな心配はしないの。話したい相手とは答えがわかっていてもわざと話す。そうして会話は続いて行くのよ」
「…………」
【門―ゲート―】に突っ込んでいた片脚をこちら側に戻す幽化さん。
おお? 世間話に乗る気だろうか?
「その前に確認させてもらおうか」
幽化さんは銃を持ちあげて、何と自分に向けて来た。ちょっと⁉
「うへい」
撃たれた。思わずぎゅっと目を閉じる自分。しかし体のどこにも異常はなく。
「?」
そ~、と目を開け、そこに映ったのは。
「あ」
サングイスのジョーカーを封じた赤いボールが砕かれていた。ん? と言う事は。
「げっ」
ボールから黒いシミが出て来た。シミの大きさは赤いボールより少し小さいくらいだったが現れ上に飛んでもの凄い勢いで大きくなり始めて――空一帯を覆う程に巨大になった。
このエリアは幽化さんが用意したもので板張りの床が広がっているだけだが、上にはちゃんと青空があった。それが黒いシミに邪魔されて全く見えない。どんだけ大きくなったんですか。
「こうしてお前のジョーカーを目にするのも久方ぶりか」
「そうね」
「『嫉妬の凶天』」
と言うのか。勉強になった。
「え? 雨?」
しっかり脳内メモに書き込んでいると嫉妬の凶天から雨が降って来たのだ。それも澄んだ緑色の雨。いや色自体は澄んでいるけどちょい不気味です。
これがジョーカー? どんな影響が――
「ん? ぬあ?」
雨が、自分の体に触れた雨が皮膚に浸透していく。否、皮膚だけではない。皮膚の下にある肉にすら浸透して体が妙に震えて来た。
その時小さく音が鳴った。それに目を向けてみるとサングイスがカラフルな傘を差していた。確かサングイスのパペット『コロリ』。
自分だけずるい!
そうして心の中でツッコんでいる間にも雨は浸透して来ている。
「ちょっとちょっとサングイス、自分がやばいんですけど?」
「大丈夫よ。この雨は妾に殺意と敵意と欲望を向ける相手しか腐らせないから」
腐らせるのか……。て言うか体の震えは何なんですか?
「雨がインフィの心を探っているの。暫しの辛抱ね」
「早く終わらせて~」
自分でこれ。では幽化さんは?
目を向けてみるとしれっと立っていた。緑の雨を全身に浴びているのに。凄いなぁあの人。
「……オレに攻撃はなしか」
「でしょう?」
「では、本当になぜ現れた?」
「それはぁ」
ちらりと、自分に、目を向ける。
……え?
「切縁が『理』を裏切るのに必要な能力をこのインフィから奪う為」
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……………………………………………………………………………………………ほう?
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次回もよろしくお願いします。




