第310話「では。どーん!」
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
戻されている。役目を逆流している。つまり。
「涙月――」
赤ん坊の状態である私の幽体を抱えた女性が戻って来る。
ピュアは手を伸ばす――が、幽体の私をすり抜けてしまった。ならばと体の方をこの場から遠ざける。
ピュアは私を抱え直して立ち去ろうとした。けれど足が墨の大地に接着されて動かない。
「これは……どうしようもない」
そう認めてピュアは私の幽体が体に戻されるのを黙って見守る事にしたようだ。
「ん……」
抱えている私の唇が僅かに開かれ、吐息が漏れた。
私はゆっくり瞼を持ち上げて、二・三度瞬き。ぼやっとした視界の中にピュアの顔がアップで見えて、
「うへ?」
何て声を上げてしまった。
あれ? 私なんでお姫さま抱っこされてんだ? 今までどこかでこの光景を見ていた気がするのだけど今はさっぱりだ。
『ぴあ』
戸惑う私の目の上から鳴き声が。目を大きく開いて眼球だけ動かすと小鳥さんが見えた。どうやら私の額に乗っかっているみたい。
「えっとぉ……降ろして?」
ピュアは無言で頷き――腕を広げた。
「いたぁい!」
私はどかっと墨の大地に尻餅一つ。お、おケツが痛い……。
「もっとソフトに!」
「ちょっと……ムカついてて」
ほぅ? ピュアにもそんな感情があったのか。
何て事をお尻を摩りながら思った。
この子やっぱり感情が希薄と言うより心情が表情に出ないだけだね。
「――で、何で私を戻してくれたの?」
「……親切心で」
『ぴあ!』
小鳥さんが抗議。どうやら親切心ではないらしい。
「……その子が邪魔した」
「その子? ああ、この小鳥さん」
頭のてっぺんに移動していた小鳥に手を伸ばすと今度はそこに乗って来た。私はピュアを見て、小鳥を見て。
「さんくす」
もう片方の手で小鳥の頭を撫でてあげた。
『ぴあ~』
おお、気持ち良さそうに鳴くもんだ。
「……戻るわ」
「え?」
ピュアの言葉の意味が瞬時に察せずにいると墨の世界が水に溶けるように崩れ始めた。
「おぅ?」
墨の世界が消え去った先にあった世界は。グローラインの平面世界。
「なんぞここ?」
さっきまでの世界ではないのだろうか?
「ああそう言えば……エリアは壊れたんだった」
「それもこの子が?」
「そう」
じと~と目を細めて小鳥を見るピュア。
「その子に言って。ここから現実に戻すように」
「? 【門―ゲート―】は?」
「その子に邪魔されて開けない」
「そうなん?」
試しにやってみると、あっさり開いた。
「私はできるっぽいね」
「…………………………………………………………………………………………………っち」
「舌打った!」
なんか一気に普通の女の子っぽくなってるなぁピュア。
「あ、ちょい待ち」
不満げながら【門―ゲート―】を潜ろうとするピュアを止める。
「何?」
「出て行って良いの? いやこっちは良いんだけど……私の足止めが目的じゃないの?」
「……その小鳥の前じゃ何もできそうにないから。
それに、切縁はその子を欲しがるだろうから」
あ、そう言う話だったっけか。
「んじゃ私はどうすれば? どうしても良いの?」
殺されないと言うのなら、自由になれると言うのなら。
「お好きなように」
「では。どーん!」
一緒に行動してみよう。
「キャッ!」
予想外に可愛い声を出すピュア。私が飛びついたからだが、思わず心・ときめく。
飛びついた勢いのままに【門―ゲート―】を潜って私たちが出たのは――
「良くやった、ピュア」
切縁・ヴェールの眼前だった。
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