第305話「ごめんね」「謝る必要はない」
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
ジョーカー――ではないだろう。また厄介な盾を持っているものですな。
私は鼻の横を通って口元に流れて来た冷や汗一粒を舌を使ってぺろりと舐めた。しょっぱいや。
さてはて、どう攻める? クラウンのジョーカー、吸収と放出は『変わっている』。仮想災厄になったからか何となくわかる。だから容易には使えない。っつか使って戦意の盾に防がれたら見せ損だよね。それならせめて戦意の盾の弱点くらい暴いてから使いたいものですよ。
「……来ないの?」
銃口を私の眉間に向けたまま、ピュア。トリガーにかけられた指はまだ動かない。
「ん~、ピュアも来る気なし?」
「私たちの役目は貴女たち三人を閉じ込めておく事」
「? 私も?」
いらんのかな?
「貴女は時間になったら現実に戻される」
あ、いるんだ。
「その時間っていつか教えてくれないかな?」
「グランドクロスが起こるその時」
「へ?」
グランドクロス――太陽系の惑星が十字に並ぶ大現象。だけどそんなものが起こるなら天文学会はもっと盛り上がっているはずで、今のとこそんな騒動はないのだけど?
「いやいやピュアさん、グランドクロスってまだまだ先の話だよね?」
「ああ、惑星じゃなくて、星章の話」
「星章……」
「星章が強大化する現象は幾つもある。日蝕、月蝕、惑星直列、グランドクロス。星章を放つ天の星は共鳴し合って大きくなる。そうして放たれた星章は誰にも利用されずに世界を漂い続けている。
それが、もうすぐ十字に並んで中心にいる地球に落ちて来る」
「切縁・ヴェールはそれを利用する?」
「そう。貴女はその時に使われる」
んじゃ、それさえパスできれば……。切縁・ヴェールの目的は阻止できる。であれば!
「あ」
ピュアが珍しく間の抜けた声を上げた。そりゃそうでしょう。だって私が――逃げ出したから。
「教えてくれてサンキュ! それならその時まで逃げるだけさね!」
軽くウィンクを残して私、猛ダッシュ。逃げるが勝ちとは言うけれどまさにそれだね!
「逃がさない」
ピュアの銃から発砲音が聞こえた。
「おおう⁉」
私が脚を着いた逆さ円錐に突き刺さる光の十字。逆さ円錐が思ったよりも脆いのかピュアの光の十字に思ったよりも破壊力があるのか逆さ円錐があっと言う間に崩れてしまった。
「お――と」
別の逆さ円錐に跳びつく私。その周囲にある逆さ円錐に光の十字が突き刺さって悉くを壊される。物を大切に!
私は跳びつく場所を失って【覇―はたがしら―】の浮遊システムで一目散に逃げだした。ところが。
「お」
目の前に【門―ゲート―】が出現して光の十字が飛び出て来た。
「おっと!」
しかし不意打ちとは言えやられる私ではありません!
私は脇腹に当たりそうだった光の十字を体を捻って上手にかわし、光の十字が新たに開いた【門―ゲート―】に消えて、別の方向から飛び出て来た。聖剣・氷柱さんが似たような事やってたなぁ。
何て考えている場合ではなく。
「お? お? お?」
次から次へと転送と出現を繰り返す光の十字に翻弄される私。
ちょ、ちょいとお待ちっ。何て厄介な。
一瞬でもかわすのが遅れたらアウトだ。全方位に気を張り巡らせて私は避けて避けて避けまくる。
「一つじゃダメっぽい」
「え?」
ピュアの言葉に目だけを彼女に向ける。ピュアはもう一度銃を構えて、
「グローショット」
「――!」
無数の小さな光の十字を撃ち出した。しかもそれら全て【門―ゲート―】の中に消えて、そして現れる。
「この!」
私は腕と盾でできる限りを防いだ。けど光の十字は全方位から現れて突き刺さる。
「―――――――――――――――――――――――――――――ア!」
痛い。これは痛い。小さいから威力は落ちているけれどエナジーシールドを貫いて全身に針が刺さったみたいだ。て言うか刺さってるしね実際!
そんな状態で刺さった光の十字が消えて、出血が酷くなる。刺されてもナイフは抜くな、これ基本。
私は【覇―はたがしら―】の治療を最大限に発揮して治しに入る。せめて傷が残りませんように。
「涙月」
「なんだい? もうちょい待ってくれる?」
「また逃げるなら今のをもう一度撃つから」
「……イエッサー」
あれを喰らいたくはないから私は崩れて浮いている逆さ円錐の大きな残骸に脚を着いた。
しかし何だ……流石仮想災厄の母とでも言うか、強いなぁ。ではどうしようか? こうしよう。
「あ」
私は――逃げた。
「バカ」
ピュアが銃を構える。
「グローショット」
宣言通りの光の十字のショットガン。転送されて私の周囲から出て来て――
「え?」
目を瞠った、ピュア。なぜか? 私が小さな光の十字の全てを防いだからだ。盾から発する光のバリアに包まれて。
「さっきのは――」
「わざと受けたのさね!」
私は光の十字が現れた【門―ゲート―】の一つに手を突っ込んでピュアの銃を握りしめた。よっし銃に戦意の盾はない。だから私は上に思いっきり銃を持ちあげてピュアの手から銃を奪い去った。さっきのをわざと受けたのはこの油断を作る為。代償は大きかったけれどピュアの攻撃の基盤になっているだろうこれを奪えたのは大きい。
更に私は銃口をピュアの右胸に向けて――トリガーを引いた。
「…………れ?」
光の十字が――出なかった。
「ムダ。それは私と私が許した人にしか撃てない」
「マジっすか」
ならばせめて。
【門―ゲート―】から手を、銃を引っこ抜いて私はそれを大きく振りかぶって、投げた。
「うりゃ!」
飛んで行く銃。それは途中で私の開いた【門―ゲート―】に飛び込んでどこかへと消えてしまう。
「ごめんね」
「謝る必要はない」
ぐっ、と握られるピュアの右手。パッとそれが開かれた瞬間銃が転移して現れた。
「うっそぉん」
「貴女はこの銃を壊して捨てるべきだった。そうすれば顕現を解いて再顕現しても壊れたままだった」
……言われてみればその通りだ。アイテムは復元できる、とは言えボロボロに壊されたアイテムを修復するには時間がかかる。私のおバカさん!
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




