第304話「……ユメって最近笑ってる?」
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
☆――☆
私、涙月は思うのです。
「好きな人が間違っていたらね、止めるのが女の愛情だと思うんだ」
「前提が違う。私はユメが間違っていると思っていないから」
そう、全く表情を変えないでピュアは言う。今彼女はどんな感情を持っているのだろう? ユメが間違っていないと思うならもう少しくらい自信に満ちた顔色があっても良いのではないだろうか?
「私は感情が希薄だから」
「……ん~、切縁・ヴェールの方が正しいって?」
「それも違う。私は切縁に従っているのではなくてユメについているだけ」
足元から冷たい空気が上がって来る。
このエリアには深い青色をした逆さ円錐が幾つも浮かんでいて、私たちはその上に立っている。ガラス素材だから熱を感じられない。大きさはまちまちだけどどれも人が一~五人乗れるか乗れないか程度しかない。これはピュアのパペット対策だ。集団で襲い掛かられたらたまったもんじゃないからね。
「ユメの方が正しいと」
「そうでしょう?」
「まぁ……こっちの世界を救う方法ってのは地球だけだけど……だけどさ、切縁――ユメが認めてる方法って人殺しなんだよね」
「承知の上」
命の重みとか、説いてもムダかな?
「皆が助かる方法に頭向けてくんないかな?」
「ユメが考えなかったと思うの? そんなはずはない。ちゃんと考えて、それでも切縁の傍にいる道を選んでいるはず。
だから私はこちらにいる」
信頼する気持ちはあるわけで。
この子は感情が希薄なんじゃなくて表情に出すのが苦手なだけではなかろうか?
「……ユメって最近笑ってる?」
「? 基本いつも微笑だけど?」
「ああっとそいつは違うよ。それは笑ってないそれはただの仮面。笑うって言うのは気持ちの問題だよ」
私は自らの左胸に掌をあてる。
「気持ち……」
するとピュアも胸に手を置いて。
「そ。好きな人の事考えるとほっこりするし、好きな事やってるとワクワクするし、良い夢見てるとへら~ってなるのだ」
私がよー君を考えている時のように。
「それは人による」
「よ・ら・な・い。こう言うのは全人類共通さ」
「私、仮想災厄」
「それは屁理屈」
指を一本おっ立てて「ちっちっちっ」と左右に振る私。
「だって私だってもう仮想災厄じゃん」
「そうね、貴女はこちらに来るべき」
「他の仮想災厄を思い出してみ? 皆考えはあれだったけど笑ってたでしょ?」
ピュアの言葉を華麗にスルー。
「…………」
彼女は顎に人差し指の第二関節を当てて考えるポーズ。娘息子たちを考えているのだろう。
「……笑っていた」
「でしょ? でも今のユメは違う。違うんじゃない? それなら止めるべきだよ」
「…………」
よし、揺れてる。もう一歩。
「と・め・る・の」
「貴女の宵は笑っているの?」
「へ?」
笑っているか? に戸惑ったのではない。『貴女の宵』にちょっぴり戸惑ったのさ。私の……私のかぁ。
「変な顔」
「……はっ⁉」
どんな顔してたんだ私?
「でもそれが……笑顔なのね」
「う、うむ」
「……もし、宵がユメに勝てたなら止めても良い」
「う~ん」
勝てば官軍と言うけれど。勝った方に肩入れすると言うのはどうなのだろう?
「貴女が正しいのなら、世界はきっと宵と貴女を勝たせる」
運命ってのですか。
「それはつまりやっぱ私たちは戦うと」
「そうね。私はそれしか確かめ方を知らない」
「……わかったよ」
重い息を一つ、吐き出す。
ここはいっちょピュアの目から覚まさせますか。
「クラウン!」
騎士――パペット・クラウンジュエル、顕現。
「|女王陛下の軍《アームド・フォーシーズ・オブ・ザ・クラウン》」
イギリス軍――パペット・|女王陛下の軍《アームド・フォーシーズ・オブ・ザ・クラウン》、顕現。
クラウンの様子は色が変わっているだけでおかしなところはない。クラウンから流れこんで来る気持ちにもおかしなところはない。
仮想災厄になった影響はなし――かな?
『大丈夫。大丈夫である』
「うん」
産むが易しって言うしね。いっちょ行きますか。
「『ウォーリアネーム! 【騎士はここに初冠して】!』」
私の背にある羽がより輝いて、
「『ウォーリアネーム 【軍旗羽ばたく】』」
ピュアの背にも光の翼が。
ピュアの同化は初めて見るけど、大きな変化はなし、か。あ、ジョーカーも知らないや。
それなら。
「先手貰うよ!」
逆さ円錐の床を蹴った。ピュアの少し斜め上に飛び跳ねて重力と飛行能力を加えての――
「一刺し必中!」
西洋剣にもランスにも見える自慢のアイテムをピュアの左肩目掛けて突き出した。
殺してはダメだ。戦闘不能に追い込むのだ。
「――お?」
ピュアは無防備、防御の姿勢すら取らない。だから私のランスは彼女の左肩を突いて……軍服に似た電衣【seal―シール―】さえも貫けなかった。
ピュアが銃を構える。私はすぐに後方にジャンプして逆さ円錐に着地した。追って来る攻撃はない。ない……が。精神的には一手決められた。
電衣【seal―シール―】は確かに頑丈だし基本的に登録した本人の意思でOKを出した人や現象でしか動かせない。けど、攻撃に特化した同化状態で貫けない程ではないはずで。となるとだ。ピュアの同化による強化が施されたのだろう。
「強化――正確に言うとこれは戦意の合成」
「戦意?」
「幾万の兵士の戦意が私を護っている。容易にこの壁を越える事はできない」
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