第303話「『勝つだけだ!』」
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
「色々全開!」
エナジーシールド、苦無、ジョーカーの命の灯、そして星章。持てる防御力を全てフルに発揮して真っ白なユメの攻撃を受ける。
「……!」
熱はない。冷たくもない。ただ白いだけの不思議な光。それは神の光に違いなく。加えて以前の光よりも威力が格段に上がっている。感覚を刺激され、麻痺に堕ちて、精神を圧迫される――いや、漂白されると言った方が良いかも。次の手を考えようと働かせた脳だけど浮かんだイメージが白に染まっていくのだ。
「――――――――――う……アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
だからオレはただ必死になって何もかもを放ち続けた。
攻撃しろ。防御だけではどうにもならない。
ユメを攻撃して止めなければ!
「【覇―トリ―】――エスペラント!」
オレはどこにいるかもわからないユメに向かって手を伸ばす。ユメの希望を奪う為に。
けれど手に触れるものはなく。
じゃあどうする? 希望に触れて防御に力を?
いや、違う。
この光を――切り裂く!
紙剣に希望を纏わせる。届かせる。現象を斬ってこの剣の圧力をユメに。
「オ―――――――――――――――――――――――――――――!」
気合い一つ。オレは紙剣を振り抜いた。
白い光の中に一条の隙間ができた。
剣閃が飛んでいく。
信じろ。剣の最高位であるキリエ。それと同化しているんだ。今やこの体は剣そのもの。そしてアイテムである紙剣はオレと共に成長して来た唯一絶対の剣。
負けない。負けるはずが――ないんだ!
フッ――、と、本当にふと気づいたら白い光が消えていた。
「え?」
だからオレはその現象に面喰って呆けた声を出してしまった。恥ずかしい。
そのオレが見た景色の中で、ユメが左肩から胸に傷を負ったまま立っていて。
「ハァ……あれを斬って来るなんて……思わなかったよ」
宇宙カレンダーが展開されている天と地。その中央あたりでユメは自分の傷を見ながらそう言った。口からは一筋の血が垂れている。
「見事だけど……これじゃまだ切縁には届かないと思うよ」
「…………」
届かない、ここまでの事ができてまだ切縁・ヴェールは上にいると。ユメは確かにそう言っている。
「でも……止める」
「どうやって? 手段もないし時間もない。それに、君はここで僕に足止めされると言うのに」
「オレは人間の可能性を信じている。
今が無理なら一分後、一分後が無理なら一時間後、一時間後が無理なら一日後。オレは、人間はずっと成長し続ける。
そうやっていつか必ず切縁・ヴェールのいるレベルにだって到達して見せる!」
「宵、君は間違っているよ」
「え?」
「成長するのは君たちだけじゃない。切縁の成長が天井についているわけではないんだよ」
「――!」
まだ……強くなるって言うのか?
「切縁の成長に天井はない。君の言う通り君たちは成長するのだろう。けど一方で切縁も成長し続けている。一分後、一時間後、一日後。君と切縁の差は縮まらない」
オレは歯を強く噛み合わせた。ギリっ、と言う音が口の中で鳴る程に。
ユメの言っている事は正しいのかも知れない。けど、だとしても。それを理由に諦めて良い事には成らないはずだ。
「オレはそれでも切縁・ヴェールを止める!」
「……そう。
ではもう一つ君の間違いを指摘するよ」
「もう一つ?」
「成長するのは人間と切縁だけじゃない。この僕もまた、同じだよ。
【覇―トリ―】――エスペラント」
「――!」
ユメの体が夜空色の太陽に包まれる。
「この!」
変化の時間に攻撃するのは反則だろう。ヒーローも悪役もこう言った時は待つものだ。けど今は卑怯だと言われても!
『宵!』
「――キリエ⁉」
が、紙剣を振ろうとするオレの腕を止めた。
「キリエ!」
『ごめんなさい。けど、貴方を卑怯者にはできない』
「キリエ……」
パートナーの、キリエの感情が心に響く。
そうだ……こんな勝ち方をしてオレはそれを誇れるか? 否。否である。ちゃんと正々堂々と戦って、その上で勝たなければ。
「そうして負けて、君は世界に謝罪するのかな?」
そう言葉にするユメは夜空色の円環を纏っている。
「謝罪できると思っているのかな?」
「……思ってないよ」
「じゃあどうするんだい?」
「決まっている」
オレは大きく息を吸って、そしてキリエと声を合わせ、
「『勝つだけだ!』」
そう言い切った。
きっと笑顔で。
「……そう、勝てると良いね。無理だけど!」
宇宙カレンダーが消えた。と思った時にはユメが夜空色の棒を握りしめていた。
「「勝負!」」
二人同時に宙を蹴って、すぐさま切り結ぶ形になった。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
オレが咆哮八叫を込めた斬撃を放つとユメは夜空色の炎を纏わせた棒でそれを受け止め、
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
ユメが宇宙のあらゆるエネルギーを込めた回転刺突を放つとオレは星章を纏わせた紙剣の腹でそれを受け止める。
オレが苦無を飛ばすとユメがAIロボットを造り出す。
ユメがオレを火でくるむとオレは亀の灯でそれを遮る。
オレがチーターの脚力を込めた蹴打を撃つとユメは白い光を込めた脚でそれを止め、ユメが極小ブラックホールを掌に発現させてオレの胸を引き寄せるとオレは恐竜の爪を手の指に発現させてブラックホールごとユメの手を掴み。
オレが命の灯を紙剣に宿らせるとユメは不傷不死を棒に宿らせ、ユメがオレの希望を簒奪しようとするとオレは希望を集め盾にして、二人は攻防を繰り返す。
互い使命と感情を織り交ぜながら戦い続け、オレは異変に気がついた。
オレの体は疲弊している。【覇―はたがしら―】の治療をフル活動させていても体力の減少が感じられる。
なのにユメはどうだ? 息切れの一つも起こしていない。これは――まさか?
「気づいたみたいだね」
「――っ!」
「僕は仮想災厄。仮想災厄には――体力の限度がない」
やはり! これではこちらの動きが先に鈍ってしまう。どうすれば?
「いいや、もう僅かにだけど君の動きは悪くなっている」
――くそっ!
「もうすぐ絶対的な隙が生まれそうだね」
「そんなの!」
隙なんて生まない。見せない。一歩前へ、一歩だけでも良いからユメを上回る成長を!
「これまでにしようか。
――真央真牢の光――」
「――⁉」
初めて見せるユメの新しき光。夜空――いや黒い光がオレの中に生まれて膨らんで、黒い球体がオレを閉じ込めてしまった。
「これは……⁉」
「宵、僕は君を殺せないらしい。だったら、切縁が目的を果たすまで中にいてもらうよ」
「こんなもの!」
紙剣で球体を中から斬りつける。が。
「斬れない⁉」
「時間までいてもらう。必ず」
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




