第302話「思えばユメとは戦ってばかりだ」
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
それから十分後、オレと涙月と幽化さんの三人はそれぞれ『デイ・プール』にエリアを創ってその場で待機していた。『ナイト・プール』は使わなかった。夢を連結させているからもしそこのエリアが壊された時眠っている人たちに影響がないとは限らないからだ。そんな状況になった事がないから実際のところどうなるかわからないが。因みに待機エリアは自作である。
オレが待機しているここは野原を再現している。ある程度隠れられる場所があった方が良いかと思ったので遠くには林もある。
「……やっぱり君か……」
ここに繋がる【門―ゲート―】には入室に必要なパスを設定しないままに――解放状態にしておいた。だからここの存在さえ知っていれば誰でも入れるのだが……現れたのはやはり、ユメだった。
「思えばユメとは戦ってばかりだ」
「そんな僕を第零等級星冠に推薦するなんて」
苦笑にも似た微笑みで。
「オレが死んだ場合穴埋めが必要だった。ユメなら実力は申し分ないし、それを星冠として振るって欲しかった。
君だってずっと拘束されていたくはないだろう?」
「あんな拘束、抜けようと思えばいつでも抜けられたんだけど」
まじか。それは初耳である。
「……でも君は抜け出さなかったんだね」
「目的がなかったからね。ピュアとインフィには逢いたかったけどさ」
他人事のように言う。では根っこにある感情は。
「それって愛情? 家族愛?」
「う~ん……家族愛はあると思うけれど、人間の持つものと全く同じかは正直わからない。逢いたかったけど、あのままでも良いかと思っていた」
「それは多分……呵責……って言う奴じゃないの?」
「さぁ? 僕、自分の行動を間違っていたとは思っていないから」
「……今も?」
「今も」
当然か。オレたちだって人として間違った行動を取った覚えはない。
ユメからしたら仮想災厄として生き続け、それが間違った覚えはないのだろう。
「じゃ、何で切縁・ヴェールに従っているのか聞いても良いかな?」
「彼女が僕にとって家族だからだよ。宵、君、切縁に仲間がいてもそれを彼女の友だと思ったかい?」
「……いや」
ひょっとしたらサングイスさんは――とも思ったけれど、二人を良く知らないから不用意な断言は避けた。
「そう。独りぼっちの家族がいるならせめて自分くらい味方をしてあげたいじゃないか」
微苦笑を崩さずに。
「……そっか……それを聞けて安心した」
ユメは人間の心を持っている。もしかしたら分かり合える可能性だってある。第零等級に彼を推薦したのはやはり間違いではなかった。
けどオレが人間を好きで、ユメが切縁・ヴェールを好きなら……戦おう。
互い好きなものをかけて。
「キリエ」
パペット・キリエ、顕現。
「天つ空」
パペット・天つ空、顕現。
「『ウォーリアネーム! 【手にした夢は純白の輝き】!』」
「『ウォーリアネーム! 【夢見る僕の心の大きさは】!』」
二人は同時に大地を蹴った。
ユメのアイテムである宇宙カレンダーが野原に広がる。オレの真下から夜空色の炎が吹き荒れる。オレはそれを体から放たれる苦無で防ぎ――
「――!」
炎の勢いに負けて空高く飛ばされた。オレを追って来る炎。横に広がってオレを包みに来る。オレはキリエのジョーカーで鷹の翼を纏いユメに向かって急降下。その往く手を遮る炎。急上昇と同時にユメの姿を見失った。
「え?」
驚いた理由は、空にも宇宙カレンダーが広がったから。それから燃える岩石が降り注ぐ。一つ一つが強大巨大な隕石だ。オレは急ぎ場を離れようと翼を羽ばたかせて宇宙カレンダーの効果範囲から逃れた。だが。
「――っつ!」
宇宙カレンダーはオレを追って来て、隕石群は大地側の宇宙カレンダーの中に沈み、今度はそこから上空へと昇る隕石群が出て来たではないか。重力無視か。
「咆哮!」
逃れる事は無理と悟ったオレは一番近い隕石に向けて咆哮を放つ。隕石を貫き、砕き、オレは咆哮をそのまま動かして隕石群を破砕して行く。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
しかし一つの隕石を残して咆哮の放出が途切れた。咆哮は元々アエルの口から放たれるものだ。エネルギーは体内で生成され、すべて吐き出してしまえばそこで咆哮は途絶える。こうしてキリエのジョーカーとして使っても欠点は変わらない。しかもすぐには次のエネルギーを補填できない。
だからオレは命の灯に体を包ませて、隕石を避けた。同時に地上の宇宙カレンダーが輝いて――大爆発。大地は破壊され、土は飛び散り、空気は爆風となって吹き荒れる。
オレの体も破壊に巻き込まれて遥か彼方へと飛ばされた。
……何て威力!
何とか姿勢を正して飛ばされた先の空中で停止する。だが最早野原は見る影もない程に壊されて、良くエリアが壊れなかったものだと少し感心さえした。
その隙に爆発から逃れる為に消えていた宇宙カレンダーが再度地上に展開される。
「な――⁉」
今度現れたのは超重力の渦、ブラックホール。それも一つではない。オレの前方に一つ、背後に一つ。そのちょうど真ん中にいるオレの体は両者に割かれる勢いで重力に引っ張られて、
「このっ!」
どうしようもなかったから前方のブラックホールに飛び込んでみた。これで重力に負けて潰されるかとも思ったがそこは命の灯によって守られ、良くわからない不思議な空間に出た。黒い雪に似た何かがゆっくりと降って来る白い空間。ひょっとしたらここがワームホールと言う奴だろうか。現実では残念ながらそう言ったものは発見されていない。
「……どうやって出たら……」
良いのだろう? ここは無重力のようだし、【覇―はたがしら―】の基本機能で移動するか翼で移動するしかなさそうだが……肝心な出口がない。空間移動の【門―ゲート―】もどうやら開けない。
「……斬ってみるか」
紙剣で空間を斬った事はないけれど、フィクション何かでは強力な力で空間に穴を開ける展開が良く見られる。そう言った展開になってほしいと願いながら紙剣を薙いだ。……うん、何も起こらない。ならば。
「咆哮!」
放たれた炎は虚しくどこまでも飛んで行く。ダメか。
しかしだ。ここがワームホールならばどこかにホワイトホールと言うものがあるはずで。
オレは翼を羽ばたかせて空間内を飛び回った。ない。ない。ない。ホワイトホールどころか壁にさえぶつからない。
これは……まずいか?
『宵』
「ん、なにキリエ?」
『この黒い雪から歪みを感じる』
「え?」
どこからともなく振り注ぐ黒い雪。これに歪みが計測されると言う。……ひょっとして。
「これが出口?」
小さいよ!
とてもではないが体は入らない。
『これを集めて』
「出口を広げろと?」
『そう』
黒い雪の一つを掌で受け止める。異常はなく一つ、また一つと乗って来る。
やってみよう。
オレはジョーカーの中から数頭のイルカの灯を燈し、彼らに狩りの要領で黒い雪を集めてもらう。ぐるぐると回るイルカたちは海流ならぬ風の流れを生んで、黒い雪は立派な球になった。
通れるかと手を差し込んでみると、熱せられた風を感じた。隕石落下と爆発の余韻だろう。
よし。
体ごと雪の玉に入って元のエリアに復帰し――
「――真域滅火の光――」
「!」
ユメの最高の攻撃に身を包まれた。
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