第301話<簡単に人間を殺せるものはある意味人間を辞めているでしょう>
いらっしゃいませ。
是非に読んでいってください。
☆――☆
<プール……ですか>
オレたちの話を聞いた最高管理は珍しく戸惑った声を上げた。その気持ち、わからなくもない。だってツインプールはとてつもなく広いのだから。
<一つ一つのエリアには範囲に限度がありますが問題は数になります。企業は勿論一般市民にも創れるのですから今こうしている間にも新しくエリアが創造されているでしょう>
プールの用途は多岐に渡る。
ゲーム、教育、芸能、スポーツ、政治、祭事、ビジネス、果ては軍の訓練まで。非公開になっている個人の趣味に使われるエリアも無数に存在する。
それら全てをカバー――無理だ。
<監視と警護は勿論利用者の制限も恐らく不可能でしょう。億単位の利用者をプールから避難させるには通すべき許可が必要になります。仮に全てをこなしたとしても動かない利用者がいる事もあるでしょう。
では切縁・ヴェール――或いは凶悪な犯罪者が紛れ込んでいると説明したとしたら、それは間違いなくパニックを呼び起こします>
狙いがわかっているのにどのエリアに狙いを付けているのかがわからない。
<プールに異常が見つかったと言ったなら信用を失い、強制的に排除し【門―ゲート―】を閉じても……暴動でしょうから>
スローンズに沈黙が訪れた。打つ手なしのどんよりとした空気。
<それでも、無視はできません。
せめて私たちが干渉できるエリアだけでも警備を敷きます>
「外部の協力者はどうなるでしょう?」
と、オレ。
<魔法処女会の協力は得られます。しかしパトリオットとアンチウィルスプログラムは先の戦いで壊滅状態にあります。ですので無理強いはできません>
【緊急連絡です】
その時会話に入って来たのは久しぶりに聞く繭の声。
【世界各地の低度AIたちがジャンヌ・カーラに向かっています】
「「「――!」」」
【高度AIに異変は見受けられませんがウィルス攻撃を受けた痕跡があります。発信源はジャンヌ・カーラです】
困った状況なのに更に困った事が。
切縁・ヴェールが動き出したのは確実だが彼女がジャンヌ・カーラにいる保証はない。ウィルス流布を時限式にしておけば良いのだから。
<しかし放っておくのもできかねます。サイバーポリスだけで対処できれば良いのですが……>
「無理だな」
断じたのは、幽化さん。
「切縁・ヴェール製のウィルスならば紫炎の数式を使っているとみて間違いないだろう。それを解くには同レベルの数式が必要になるがアマリリスの現状はリスクが不明だ。真紅の数式は動かすべきではない」
<では如何様に?>
「低度AIの希望を簒奪する。構わないな?」
それは最悪、強制停止に繋がるが……。
<……了承します。これ以上切縁・ヴェールの思い通りにさせてはなりません>
「よし。
【覇―トリ―】――エスペラント」
『ムダだよ幽化』
「「「――!」」」
円環を身に纏い希望に触れようとした矢先、スローンズに響いた女の声。間違いなく切縁・ヴェールのそれだ。
『貴様の力が強力なのは理解している。恐るべきと表現しても良い。だからこそ昔私めを捕えると言う芝居の相手に貴様を選んだのだからな。
だがそんな貴様でも私めの紫炎の数式は破れない。
貴様もそれを理解しているはずだ。ゆえに涙月にアマリリスを頼れと言ったのだろう』
「……っち」
珍しく苦虫を噛んだような表情になる幽化さん。
『星冠諸君、貴様たちは黙ってツインプールに行け。ジャンヌ・カーラに目を向ける必要はない』
「まるでオレたちをツインプールに集めたいという言い方だな」
『その通りだよ幽化。だが安心しろ。ツインプールで貴様たちを殲滅する為ではない。その逆、貴様たちを後の世界に生かしてやろうと言うのだ』
<切縁・ヴェール。私たちに貴女の守護の下に生きろと?>
『信じられないか?』
<無理ですね。むしろエリアを一つずつ消滅させ殺害対象を探していくと言われた方が納得できます>
まったくもってその通り。今更生かすと言われても信用が置けない。
『優秀な人間を残したいのは本音なのだがな。
ではどうする?
ツインプールとジャンヌ・カーラ、戦力を分断する気かな?』
<……個人的な意見ですが>
切縁・ヴェールの問いには応えずに最高管理は話を変えた。
恐らく応えてしまえばあちらの計画が立てやすくなるからだろう。
『なんだ?』
<貴女は本当にツインプールで過去と未来を創造されるおつもりですか?>
『そうだ』
<紫炎の数式で新しくまっさらなプールを創れるはずなのに?>
しかもより頑強になるような気がするのは気のせいではないだろう。
『以前誰かにも言ったがあるものは利用するさ。それが人間だろう?』
<とうに人間を辞めているでしょうに>
『酷いな、心は人のままだと思っているが』
<簡単に人間を殺せるものはある意味人間を辞めているでしょう>
狂っていると言う意味で。
『では星冠を操り必要であれば殺害命令すら出す貴様は何だ? 人の上にいるのかな?』
<そのつもりはありませんよ。私が出すのは命令ではなくお願いですので>
『はっ、ものは言いようと言う奴だ。
まあ良い。で、ツインプールには来ていただけるのかな?』
<そうですね。第零等級星冠三名を向かわせましょう>
オレと、涙月と、幽化さん。
オレたちだけと言う事は――
「他の星冠はジャンヌ・カーラに?」
<はい>
『そうか。では私めはどちらで待とうかな? ……決めた。では、また縁があれば会おう』
どちらだろう? ツインプールに来るのか、ジャンヌ・カーラにいる気か。
「最高管理。オレたちはツインプールのどこに行けば?」
<どこでも良いと思われます>
「え?」
<希望的観測のレベルですが、恐らく貴方ガタを待ち受けているのはユメ・ピュア・インフィデレスの三名かと思われます>
「――!」
第零等級対仮想災厄、か。仮想災厄との戦いはもう終わったと思ったのに……。
<切縁・ヴェールは第零等級を軽んじてはいません。いないはずです。天嬢星冠卿と高良星冠卿の前に直接現れたのもそれが理由でしょう。ですから貴方ガタの前に必ず敵は現れる。貴方ガタには各個彼らを撃破、ジャンヌ・カーラで皆さまと合流して欲しく思います>
「「はい!」」
「わかった」
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。
 




