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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
300/334

第300話『私めはこの世界が好きだ。愛している』

ごゆっくりどうぞ。

【覇―はたがしら―】を通してオレの頭に直接語り掛ける声。

 この声は、切縁(キリエ)・ヴェール。


『まずはありがとう。これで世界には未来を望む意思が増えた』

「……何だって?」


 涙月(ルツキ)たちがオレを見る。彼女たちからしたら突然オレが声を漏らした風に見えただろう。


「切縁・ヴェールからの通話」


 そう言うと涙月と神巫(カンナギ)は急ぎオレの【覇―はたがしら―】とのパスを入力する。そうすると通話にアクセスができるからだ。


『人の話を盗み聞くとは。まあこちらは構わないがな』

「……涙月とアマリリスに何をした?」

『何を? 私めの目的に沿う力を与えただけだ。今更な事を聞くな。

 それより、だ。

 私めの次の目標を教えたいのだが』

「――は?」

『なに、ただの親切心だよ』


 そんなはずはない。切縁・ヴェールは間違いなくオレたちを操ろうとしている。


『まあ聞くだけ聞くと良い。来たければ来い、来たくなければ来るな。

 私めはツインプールを手に入れる』

「「「――!」」」


 ツインプール――

『デイ・プール』――体ごと電子変換させる事で入れるゲームワールド。

『ナイト・プール』――夢を繋げ拡張し脳が眠った状態でインできるドリームワールド。


「何の為に!」

『過去と未来を創る為に。まっさらな新雪の上に創るのも可能だが既にあるものを利用するのも一興』

「プールにいる人たちはどうなる?」

『それは貴様たちの声かけ次第だ。避難を呼びかけるも良し、見捨てるも良し。

 どちらにしても私めの行動に影響はない』


 オレは下唇を噛んだ。切縁・ヴェールの行動はブレない。世界を救えるならば人が犠牲になろうと構わないのだ。

 しかし。


「切縁・ヴェール」

『ほう、私めを呼ぶ声に落ち着きが戻ったな。芝居か本気か。先を続けろ』

「……目的の人物を殺せたなら世界消滅は起こらないんだろう?」

『そうなる』

「なら時間の創造は――」

『つまり「両方の準備ではなく一方に絞れ」と?』


 それが無茶な要求なのはわかっているし、どちらにしても止める為に動くわけだけど。


『できないな。私めは用心深くてな、一方だけで進んで失敗したらと思うと怖い怖い』


 声が全く怖がっていない。しかし用心深いと言うのは本当だろう。だからこそ二通りの道を開拓しているわけで。


「オレたちのやり方に手を貸す気は?」


 こっちに来い。


『エリアデータバックアップでの地球の復元か。聞くが、貴様は地球だけが復元されて満足か?』

「オレの個人的な感情は関係ない」


 辛いけど。


『なぜ感情を混ぜてはいけない? 構わないだろう、人はやたらと理屈理屈と口にするがそれすらも感情から出て来たものだ。人は感情を排除する事などできない。する必要すらない』


 感情か。心の揺らぎ、確かに取り除けるものではないな。

 けどそれはつまり。


「それは、あんたの行動にも感情が篭っていると?」

『篭っているとも。私めはこの世界が好きだ。愛している。人も、動物も、植物も、大地も、空も、星も、空間もな。

 だからこそエリアデータバックアップの復元はしない。それは既に別物だからだ。ああ、勘違いはするな。偽物を嫌っているわけではない。偽物――つまり模造品にも愛しようがある。だがその為にオリジナルを壊す気はない』

「……それなら、人を殺すのに呵責の一つでも?」

『あるとも。仕方なくやっているのだ。貴様が信じようと信じまいと関係ないがな』


 堅牢、頑丈、動かない。切縁・ヴェールの心は揺るがない。


「ユメは――」

『ん?』

「ユメはあんたの考えに同調しているのか? それとも無理を敷いているのか?」

『考えた事はある。が、ユメから異論が出た事はない。私めに同調しているのか、それとも実は私めを殺す好機を待っているのか?

 どちらにしても私めの障害には成らない』


 そうかも知れない。けど、無視はできない点のはずだ。


『知りたいならば私めを止めに来るが良い。そこにユメはいるだろうから』


 それを最後に、こちらが呼び掛けても返って来る言葉はなくなった。


「よー君」

「……最高管理に話すよ。ツインプールを護らないと」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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