第03話「よー君、おはよ。ドアのとこでつったってたら危ないぜ?」
いらっしゃいませ。
☆――☆
「おっすよーちゃん」
「あ、よーちゃんだ」
オレたちの中学教室、2-Aの扉を開けると声が上がった。男子も女子も、オレをちゃん付で呼ぶ。
相変わらず住み心地が悪い教室。
「よー君、おはよ。ドアのとこでつったってたら危ないぜ?」
そう言って可愛くウィンクする女子、高良 涙月。
「さ、座った座った」
肩までの髪――色が薄いせいで銀や灰色に見える――を片方だけテールにし白い竹の櫛をつけた高良はグイグイとオレを引っ張って机まで行って席に着いた。因みに高良の後ろがオレだ。
「あれ?」
「え?」
見ると、高良が目を丸くしていた。
「よー君その子成長した?」
「――!」
アエルの変化に気づいた……家族以外で気づいたの初めてだ。
八つの顔のうち一つがちょっと個性出し始めたってだけなんだけど。
Lv100の状態じゃ皆顔が違っていた。
「かっこ良くなりましたなぁ」
その個性を出し始めた一つをちょいちょいと突く高良。
そんな彼女のパペット――小さな騎士も一緒になってランスでつついていた。
『うむ、姿から入るのも道の一つである』
…………。
「え? ぷちナイトもう喋れるの?」
「ふははははそうなのだこの休日で喋れるようになったのだ」
V! 指でピースを作って天に掲げる。
今日もハイテンションだな……。
「アエルが喋れるようになったら皆声違うのかな? その場合皆それぞれの名前が必要なんじゃないかな? 私つけるの手伝おうか? て言うかつけたいな!」
「『まず落ち着いて』」
オレとぷちナイトの声がハモッた。
「あい失礼!」
「ホームルーム始めるぞ~」
☆――☆
放課後
「ねぇねぇよー君『ウォーリアドーム』寄ってかね?」
「良いよ」
「…………」
おや? オレの返事に高良がピタリと停止しているぞ?
「いや、なんで固まってんの?」
「や~昨日までのよー君だったら可愛い言われるの嫌がるだろうな~と思って結構誘うのに勇気いったんだぜ?」
「あー……」
一度Lv100経験したからかな? またあの姿を見たい、強くなりたいって思ってる。
「色々心構えを正す出来事がありまして」
「そっかそっか。そりゃ良かった!
ではレッツゴー!」
「そうだ、昨日の『ドラゴン』よー君も見た?」
「ドラゴン?」
ウォーリアドームに向かう道すがら、高良は空を見ながら話し始めた。
「黒ーく大きいホースみたいなのがね、ドーンとあってさ、人から聞いたんだけど顔があったんだって。
だから通称ドラゴン」
「…………」
「それは何か知ってる人間の固まり方だぜい?」
「え? あ?」
オレだ。オレのアエルがLv100になった時のあの姿。
言われてみればオレから見た風景は姉が作っていた空間だったから忘れてたけど、他のユーザーからは『オレの家から大蛇が出ている』と言う風に見えたはずなのだ。
「な~に~を~か~く~し~た~?」
「えっと……」
そう言えば隠す必要はあるんだろうか?
強くなったのを隠してても意味はないと思うんだけど、今朝あっさり負けちゃったしな。
「言ってみ言ってみ」
「……実は――」
「アエルがどーんと大きくなった?」
「う、うん」
大きく腕を広げる高良に通行の皆さんの視線が集まっている。
「成程Lv100……『クラウンジュエル』、知ってたLv100?」
『私はオフラインでは君が集めた情報しか知らないである』
「あそか」
ん~、と高良は頭をひねり――
「論より証拠! アエルかクラウンジュエルのどっちかがLv100になれば話早いね。
私、今Lv62だけど、よー君いくつになった?」
「えっと、Lv56」
「ふむ、でも一気に跳ね上げられるわけだ。
君にもないかねぇそんな方法?」
つんつんと小さなナイトをつつく高良。
そうこうしている内にドームにたどり着いた。
ヴァーチャルゲームを扱っているからか、実に未来的なデザインだ。
「お~今日もいっぱいいるねぇ」
中に入り様子を見た高良は受付に向かいつつ手で作った双眼鏡を目に当てる。
その『いっぱいいる』人たちは中央で繰り広げられるバトルに熱狂していた。
『ウォーリアドーム』――陸・山・海・空、などなどをナノマシンで作り出す決戦場。大きさはかつてあったと言う東京ドームくらい。
ユーザーは自分のライフ、パペットのライフをかけて戦うのだ。
流れている音楽が気分を高めるものだからバトルは異様に盛り上がっていた。
オレと高良は受付でエントリーを済ませ、適当な椅子に腰を下ろす。
「おうインベーターゲームできるぜこのテーブル」
「レトロと近未来の合作……嫌いじゃな――」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ド!
「「うわ!」」
ただでさえ賑やかなドームに大きな太鼓を叩いた如き音が響き、一瞬ユーザー皆が静まった。
音楽だけになったドームの中で、中央でバトルをしていた二人に視線が集まる。
一方は目をむき、汗をたらし、もう一方は何か砕かれた鏡のような物に包まれ、笑いこそしていないが余裕の表情を浮かべていた。
あれ? 汗たらしてる方、パペットはどうしたんだ? 見えないけど、どこかの障害物にでも隠れているのだろうか?
『しょ、勝者・幽化&レヴナントペア!』
ワァァァ! と、歓声が起きなければならない場面で他のユーザーはドヨドヨと動揺を隠せずにざわついている。
「よー君見てた?」
「ううん」
『では今のバトルをダイジェストでお送りします』
実況さんの声と同時にドームの天井がスクリーンになり、数分前の風景が映し出される。
――バトルスタート――
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ド!
「「「――!」」」
バトル開始直後、鬼に似たフォルムを持ったパペットが、もう一方の鏡の魔獣のようなパペットの角に貫かれていた。
強烈な音はどうやら魔獣が音の限界を突破した時鳴った空気破裂音だったらしく。
それだけなら「うわ! 速!」で終わりだが、それだけではなかった。
鬼が捻じれ、角に吸収されていく。
魔獣の形が少し変化し、そこで、
――バトルエンド――
と言う終了アナウンスが流れた。
パペットのバトルはパペットかユーザーの100あるライフ=HPが0になったらエンドだが、敵を吸収しレヴナントのHPが200になっていた。
「吸収って……」
「喰った?」
「合体と一緒か?」
「んじゃ能力は?」
口々に謎を言葉にするギャラリー。ドヨドヨとした雰囲気はまだ収まらず、ユーザーは降りてくる男をモー○の如く横に避けて通らせる。
アエルの吸収成長とは違う吸収進化。だとするならあの魔獣、相当レベルップしたんじゃないだろうか?
「よー君よー君、あの人知ってるぜ」
意味があるのかないのか、高良がこそっと言葉を発する。
「月刊パペリストに載ってた人だよ。
『前パペットウォーリア優勝者』だって」
「うんオレも知ってる」
だって、彼こそがオレの超えたい人なのだから!
「でもなんで首都暮らしのトップが本州の端っこの西京にまで?」
旅行で来た、と考えられなくもないけれど。
「敵がいなくなって飽きたとか?」
「オレたち狩りの対象?」
それは怖い。
『27番のお客さま、次対戦でーす』
「あ、私だ。ちょっくら行ってくるぜい」
アナウンスに呼ばれて、腰を浮かす高良。
「うん、頑張って」
「おう」
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