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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
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第291話「切縁は過去と未来を創り出すから」

ごゆっくりどうぞ。

☆――☆


「お久しぶり、て言う程の時間は経っていないか。(ヨイ)ちゃん、涙月(ルツキ)ちゃん」


 その看守は呑気に手を挙げてオレたちに挨拶をくれた。

 少々休憩しようかと思って公園に立ち寄ったのだけどそこのベンチに座っていたのだ。

 看守・アルベルトが。

 アルベルト――かつてオレたちを閉じ込め奇襲をかけて来た男だ。

 彼は既にパペット・スクージャと同化済みで更に【覇―トリ―】も使用中であった。それはつまり、オレたちと戦う気満々と言う事で。


「まーまーこっち座りなよ。入口に突っ立ってないでさ」


 そう言いながら自分の座るベンチの両側を手でぽんぽんと叩く。サンドイッチ状態になりたいらしい。

 しかし当然オレたちは並ぶ気にはならず。


「あ、ワシの横がいやならほら、そっちにあるベンチにでもどう?」


 隣のベンチを差すアルベルト。


「……悪いけど、オレたち急ぐから」

「急ぐ? どうして?」

「どうしてって――」


 何を今更。


切縁(キリエ)が動く時期がわからないのに急ぐ必要あるのかな? ここに君たちが入ってから外でワシらが誰か殺した何てないよ」

「外で、ってなると中ではあるんだね?」

「そりゃねぇ攻めて来ている人たちがいるから自分の身を護らないと」


 これは戦いなのだから。それはわかっているが……やはり死者が出てしまったか。


「せーの!」

「「――!」」


 いきなりな涙月の「せーの!」。驚いて横を見ると既に西洋剣にもランスにも見えるアイテムを突き出していて、オレたちとアルベルトの立つその中央に爆風が上がった。土煙がアルベルトの姿を隠し、


「よっし行くよよー君」


そうオレの耳元で涙月は囁いた。

 オレは無言で頷き踵を返すと二人並んで走り出し――


「よいしょ」


 そんなアルベルトの声と同時に大鎌が投げつけられた。


「――っと」


 それはオレと涙月を引き裂くように二人の間を通り過ぎて向かいにある喫茶店の壁に突き刺さって止まる。


「ちょっと話そうかと思っていたけど、仕方ないね」


 土煙が晴れていく。オレたちの脚は止まっていて、オレは背後にいるアルベルトを、涙月は投げつけられた大鎌を注視する。


「……話って言うけど、何を話したいのさ?」

「宵ちゃんにじゃなくて、涙月ちゃんの方」

「うん? 私?」


 振り返る涙月。と同時に大鎌が再び二人の間を通り抜けてアルベルトの手に戻った。


「そ。涙月ちゃん。

 あのね、切縁が君を欲しがっているんだけど」

「ごめん私そっちの気はないんだなこれが」

「いやいやいやそう言う意味じゃなく。君の力が必要なんだってさ」


 わかってはいたけれど、涙月は絶対わざとボケている。


「悪さには貸さないぜ」

「悪さか……切縁は世界を救おうとしているんだけどなぁ」

「人を殺してかい?」

「そう言う救い方があるんだよ、宵ちゃん。ねぇ宵ちゃん涙月ちゃん、一億の人を救う為に一人殺す必要があるならその殺しは正義に成らないかな?」


 この問いにオレたちは押し黙ってしまった。そんな選択を取る必要があるのなら……取りかねないから。けど。


「それって全部の策をやり尽くした後の最後の手段だよね?」

「そう。だから――」

「切縁・ヴェールはやり尽くしたって言いたいの?」

「うん。切縁は苦悩していたと思うよ。いや今もか。産まれてからずっと苦悩し続けた彼女は今も苦悩している。

 であるなら、彼女を救ってあげたいじゃないか」


 ……ん?

 オレは少しばかり眉を潜めた。


「アルベルト、君は切縁・ヴェールの計画を遂げたいんじゃなくて彼女を救いたいの?」

「……あー? うん? そう意識した事はないんだけどなぁ」

「恋だね!」

「それは違う」


 びしっと放たれた涙月の言葉を即否定。


「何と言うか……家族愛? って言葉がぴったり来るかな」

「「家族愛……」」

「そ。ワシ子供の頃に家族皆死んじゃってるから、そこを切縁に拾われて育てられているから、母親――みたいなもんなんだよ」


 だからこそ彼女を護りたい、と。


「ちょっと切縁の目的について話そうか。

 あのね――」


 そう切り出された話を聞いて、オレたちは汗をかきながら膠着した。

 世界が消える。後半年以内で。原因は一人の人間でそれが誰かはわからない。だからこそ切縁・ヴェールはアプリ『デス・ペナルティ』をばら撒き無差別に殺していった。


「史実演算機に映らないって事はシステムに干渉できるか世界の事象の中から外れたところにいるかだけど――」


 後者に当たる人物が今の時代にいるとは思えない。いやそもそも。


「史実演算機は決して完璧なシステムじゃないはずだけど」

「そうだね。けどその時はその時に考えるよ。今は今見える未来の為に最善を尽くさなきゃね」


 だから第一に。


「切縁はこの世界に時間を創る」

「……は?」


 時間を創る?


「二人はこの世界に時間の流れがあると思う?」

「そりゃ……」

「ねぇ?」


 目を合わせるオレと涙月。

 時間はある――はずだ。や、そう思わなければ様々な分野で不都合が出るだろう。例えば綺羅星(キラボシ)とエレクトロンはタイムポーテーションを研究しているわけだし、それは今や完成間近であるとも言われている。


「今、時間はあるよ。だってこの後切縁は過去と未来を創り出すから」

「「――⁉」」

「世界はそれ込みで動いているんだ。難しいけどわかるかな? こう言う例えならどうだろう。誰かが過去に行ったとして親となる人物を殺そうとする。けれどそれは必ず何かに阻まれて成功しない。それはもう子供ができていると言う未来があるからで、殺しの失敗と言う出来事も既に組み込まれているから」


 つまり過去は変えようがない、と言う話だ。


「切縁が時間を創らなければワシ等には今しかなくなるのか? ノー。切縁が失敗したとしても必ず誰かが成し遂げる。だから過去と未来と言う時間はある。

 そしてそれこそが世界の消滅を防ぐ最初の一歩となるんだ。

 未来を創れたなら世界の消滅は防がれた事になるからね。

 その為に涙月ちゃん、君の力が要る」

「……私そんなすっごい目的に役立つ力持ってないんだけど」

「君を聖騎士にしたのは切縁だよ」

「――⁉」

「ビキニ環礁での試練は宵ちゃんとパフパフちゃんにとっては間違いなく敵対行為だったけど君だけは違うんだ。役に立たないなら死だけど、それ以上に君の能力を底上げする為のものだった」


 思い出す。そう言えば涙月は自力であの戦いを突破し新たな力を得た。


「君はまだ聖騎士として本領を発揮していない。世界に干渉できるようになるまではまだまだだ。

 だから、ここでワシが何とかしてあげるよ」


 アルベルトから何かが膨れ上がった。殺気ではない、殺意ではない、敵意でもない。これは……闘気、と呼ぶべきだろうか?

 オレと涙月は揃ってアイテムの紙剣(シケン)と西洋剣にもランスにも見える武器を強く握った。


「や、そう言う様子見と分析は要らないからさ、二人共同化と【覇―トリ―】でおいで。ワシもそうしているんだからさ」


 確かに、ただのアイテムでは勝ち目はないだろう。だから。


「「ウォーリアネーム!」」


 オレと涙月、二人は一つ頷き合ってまずパペットと同化を果たし、


「「【覇―トリ―】――エスペラント!」」


更に円環を身に纏った。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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