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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
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第285話「タオレルナラバマエヘ。イッポデモオオクススメ」

ごゆっくりどうぞ。

「「――!」」


 そいつは、そいつの体は機械だった。囚人【アルターリ】。青いボディに透明で大きな帽子状の頭部。製作者の神経を疑いたくなる文様が全身に入っている。


「ウシロニタオレルナヨ」


 囚人はワシに向かって言う。


「タオレルナラバマエヘ。イッポデモオオクススメ」

「……囚人が……看守に言うセリフか……」


 吐き捨てるように。


「タチバノチガイナドオレニハカンケイナイ。ミナビョウドウデアルノダカラ」

「はっ……それが差別されていた奴……の言葉かよ」

「ダカラコソダヨ。ホラ」


 ワシの体を振って前へと倒す。ッチ、ワシが実況役とは。

 囚人はそんなワシの横を通って前に出る。


「ツカレテイルラシイガ、ツギハオレガアイテダ」


 小振りなアパートの屋根にいたスノーと氷柱(ツララ)。そんな二人への言葉だ。


「……降りるぞ、氷柱」

「はい」


 軽く屋根を蹴って囚人と同じ道路へ。

 黒い街に囚人の青はやけに明るく見える。


「二対一は卑怯か?」

「カマワナイ。イヤゲンミツニイウナラカズノリハコチラニアル」

「?」

「パペット『ファンタズム』、デロ」


 囚人によるパペットの顕現。その姿は細い一本足の鳥人だ。


「『ウォーリアネーム』」


 囚人とパペットの言葉が重なる。


「いきなりか」

「『【寒々朝日に現れる】』」


 同化。翼を持つ【アルターリ】となった。


「ジョーカーハツドウ」

「「――⁉」」


 囚人が、増えた。一人二人ではない。十、いや五十は行くかも知れない。


「氷柱、同化するぞ」

「はい。『ウォーリアネーム――【閃き煌めく剣山刀樹】!』」


 氷柱のパペット、剣の聖獣『シンボルスォード』の顕現、同時に同化。


「『ウォーリアネーム――【恨まれねたまれそれでも輝く】』」


 スノーも同じく。


「「「モウハジメテモイイカ?」」」


 全ての囚人が口を揃えて。


「待っていてくれるとは」

「「「コチラガヨユウヲミセテイルウチニゼンリョクヲダスノダナ。オレハソレスラコエテタオスゾ」」」

「やって――みろ!」


ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド!


 増殖した全ての囚人を下から貫く氷柱の剣・剣・剣。


「分身に対する基本は全員同時攻撃」


 しかし。


「「「ナゼ、ミエテイルノデゼンインダトオモウ?」」」

「――!」


 剣に貫かれながらも一体とて倒れるものは居らずに。


「「「イッテオコウ。コノスベテガホンタイデアリ、ソノカラダハ――」」」

「氷」

「「「ソウ。ツラヌカレヨウガ――」」」


 剣から抜き出る囚人。


「「「ミズトナッテフタタビコオリツクノミ」」」

「……っ」


 下唇を噛む氷柱。そんな奴にスノーは言葉をかける。


「急くな。

 全てが本体と言ってもやり方は間違っていない。お前は今の攻撃を続けろ。

 私が奴を暴く」

「はい!」


 今度は囚人の首を落とす形での剣の出現。だがそれでも。


「「「ムダダトイッタ」」」


 再生する囚人。

 そこにマグマが降り注いだ。


「「「マジョカ」」」


 スノーの魔術によって出現したマグマは囚人を呑み込み、蒸発させる。全ての囚人が消えて、囚人は再び分身して現れた。

 一体たりとて逃さなかったはずだ。となるとやはり一体、ないしは数体潜んでいるのだろう。


「それなら! スノーさん! でかいの行きます!」


ド――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!


 スノーが上空に避難したのを見て、氷柱は極大の剣を空から地に落とした。

 あ~これはあいつもやられたかな?


「「「ヌゥ⁉」」」


 圧倒的な剣圧。道路・ビル・街灯・街路樹、一帯にあるもの全てが粉微塵に消し飛んで極大剣が大地に突き刺さる。

 囚人とて例外ではなく剣圧に負けて粉となり、更に生まれた暴風によって吹き飛ばされる。

 剣圧、暴風が落ち着きを取り戻し氷柱は極大剣を消して周囲を見回す。一面綺麗に消し飛んでいて、どこにも囚人が隠れられる場所はない。

 それなのに。


「「「ナルホド」」」

「「――⁉」」

「「「ショウショウアナドッタ。ハンセイシヨウ。ハンセイシテ、アイテヲシヨウ」」」

「なんだ?」

「どこから声が⁉」


 スノーと氷柱。囚人を探すも姿は見えず、しかし二人の前に氷の結晶が現れて、


「「「コレデイクラカマシニナッタトオモウガ」」」


氷の結晶が雪を生み、三体の巨大な囚人となった。


「これは――分身ではない!」

「まさか大気にある水分が……⁉」

「「「ソウ。ワガジョーカーハ、タイキチュウノスイブンニカラダヲトケコマセルノウリョクダ」」」

「「なっ」」


 体ごと、意識ごと。自由に水分に溶け込む能力。その水分を操って氷を作り、雪を作り、こうして巨大な疑似的な体でさえ構築できる。


「「「スイブンイッテキデモノコセバサイセイカノウダ。

 オマエタチ、コレヲヤブレルカ?」」」


 囚人の手に巨大戦斧が握られる。更にそれが微振動を起こし、切れ味を増す。


「「「サァ、ニゲロ。デキルナラバマエニ」」」


 振り降ろされる戦斧。

 スノーは身を翻してかわし、氷柱は巨大剣二振りをクロスさせて受け止める。だが二人とも失敗した。


「ぐっ⁉」


 風に動きを封じられるスノー。そこに第二撃が来て避けきれずに腹を切られてしまい。


「が!」


 巨大剣を通して氷柱にかかる圧力。地面を破って足がめり込み、神経に・骨に振動が伝わってくる。思わず膝を着く氷柱に向けて第二撃が撃ち込まれ右肩から右足までを深く抉られる。


「「「ツギハコレダ」」」


 戦斧が消える。今度手に握られたのは銃だった。


「「「タマハコオリ。シカシソノセンタンハスルドク」」」


 撃たれる氷弾。宣言通りにその先端は鋭利な刃物にも見えた。


「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」」


 スノーは全身に火刑の炎を纏い、氷柱は剣の連撃で氷弾を千切りにする。


「「「タイシタキリョク。ダガ――」」」

「「――⁉」」


 二人の体に異変が起きた。意に反して動かないのだろう。氷弾は防いだ。しかしこれでは次の攻撃をかわせない。


「「「イヤ、モウコウゲキハハジマッテイル」」」


 巨大な指が二人を指す。


「「「スデニオマエタチノタイナイニワガスイブンガシンニュウシタ」」」

「「……っ」」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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