第284話「パペットはパペットで! ジョーカーはジョーカーで破れる!」
ごゆっくりどうぞ。
大鎌を振り上げ、
「大人しくしろよ手元が狂うからなぁ!」
スノーの首目掛けて投げつける。
「っち!」
投げたとは言えあくまで大鎌。スノーは自分の速度ならかわせると思ってか大鎌から目を離さず――軌道が曲がった。
「なに⁉」
大鎌の向かう先は、氷柱の首。
「させん!」
首の下あたりにある赤い宝玉を拳で砕くスノー。するとスーツが吠えるような軋みの音を出した。スーツの機能を一時的に暴走させるのか。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
獣よりも獣。スノーは野獣となって大鎌を追撃する。
手が傷つくのも厭わずに大鎌を殴り飛ばし、氷柱を抱えて四つの塔の一つへと地を蹴り向かう。
「オイオイおいおいオイオイおいおいオイオイ!
なんだそりゃサイッコウじゃねーか!」
スノーを追うワシ。その隙にコインを回収し、自身に溶け込ませる。
「がああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
人狼。歯からは牙が生え、髪の毛は銀に染まり、爪は刃と変化。
自身を獣に変えてスノーを追う。
しかしスノーはワシには目もくれないで一直線に塔を目指し――遂に攻撃可能範囲にまで到達した。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
手の指の先に光の爪を生み出し、薙ぐ。
「やってくれんなぁ!」
爪の圧力は塔に達してチーズをスライスするかのようにあっさりと断ち切って。
「だけどよ!」
「――!」
すぐ後ろにはワシ。スノーの脚を獣爪の生えた手で強く握り、引っ張り、ビルに叩きつける。
ワシは宙に浮いて、次いでスノーの首に噛みつき肉を喰いちぎった。
「ぐ……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
飛び散る鮮血。それでもスノーは吠え、光の爪をワシの腹に突き立てる。
「があ!」
たまらずスノーを引き剥がして頭を掴んでもう一度ビルに叩きつけ、
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」
爪による乱撃。
「良いスーツ着てんなぁ!」
爪は確実にスノーに傷を残している。しかしそれは全撃の半数だけでもう半数はスーツによって防がれている。
「技術主任に――伝えておこう!」
ワシの額に自分の額を強くぶつけてくる。
「ぐ⁉」
よろめくワシ。割れた額から流れる血が目に入り一瞬だけスノーを見失った。
「ぐあ⁉」
スノーの爪の手刀が胸に撃ちつけられる。
「まだ! 心臓には達してないぜ!」
獣になった事で筋肉の耐久性が増しているのだ。でなければ今の一撃で心臓を貫かれていただろう。
「ならば!」
「ふぎ!」
ワシの股間を膝で蹴りつける。
「何てな!」
「――っち!」
しかし激痛が走ったのはスノーの膝の方で。
「余計な物を履いている!」
「金的なんて誰もが思いつくからなぁ! 防御は固めるに決まってんだろ!」
ワシの薙いだ爪がスノーの爪を砕く。
スノーも負けじとワシの牙を肘鉄で砕く。
「自慢の牙を!」
「入れ歯にでもすると良い! 良い歯医者を紹介しよう!」
「そりゃありがてぇ!」
下に向けて手を伸ばすワシ。すると飛ばされた大鎌が独りでに飛び立ち手に収まった。
「おっとすまねぇこれでお前とはさよならだな!」
大鎌をスノーの首に向けて振り下ろし――
「『サバト』!」
「んん⁉」
視界が白に染まる。一面が発光したのだ。そのせいでスノーを見失い気づけばワシは森の中にいた。
「ク――――――――――――――――――――――――――――――――――――ル!
良いぜ良いぜ! これがお前のパペットか!」
空間型のパペット『サバト』――新緑の森か。
「だが、ちっと遅かったな」
見失ったスノーを近くの木の枝の上に見つけた。その首は深さ数センチ斬られていて流血していた。
「じきにお前の血は致死量に達する。それまでにワシを倒して治療に専念、できるかい?」
「するとも」
「そうか!」
「サバト!」
森が――笑った。かにワシには思えた。
木々が根を持ち上げ、枝が騒めき、幹が縦に開き、足・腕・単眼になる。木々は何らかの言葉を呟いて、
「――!」
魔術の炎を放つ。
「通じねぇ!」
大鎌で火炎を切り裂くワシ。
「この大鎌は特別製だ! んな攻撃は通らねぇ!」
「そうか!」
ならばとばかりに木々は冷気を放つ。火炎が通じないなら凍らせるのみってか。
「それも通らねぇ!」
大鎌に紫炎が宿る。その炎は冷気を切り裂き蒸発させる。
「ん⁉」
意図せずワシの体が揺れた。足元を見ると木の枝が伸びて来ていて両脚に絡みついていた。
「炎も冷気も囮かよ!」
「それも囮だ」
「あ⁉」
「サバト! ジョーカー!」
ワシの背後に出現する木の十字架。どこからか縄が伸びて来てワシの手首、足首、首を縛り付ける。
足元からぱちぱちと音が鳴って、火が点いた。
魔女の火刑か。
「お前が魔女側じゃねーのかよ!」
「さあ逃げられるか?」
「パペットはパペットで! ジョーカーはジョーカーで破れる! 常識だぜ!
来い! ニーズヘッグ『ヴァイガー』!」
北欧神話の獣ニーズヘッグ。世界樹の根に噛みつき続ける神話の獣を模したパペットを顕現しワシを捕える十字架を噛み砕かせる。
「確かに! パペットはパペットで破れる! しかしそれはこちらにも言える事!」
「なに⁉」
ヴァイガーを貫く幾つもの十字の木。すぐさまにヴァイガーが火刑に処されるが。
「まだまだ! ヴァイガー! ジョーカー発動!」
ヴァイガーの巨体が青い炎に包まれる。そしてその巨体が、消えた。
「後ろ⁉」
そう。ヴァイガーは消えたと思ったらスノーの背後に現れたのだ。
「空間を焼き消す能力だ! 実にク――――――――――――――――――ルだろ⁉」
「確かに素晴らしい能力だ! だがしかし! こちらにはまだアイテムがある!」
「なっ⁉」
ワシは目を瞠る。その目の前でヴァイガーが幾百もの腕と手に絡め捕られていて。しかも手は焼け爛れているではないか。
「なんだ⁉」
「魔女として火刑に処された女たちだ! このままにしておけばあの世に引きづり込まれるぞ!」
「――くそっ。ヴァイガー! 顕現を解け!」
マスターユーザーの言葉に従い、消えて行くヴァイガー。
「今だ! 氷柱!」
「何――がぁ!」
苦悶し口から血を吐くワシ。
ワシの背から、巨剣が撃ち込まれたのだ。
「そう……か……気が付いて……やがったか」
スノーはパペットを消して、よろめきながらも立つ氷柱の横に着地し彼の肩に手を置いた。
「良くやった」
「は……はい」
倒れ落ちるワシ。
元の黒い街に戻った道路に体を横たえ――ると思ったところで何者かに首根っこを掴まれた。
お読みいただきありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。




