第280話「ど・い・て・な」
ごゆっくりどうぞ。
どこからともなく飛んで来た白い帯。神巫とコリスはそれに腕と脚を絡め捕られる。帯は二人の心臓も狙うがそれは発動されたエナジーシールドによって弾かれた。
「バカモノ。ナヲヨバナケレバカンゼンニフイヲツケタモノヲ」
透明化を解いてワシの横に降り立ったのは――囚人【アルターリ】、ブライド。
「不意を突かないと倒せないとか。よっわ」
「バカモノノヨウニラッカンシナイ。アノフタリハジュウブンニツヨイ。ソレハイマモッテタオセテイナイバカモノモショウメイシテイル」
「ふん」
「『ウォーリアネーム! 【フルリ人の行列言神曲】!』」
「『ウォーリアネーム! 【術に魅せられ奇跡を視る】!』」
神巫、コリス共にパペットと同化。より強力になった一朶のジョーカーで白い帯を楽譜化して。
「御返し」
「む?」
すぐに白い帯を具現化して囚人とワシを縛り上げる。
「コリス!」
「あいあいさー!」
ジョーカー・ペット。ピンク色の鯨の顕現。
鯨は小さな姿で現れてどんどんと大きくなっていく。聖堂いっぱいに広がったと思ったらそれでも巨大化は止まらずにとうとう聖堂を壊して更に大きくなっていく。
「潰れてくださーい!」
鯨はワシと囚人の上に留まってゆっくりと降りて――
「『ウォーリアネーム! 【道行豊かに幸福に】!』」
ワシとパペット同化。
「消えなさいな!」
ワシの掌に白い渦が生まれ、縛り上げていた帯が吸い込まれていく。
自由を取り戻したワシはそのまま手を鯨に翳す。すると鯨までもが吸い込まれて。
「コリス! あの子を消して!」
「は、はいな!」
顕現を解かれる鯨。吸い込まれた部分は極僅か。回復可能な域だ。
「朗読なしでの強制葬送ね」
「そのとおーり。お前らも飲まれれば天国行きだよ」
「ノマレナケレバイイワケダガナ」
「ちょっとあんたがツッコんでどうすんのよ」
喧嘩しながらもワシらは神巫たちから目をそらさない。少しでもそらしたら付け入られる隙が生まれてしまう。
「神巫神巫」
小声で、コリス。
「ん?」
「全力でやってどの範囲まで楽譜化できますか? (前に聞いた気もしますが)」
「そうねぇ……半径五十メートルってとこね (前に答えた気もするけど)」
「わたしを残してできますか?」
「勿論」
「んじゃやっちゃってください」
グッと親指をおったてる。
「こっち暫く動けなくなるけどOK?」
「OKでっす」
「それじゃ――」
小声で打ち合わせる神巫とコリス。しかし。
「聞いた?」
「トウゼンダ」
ワシと囚人の集音機能は小声の会話さえも捕えていた。
「行くわよコリス」
「あい」
行動に入る神巫とコリス。
「来るよ」
「アア」
こちらも行動に入る。
「せーの!」
神巫の全身が輝いて――
「グラン・バースト」
囚人の両腕が巨大なバズーカ砲に変化して――
二人は同時に仕掛けた。
囚人のバズーカ砲から巨大なビームが放たれ、神巫は――地面に深い穴を開けてそこにコリスと共に沈んだ。
「ナニ⁉」
ビームが二人のいた場所を素通り。一方でワシと囚人の周囲には数十もの光点が浮かんだ。コリスによる精霊の力だけの顕現か。
「まずい! ブライド!」
「ッチ!」
光点から光が放たれて、中にいたワシら二人は柱状のエネルギーに包まれた。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ⁉」
「吸いきれな――」
圧倒的な力の奔流に呑み込まれた二人。体の感覚がなくなって皮膚が、鋼鉄の体が壊れていく。
「オノレ――――――――――――――――――――――――――――――――――!」
蒼い鉱石が囚人を包み、しかしそれすら精霊の光に侵食され朽ちて逝く。
そこに。
「しようがねぇなぁ」
響く、声。
「「「――⁉」」」
声に続いて巨大な手が現れて、ワシと囚人を握り潰す勢いで精霊の力の火柱に侵入し助け出されるワシら。
「……キサマカ」
「オーオー、生きてんなぁ。まずワシに感謝しろ」
ガン、ガン、と音をたてながら二つの巨大な脚が大地を踏みつける。
「ク……フン、カンシャトイウノハ……イワセルモノデハナイ」
「……大体……助けて何て――言ってないし」
「オーオー、生意気な口だなぶっ殺すぞ」
黒いビルを壊しながら現れたのは、ロボットだ。
「オーオー、隠れている二人も出て来いよ」
「……コリス」
「……はい」
穴を通ってビル影へと潜んでいた神巫とコリス。二人は警戒を怠らずにそこから姿を見せる。
「貴方は誰かしら?」
「オーオー、余裕見せるじゃねぇか。看守の一人だよ。囚人はいねぇ。ワシとこいつの邪魔だ」
こいつ――とは看守が搭乗しているロボットだ。これこそが看守のパペット『ネフィリム』である。
「お前らも退いてな。踏み潰すぞ」
「……ッチ」
新たに現れた看守に邪険に扱われ、囚人は舌を打ちながらもネフィリムの攻撃範囲から下がる。しかしワシは。
「さっきも言った……助けて何て言ってない」
「オーオー、戦場がパターンを変えたのにも気づかねぇのかよ。バカはこれだから、困るんだよ!」
「――!」
ネフィリムの巨大な拳がワシを殴り潰す――かに思えた。だが拳はワシの頭上一センチメートルでぴたりと止まる。
「……っ」
拳が生んだ豪風に晒されながらワシは唇を噛んだ。
「ど・い・て・な」
「何を⁉」
ネフィリムの手に捕まれ、明後日の方向に投げられてワシは遥か遠くのビルに体を打ち付けた。
「はっ……」
肺から無理に空気を吐き出される。それは血と共に。
「オーオー、まだ生きてんなぁ。流石に頑丈だな。ブライド、そいつのオモリをしてやんなぁ」
「……フン」
荒々しく息を吐いて囚人はワシに肩を貸し、この場を去って。
「さぁて」
「コリス」
「はいな」
「行くぜ!」
「「【覇―トリ―】――エスペラント!」」
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