第276話「貴女の本体どんだけちっこいんですか!」
ごゆっくりどうぞ。
敵意の向けられない相手とどう戦う? それは頭で考えても良策が浮かばぬものだ。だからここは退くしかないだろう。
二人はワシたちの様子を窺いながら後方へと振り返りすぐ近くにある角を曲がって退いた。
「距離を取ってもムダだ。抱擁の光は一度浴びれば時間の経過でしか逃れられない」
「ソシテワタシタチガソレマデニアナタガタヲカナラズツカマエル」
肩から離れ上空へと飛ぶ囚人。敵性反応は――すぐに見つかった。
「ナニ⁉」
なぜなら囚人の真後ろにパフパフが現れたからである。
「せーの!」
両手を組んでの殴打。囚人は首にまともに喰らってビルの屋上へと叩き落された。
「ナゼニ⁉」
しかし頑強な【アルターリ】の体は傷つかずに三度屋上をバウンドして体勢を整える。が、そこに追撃して来たパフパフが囚人のマウントを取る。
「ナゼニ『ウィッキシュ(看守の名だ)』ノコウゲキガホドケテイルノ⁉」
「そ・れ・は!」
今度は前から囚人の首を殴打。
「まだ秘密です!」
「ナンデスッテ⁉」
何度もパフパフの殴打を受けながらも言葉にすら乱れがない。頑強。パフパフはまだ気づいていないが囚人は自身の体をダイアモンドでコーティングしているのだ。
「殴るのはムダっぽいですね!」
殴っていた手を開き親指を曲げて四本指をまっすぐ伸ばす。その手に光が宿って、
「手刀ならどうですか⁉」
振り降ろされる右手の手刀から囚人は逃げようともがく。けれどもしっかりと左手で押さえつけられている。
「ナラバ!」
「え⁉」
囚人の体から首がすっぽ抜けた。
「んなアホな!」
首は独立して飛び回り、一方で体が――
「――!」
轟音を上げて爆発。
炎が吹き荒れて黒煙が立ち込める中からパフパフは飛び出て来る。そこに四本の遠隔操作の剣が襲い来た。
「よっ!」
パフパフはその内の二本を両手で止めて、残り二本は飛んでかわす。が。
「うわぉ⁉」
受け止めた二本からエネルギー散弾が放たれた。散弾は威力こそ弱いもののパフパフの全身を撃って服がボロボロになってしまい。
「ああ! 一張羅が!」
しかも王室ネットワークからの支給品。
「アラ! ゴメンナサイネ!」
「でも体の方は無事ですよ!」
「ソウカシラ? イマノサンダンハワタシノトクセイヨ?」
ぎしっ、と何かが軋む音が。
「これは……」
音はパフパフの体から。全身の連絡が鈍っているのだ。
「ワタシガココニイルノハネ、ソレヲツクッテシマッタカラ。キカイノウゴキヲトメテシマウエネルギー。イマノジダイニソレハアッテハイケナイモノナノヨ」
「そう――思うなら――使わないで――下さい」
「オンセイキノウモマヒシタヨウネ。ナラモウジュウブンデショウ」
四本の剣がパフパフを取り囲む。
「――ゾーイさま!」
呼ぶが早いか現れるのが早いか。上空から落下して来たゾーイのパペット・吟子が巨大な注射器の針でパフパフの腹を刺した。クスリが注射されてパフパフの動きが回復する。
「イリョウノパペットネ! 切縁・ヴェールノジョウホウニアッタワ!」
それによってワシのジョーカーからも回復したのか。
「ありがとうございます!」
「マダヨ! ジョウホウニアッタトイッタデショウ!」
囚人の周りにディスプレイにキーボードが表示される。囚人は新たに生えた小さな手で素早くキーボードを叩きとあるプログラムを剣に転送。
「コレデモウギンコノクスリハキカナイワ!」
剣から再び散弾が放たれる。
「『旭日』!」
戦艦大和改め旭日。
黒き巨体からミサイルが一発放たれて爆発。ガラス片がばら撒かれて散弾を防ぐ。
「吸い込むだけでも体を痛めますよ!」
「アイニクワタシノカラダハ【アルターリ】! ナイゾウナンテナイノヨ!」
「そこは内臓はないぞうと言って下さいまし!」
「イウカ!」
ギャグを言っている場合ではないし言い合う相手とも思っていないのだから。
「続けて行きますよ!」
旭日からミサイルの連弾。囚人は飛んでかわすがミサイルはそれを追尾する。
「オトサナケレバムリナヨウネ!」
四本の剣がミサイルを切り裂いてそこで爆発させて。
「ならばこれはどうです⁉」
旭日の主砲からの砲撃。
「オナジコトネ!」
またも剣によって切り裂かれる――も、中から小さなミサイルが現れて追撃リスタート。
その小さなミサイルを受ける囚人。
「――?」
しかし威力は弱く、囚人には効かない。
「イイエ。ソンナハズハナイワ」
悟ったのは攻撃を受けた囚人。威力が弱いものには何かある。たった今自分がやった事なのだから警戒はすべきである。
「その通りです。これは旭日のジョーカー。何らかの現象を撃ち込む力です。
今貴女に撃ったのは――」
「シカイガ⁉」
「遠近を狂わす力です」
遠近か。ならば今、囚人の視界からパフパフの姿が遠ざかっていっているだろう。実際パフパフは近づいているのに。だから囚人は反応できずに彼女の手刀を受けてしまった。
「先程貴女はこれを避けました。それはこれが効くと言う何よりの証です」
「……ソウネ」
手刀に新しい体を断絶されながら、それでも囚人の目に曇りはなく。
「キラレタラネ」
「――え」
囚人の頭部がまたも体から離脱した。
「貴女の本体どんだけちっこいんですか!」
再び手刀を放つがかわされてしまい。
「ドレダケカシラ⁉」
四本の剣が飛来する。
パフパフは左手を銃に変えて剣を撃つ。一発当たって破壊成功。後の三本は逃してしまった。
剣から散弾が放たれるも旭日の援護射撃でそれは届かない。
「本体を!」
「ソウワタシヲネラウワヨネ! ケドマダマダヨ!
オイデ! 『トゥインクル』!」
囚人のパペット『トゥインクル』顕現。
「これは――」
無数のベル。形こそ同じだが大きさの違うベルが空を覆いつくした。
ゴンゴンと鳴る大型のベル。リンリンと鳴る中型のベル。チィンチィンと鳴る小型のベル。
「何です?」
その音はパフパフの体に再現されている五感を奪い砕き、彼女から感覚の全てを遮断した。
「(これは⁉)」
声を認識する聴覚を失って、
「(どこに⁉)」
敵を認識する視覚を失って、
「(と言うかわたくしは今――)」
立っているのか浮いているのか。
先程まであった足の裏の感覚がなくなってそれすら把握できまい。
「(しかしわからないならそれはそれでやりようはあります! 旭日もきっと動いているはずです!)」
旭日は今パフパフに砲の狙いを付けている。そして何の躊躇もなく、撃った。
放たれた小さなミサイルがパフパフの全身に命中する。
「ナニゴト?」
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