第272話「君たちは一番好きなメニューを先に食べる方かな? それとも後?」
ごゆっくりどうぞ。
アトミックの全身が輝いた。エナジーシールドの光ではない。星章でもない。彼も全身からレーザーを放ったのだ。それはビームを蹴散らして街を削り、爆心地であるかのように抉り取った。
「や、やってみるもんだな……」
肩で息をしながらアトミックは笑った。全身からレーザーを放つのは初めてだろうに上手く行って安心している。
「……マチノサイセイガハジマラナイ……アタエラレテイルAIガキョウフシテイルノカ」
「はぁ……どうよ? まだやるかい?」
膝が笑っている。成果はあったが疲労も大きいな、あの状態。
「トウゼンダ。ドチラガユウイカナドコドモデモワカル」
疲労困憊のアトミックと、実質無傷のエモート。エモートは地面に刺さったままになっている二本のレイピアを抜き取ると四本をアトミックの顔に向けて構えた。
「ソノノウヲツラヌイテオワラセヨウ」
エモートが、地面を蹴った。が、まさかの展開。
「ナッ?」
エモートが無様に転んだのだ。足元を見てみるとそこには光のロープが巻き付いていた。
「オマエ――」
「オレだって強くなる為の努力くらいするんだぜ」
アトミックが脚を持ち上げた。その裏から出ているレーザーが直線ではなく曲線を描いていて地面から掘り起こされる。
「チッ!」
脚を絡め捕っているレーザーにレイピアを突き刺して消滅させるが、
「おっと! もう遅い!」
「――⁉ ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
上空からレーザーが降って来る。エモートの体を何百と言うそれが貫く。アトミックが全身からレーザーを放った時に上空に溜めていたものだ。
「人間辞めて成長も止まったんじゃないか?」
「ク……」
どしゃり、とエモートの体が地に伏した。だが。
「ニンゲンヲ……ヤメタ? セマイ……セマイ。シヤガセマイゾアトミック」
「何だって?」
「ニンゲンガナマミ……ノカラダヲモツヤツ……ダケダトナゼオモウ?」
それは、確かにそうだ。体をサイボーグ化させている人だって世の中にはいる。それは人間と呼ばないのか?
「…………」
「スベテヲキメルノハ……タマシイダ……ソレスラワカラズニ……オレタチノ……切縁ノケイカクヲトメヨウナド……ショウシ!」
「――!」
エモートの全身が輝いた。周囲一帯がサファイアに変貌して、
「まさか――」
「デキレバケイカクノケツマツヲミタカッタガ――ゼヒモナシ! トモ二ユクゾアトミック!」
「くそ!」
急いで地中に潜るアトミック。だがどこまで潜ってもサファイアの領域が広がっている。
「サラバダ! 切縁!」
ド――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
サファイアが、エモートの全身が爆発した。
「あ~あ」
崩壊した一帯に足を踏み入れながらため息を零すワシ。
「自爆とかつまんないなぁ。ワシには無理無理」
さてアトミックはどうなったかな? と視線を巡らせるが、彼の姿はどこにもない。
「……下かな?」
こつんこつん、と脚の先で地面をつつく。
「出ておいでよ。生きてるならさ」
そのまま数分待ってみるもアトミックが現れる気配はなし。
「まさかほんとに死んだ? だったらエモートも浮かばれるってもんだけど。
ねぇどう思うララ?」
ワシが声をかけるのはワシに従う、ララ。
「――って聞いてもうちのコレクションって話できないんだよねぇ。まあしょうがないか」
「そうでもないわよ」
「うんそうでもない……え? ――⁉」
ララから視線を外したその一時。ララから矢が放たれてワシの左肩を貫いた。心臓を狙った一矢だったようだが流石に不意打ち程度ではやられてあげられない。
「いった!」
矢を抜き取りながらワシはララから距離を取る。
「戻っている? 何で――」
「オレが『潜れる』対象にはお前の能力だって入っているんだよ!」
「アトミック⁉」
ワシの両脚に穴が開いた。レーザーを足首に受けたのだ。
「――っつ!」
それでもワシは倒れる事なく、姿を見せたアトミックを気丈に肩越しに睨みつける。
アトミックとララに挟まれて、ワシは周囲を見た。
「ひょっとしてこれも君の仕業?」
これ――とは、ワシのコレクションの女性たちの、いや、コレクションだった女性たちだ。全員がサーベルを手にしながらもそれを向けるのはアトミックでもララでもなく、主だったはずのワシだ。
「赦さないよ……アトミック!」
にゃ~ん
「「…………は?」」
敵を圧倒する程に膨らんだワシの殺意。どんな攻撃が来るのかと身構えるアトミックとララだったが――猫。ワシの傍に顕現したパペットは黒猫だ。大鎌に黒猫、共に不吉ではあるけれどこうして並べてみると何ともアンバランスな。けどそれが良い。
「おいでサザイ」
にゃん。マスターユーザーであるワシの声に誘われてサザイと言う名の黒猫がワシの肩に飛び乗った。
「君たちは一番好きなメニューを先に食べる方かな? それとも後?」
サザイの顎を撫でながら、ワシ。
「それ今関係あんのか?」
「あるさ。ここにおけるお肉はアトミック、君。デザートはララ。野菜は他のコレクション。どれから先にやろうかって話」
「そう言う話か。それなら、肉からだな」
「自己犠牲はつまらないよ。即答は見事だけどさ。ねぇララは?」
「お肉からね」
「ちょっと姫さま⁉ いやこっち護衛だからそれでも良いんだけど!」
「そっかそっか。二人のご希望ならお肉からにしようかなぁ」
「「「――⁉」」」
サザイから黒い霧が放たれた。目暗まし? いやそんな単純なものではない。
「姫さま」
霧の中でもララを見失わずに彼女の前に陣取るアトミック。
「この霧何だと思います?」
「熱を持っているわね。人肌くらいの。おかげでシンリーを観測できないわ」
「ですね」
その時微かに、ジャリ、と言う音がした。
「姫さま!」
ララを抱えて宙に跳んだ直後黒い鎖が二人のいた位置を貫いた。アトミックは黒い街路樹の上に着地して、しかし黒い霧が収束して黒い鎖になった。
「せーの!」
「え? きゃあ!」
黒い鎖がアトミックを捕える前にララを放り出して、彼一人を絡め捕った。ララは別の街路樹に脚をつけると矢を射るべく構えて、けれど元コレクションたちが素早くアトミックに絡みついた黒い鎖をサーベルで断ち切った。
「邪魔な野菜はもうちょい待ってなって!」
黒い霧の中に響くワシの声。その黒い霧が至る所で渦を巻き、黒豹に化けた。
「あ――!」
黒豹は牙を剥き出しにすると元コレクションたちに噛みついて道路に叩きつける。
「オイやめろ! まずは肉だろ!」
「あっと忘れてたごめんごめん――ね!」
言いながらも黒豹たちは元コレクションの首元に噛みついて。
「この!」
ララが矢を射る。その矢は途中で分裂して黒豹たちの額に命中。殺したと思っただろうが黒豹たちはただ黒い霧に戻っただけで。
「姫さまは彼女らの傷の治療を!」
「させると思う⁉」
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