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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
前章 ~小さな蛇は夢を見る~
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第27話「貴方自身の努力がないと開花しないと思いますよ」

いらっしゃいませ。

 炎が弾けた。

 弾けて背に集まって翼となる。

 そこでオレは急上昇。

 予想外の動きだっただろう。だから生徒会長の風を操る集中は乱れ、


「ぐっ!」


伸ばされた彼の腕が風に斬られてしまう。


「今度はオレの番だ!」


 急下降。足に炎を纏わせてかかとで生徒会長の後頭部を蹴り落とす。

 倒れる生徒会長の首にやはり炎を纏わせた手を当てて、


「!」


引火。彼の全身を燃やす。

 このまま生徒会長のライフが0になってくれれば。

 などと期待もしたが。

 オレたち二人を中央に竜巻が形成される。

 何だ? また風の刃を仕込んだのか?

 けどそれが襲ってくる前に生徒会長を倒せれば!


「え?」


 なんと、生徒会長を包む赤かったオレの炎の一部が青に変わった。

 青い炎?


「俺の炎さ」


 振り向き、笑う。

 ハッとして彼の宝玉に目を向けると一つ青く輝いているものがあって。


「そして風の効力が消える前に!」


 青い炎が竜巻に巻き込まれていく。

 巻き込まれて、炎の竜巻に。

 同時に生徒会長を焼く炎を最大火力に。


「さあどちらが耐火できるかな!」


 赤い炎と青い炎が崩れる風に煽られ燃え広がる。

 二色の火炎が折り重なって――爆発の如くに弾け飛んだ。


「うぐ!」


 飛ばされるオレと、


「ぬぅ!」


飛ばされる生徒会長。

 オレは翼で以て体勢を立て直し、生徒会長は風で以て体勢を立て直す。

 危なかった。

 あの瞬間、オレは炎の翼で体を隠し難を逃れた。

 生徒会長は氷を纏って難を逃れた。

 だがおかげで互いの攻撃は一瞬緩み、どちらもトドメとなる一手にならずに。

 仕方なかったとは言え、退いてしまった。

 いや退かされてしまった。

 どうしようもなかったが、ちょっと……悔しいな。

 そしてどうやらそれは生徒会長も同じらしく、


「……くそ」


と珍しく口にしていた。

 ……手強いな……。

 おまけに生徒会長はまだ宝玉を全ては使用していない。見たのは四つだけ。半分も残している。

 ジョーカー、使うか? いやまだだな。まだ早い。


「ふぅ……次に行こうか」

「え?」

「次の宝玉はこれだ」


 一つ、宝玉が生徒会長の手に収まる。白い宝玉だ。

 白――何の力だろう?


(ヨイ)くんは知っているかな、海の恩恵を」

「恩恵?」


 塩、か? それとも海の幸?


「いいや。

 海の放つ生命のエネルギーとでも言うべきかな。

 或いは命を生む生命エネルギーそのものか」

「海の……生命エネルギー」

「そう。

 これがそうさ」


 白い宝玉が輝いた。

 輝き、生徒会長の全身が白の光に包まれて。


「さあ続けよう!」

「――⁉」


 続けよう、と言われた瞬間生徒会長が目の前にいた。

 速!

 しかし彼はオレを殴打するのではなく蹴打するのでもなく、ただ足元を静かに払って。

 転ぶ――が、オレの手を生徒会長の手が取って止める。

 そのまま生徒会長は腕を振るってオレはてきとうに放り投げられた。


「くっ!」


 何とか着地の姿勢を取り足から降りる――ところで首を掴まれてしまい、大地に優しく寝かされた。

 そして一瞬だけ首にかかる手に力が加えられて、


「がっ!」


白い光が流し込まれて苦悶する。

 力の奔流だ。これは――回復の力。

 よくよく生徒会長の体を見てみると彼の傷はどんどん回復していて、オレに流し込まれた白い力もオレの体を回復させていて。

 なのに痛い。全身が激痛に苛まれる。


「海の持つ生命エネルギーは生命力、即ち再生の力。

 これを使用したならば、生命力に包まれた体は膂力の限界を突破し、傷を常に回復させる。

 けれど過剰に摂取すると体を痛める崩壊の力にもなってしまうのさ」

「……っつ!」


 ダメだ、これ以上この力を体に流し込まれては。


「う……オ―――――――――――――――――ォ!」


 痛みがあるとは言え手足は自由。

 オレは何とか腕を振り、人魂の――火炎の剣で生徒会長の首を狙う。

 生徒会長はそれを防がずまともに受けて、なんと、炎が消された。


「誰も、海から産まれた誰も海には逆らえないのさ」


 バカな……いくら海が生命の親だからと言ってもただ従うしかないなんて、あってたまるか。

 いや、海が偉大なのは知っている。偉大な母である事は。

 けれど、じゃあ子供の力とはこんなものなのか?

 こんな簡単に抑えられる程に弱々しいのか?

 違う。違うはずだ。

 子とはいつの時代も親を超えて大きくなっていくものなのだから。


「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――ア!」

「⁉」


 オレの体に流し込まれる白の光を使用するんだ。

 これを使って成長し、より大きく一歩を踏み出すんだ。

 人魂を再形成。

 姿を解き、火炎の鎧に。

 そこに、白い光と言う薪がくべられる。


「―――――――――――――――――――――――――――――――――――――太陽」


 ぽつりと、生徒会長が言葉を漏らす。

 火炎に包まれたオレを見て。

 発光するオレを見て。


「しまった!」


 見惚れたのが運の尽き。

 生徒会長が赤い火炎に撃ち抜かれた。


「――――っつ!」


 全身を炎に包まれて生徒会長は後ろに大きく飛び退る。オレから距離を取ったのだ。

 追撃しようと思ったけれど無理をしてしまったからかオレの呼吸は乱れに乱れて。

 オレが膝をつく間に生徒会長は水で以て炎を打ち消す。


「はっ! はぁ!」


 呼吸を荒くして、生徒会長をうかがうオレと、


「ふぅ、ふぅ」


オレを警戒しながらも炎が消えて安堵する生徒会長。


「……予想以上だ」

「え?」

「宵くん、君がいじめられていたのは知っている」


 ……ああ、三年にも伝わっていたのか。


「教師陣にも何度か止めさせるように言ったんだが、本人が認めていないと言われてな」

「……ええ、認めませんでした」

「どうして? 認めればすぐにでも終わっただろうに」


 少し考える。

 言うべきか言わざるべきか。

 ……この人ならわかってくれそうだな。


「まず、オレ自身の事だからオレが何とかするべきだと思いました」

「心は死なずか」

「そんなかっこいいものじゃないです。ただの意地ですよ」


 実際、子供じみた意地だったと思う。

 大人に相談すれば終わったのに、オレは大人の介入を拒んだのだ。

 それに意地に加えて。


「…………」


 空を見やる。

 そこではオレたちのバトルを中継するカメラが浮いていて、今もライブ中継されているだろう。

 つまりここでの会話も丸聞こえなのだが……。

 まあ良いか。


「もう一つ。

 恥ずかしかったんです」

「……恥ずかしい」

「はい。

 自分の情けなさを自分で話して、さらけ出すのが恥ずかしかった」


 人にどうこう思われるのが、ではなく話す事自体が恥ずかしい。

 だからオレは口をつぐんでいた。


「……こう言った行動が最終的に自分を追い詰めるんだろうと思います。

 オレはならなかったけれど、人によっては……自殺にまでいくでしょう」


 事実、何も話せず逝ってしまう子供の何と多い事か。


「これを聞いている大人たちに望むのは、子供による子供らしい思考を理解してほしいって事ですね」

「……そうか。

 けれどあえて言うなら、宵くんはそこから一歩抜け出した」

「抜け出せ――ましたかね」

「出たさ。

 それも力強く。物語の如くに」

「? 物語?」

「ああ。

 君は気づいていないようだが、物語の中ではいつもいじめられる側が主役だろう」


 ……そう言えばそうだな。

 昔の童話でも、現在のフィクションでも。


「君が沈んだままだったなら君は人生の中のモブだっただろう。

 だが君は主役に躍り出た。自らの心の強さで。

 ……正直俺は色々持って生まれたわけだが」


 あ、自分で言うんだ。


「家もあり、立場もあり、学もあり、運動能力もあった。

 ついでに言うと顔も悪くない」

「……そうっすね」


 確かに整ってはいますが。


「モテたでしょう」

「でしょうじゃない。モテ続けている」


 ……すんごい自信。


「だがこれら全て今ひび割れ状態でな」

「ひび割れ?」

「姉妹校の生徒会長が俺のいとこであるのを知っていると思う」

「ええ」

「そいつに言われたんだ。

 つまんない男、と」


 うわぁ……。


「とても冷たい目でな。

 ひどいと思わないか? 彼女も俺と大して変わらないだろうに。むしろ顔が良いのは向こうの方だ。

 自信満々で活きているのは彼女の方だよいや本当に」


 ちょっと言葉に怒気が混ざっている。

 よっぽどムカついたのだろう。


「しかし、彼女の言う事は当たっていた。

 事実俺はつまんない男だった。

 持って生まれたものの上にあぐらをかいて、それが当然だとふるまっていたんだからな。

 けれど彼女の言葉でひどく冷静になったんだ。

 冷静に周りを見られるようになった。

 そうして見ていると、周りが俺ではなく俺の背景しか見ていないのに気づけた。

 親のコネや金だな。そう言ったものに連中は群がっていたんだ。

 築いてきたものが俺の実力ではないんだとわかり俺の全てはひびが入り始めた。

 そんな時に、宵くんを知った」

「オレ、ですか?」

「ああ。

 この子を俺が救えたなら、それは俺の実力じゃないか? こう思ったんだ」


 あ~、成程。


「傲慢極まる考えで、おまけに救えなかった。

 俺はより惨めになった。

 逆恨みで君を恨み、よりひび割れていく音が聞こえるようになった。

 そんな折、こうしてバトルが開かれた。

 宵くんと三条くんのバトルも見させてもらった。

 ……君が苦しめば良いと思ってしまった」


 沈んでいく、声。


「君がピンチになったら今度こそ救い上げようと。そんな考えを持っていたんだ。

なのにどうだ? 救うどころか君は一人で立ちあがり一歩を踏みつけた」

「……一人、ではありませんよ。

 オレはいろんな人たちに背中を押してもらったんです。

 一歩でも前に行けよと、押されたんです」


 家族に、前野兄妹、幽化(ユウカ)さんに涙月(ルツキ)

 見えないけれど今も背を押し続けてくれる人たち。

 彼ら彼女らがいたからオレは前に進めたのだ。


「……そうか。

 まあとにかく、立ち上がった君を見て、俺は自分を恥じ、一方で君を素晴らしいと思った。

 君のようになりたいと思った。

 俺も強く、一歩を踏み出すんだと」


 ……この人は、きっと気づいていない。

 生まれがどうであれ作られた精神は自分自身のものであると。

 一歩踏み出すんだ――そう思える心の強さこそが自分の力である事に。


「宵くん、俺は君を倒すぞ。

 素晴らしい存在である君を超えて、俺も前へ進むんだ」


 目が、生徒会長の目が輝いている。

 オレが素晴らしいかどうかはさておいて、この人は充分に力強く輝いている。


「……生徒会長……樹理(ジュリ)先輩、オレからも一つ良いですか?」

「うん? 何だ?」

「貴方の生まれ持った才能が何であれ、そいつは貴方自身の努力がないと開花しないと思いますよ」

「――!」


 思いもがけない事を言われた、そんな表情だ。

 きっと誰にも言われた経験がないのだろう。

 だから、樹理先輩は笑う。とても嬉しそうに。


「そうか……ありがとう!」


 樹理先輩の体が白に包まれる。白い光に――海の持つ力に。


「さあお互い呼吸は整った。

 続きと行こう!」

「そうですね!」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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