第263話「それじゃ、ララの方だけ貰えるかな?」
ごゆっくりどうぞ。
「もう体育祭かぁ」
机にぐでっと上半身を投げ出して、アトミック。苦手な国語の授業を終えたところだ。
文化祭が終わって一ヶ月。次なるイベントがやって来た。
「アトミックは運動得意よね?」
「そりゃそうじゃなきゃ護衛なんてやりませんて。
そう言う姫さまだって別に苦手じゃないでしょ?」
「そりゃそうじゃなきゃ星冠なんてやらないわよ」
四日後の日曜日、体育祭だ。
小学校の体育祭は基本全員全種目参加。騎馬戦・リレー・短距離走・二人三脚・借り物競争・ダンス・応援合戦等々。教室ごとに分かれて力を合わせの競争だ。
「折角なんだから勝つわよ」
「ういっす」
そして体育祭当日。
文化祭の時に講堂として使われた森の中の開けた場所に白いテントが幾つも張られて、その一角にジュースが売られる場所がある。朝の今もちょいちょい客が来ているが昼休憩になったら皆一斉に押しかけるだろう。
二人は皆に混ざって入場門前に並び、アナウンスを合図にトラックを歩いて回り、整列。開会式が行われていよいよ幕開けとなった。
きゃーきゃーと観覧客が声援を送ればわーわーとクラスメイトたちが応援を送る。
先頭を切ってアトミックはトラックを駆け抜けて一位で短距離走を終えると、ララが借り物競争でサングラスを借りるのに手間取って三位に終わった。
その仕返しとばかりに騎馬戦で張り切ったララは一つ二つとハチマキを獲って最終的には敵チームの半数を倒してしまった。
昼休憩に入ってララとアトミックは合流して、家族の元へ。テントの一つで待っていた二人の家族である妖精は既にお弁当を広げていてくれた。二人は早速サンドイッチに手を伸ばし、スポーツドリンクを飲んで、お肉を頬張り、トマトを口に含んだ。
モノの十分で食べ終わってしまった二人は残りの時間を家族妖精とのんびりして過ごし、午後の部へと出向いていった。
結果を述べると二人の教室ブルーチームは準優勝に終わった。が、出せる力は全て出し切った。満足の行く準優勝だっただろう。
次のイベントは――全教室合同の卒業式。
「ワタシたちも卒業か~」
「転入して来て半年、随分早く感じますなぁ」
講堂の入り口で静かに並びながら小声で。
「姫さま泣かないで下さいよ」
「そっちこそ」
結論、二人して号泣した。
「さてさて」
式を終えて教室に戻ったところで先生妖精が最後の挨拶に立った。彼の後ろにある黒板にはチョークで『卒業おめでとう!』と言う文字と絵が描かれていて寂しさをより一層演出している。
「皆さんこの一年楽しめたでしょうか? 私は――」
妖精の目からホロリと雫が落ちた。
「寂しいですぅ」
その涙声にもらい泣きする生徒たち。しくしく、しくしく。しんみりとした教室で先生の挨拶は続き、とうとうお別れの時間となった。
ララとアトミックを含むクラスメイトたちは花のアーチを潜って家路へとついたのだった。
二人はそれぞれの家で卒業を祝うパーティーに参加して、夜を迎える。
時刻は――午後二十三時五十九分。
時計の針がかちこちと回って、午前零時。
時計の針が逆回転を始めた。
一年かけて育った草葉が背を縮め、太陽と月が昇り沈み、人々の記憶が消えていく。
「ふぁ」
ララはベッドから身を起こして時計を見た。
「七時……起きなきゃ……」
寝起きでぼんやりとする頭のままでベッドから降りて制服に手を伸ばす。新品の制服に袖を通し。
「うん、似合う」
「よいしょー」
アトミックはベッドから勢い良く身を起こして時計を見た。
「七時。良し、めしメシ」
彼は朝食の後に着替えるタイプなので早速一階に降りて行って軽くパンを齧り、戻って来てから制服に袖を通した。
「流石オレ。似合っている」
こうしてまた、一年が始まる。
……う~む。
「おーい」
「……ナンダヨ」
「看守にその口の利き方は良くないなぁ」
「オレタチノタチバノチガイハタダノソトヅラダロウ。ジッサイニジョウゲカンケイハナイハズダ」
「まあね。でも誰が見ているかわからないから外面は大切だよ」
ドレッドノートを捕えたキューブの上に座り込むワシと囚人。キューブの中で眠るドレッドノート、その中で幻想に生きるララとアトミック。ワシら二人はずっと二人の様子を観察し続けている。ずっとと言っても一時間だが。中では一年が経った頃か。
「二人の様子は?」
「ノンキニガクセイセイカツヲオクッテイルナ」
「溶け込んでいるみたいだね。それじゃ、ララの方だけ貰えるかな?」
「ダセバショウキニモドルゾ。ナンドモイッテイルダロウ、センノウハナカデカンリョウサセロ」
呆れと苦笑を交えながら言葉を吐き出す。そんな囚人をワシは睨んで。
「お前の場合ワシまで取り込もうとする可能性があるからなぁ」
「シナイサ。ヘタヲスレバオレガキリエニケサレルカラナ」
「そ。んじゃ入れて」
「アア」
キューブの一部が分解され、入り口を作り出した。ワシは「よっこいしょ」と言いながら腰を浮かすと、そこから中へと入っていく。
「さぁて、新しいお人形さんが仲間入りだ」
微笑み、軽くスキップをしながら。
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