第262話「凄いでしょう。ここは永遠に小学生でいられるんだよ」
ごゆっくりどうぞ。
またまた何と、黒板の前にある教卓に妖精がちょこんと乗って授業しているではないか。
おまけに生徒も妖精で。
「どうしよう……超混ざりたい」
「ダメっすよこれ敵のパペットの中っすよ」
「ならこうしましょう。妖精を持って帰る」
「そこまでか」
そんな事をしていると一人の生徒が二人に気づいたようだ。
「誰誰? 転入生?」
「え?」
「うわぁ何年振りだろう」
「こっちにおいでよ」
最初に気づいた女の子を皮切りに生徒皆が寄って来る。二人の手を引いて仲間に加えようとして来るのだ。
「はいはーい慌てない慌てない」
そんな生徒たちを纏めるのは妖精の先生。
「でも先生~」
「御二人さんはこちらにどうぞ~」
「え? ちょっと」
先生に促されて生徒たちがララとアトミックを教壇の上に誘導する。
「はい。新しい生徒さんは自己紹介をお願いしまーす」
二人を残して生徒たちは席に着き直す。その目は好奇心で輝いていて、とても敵の罠には思えない。でも罠なんだよねこれ。
「ど、どうします姫さま?」
「どうするって……」
「自己紹介お願いしまーす。できます……よね?」
コトンと小首を傾げる先生。心・ときめく。その愛らしい姿にララは心をキューンとときめかせたようだ。
「ララです」
「言っちゃったよこの人」
ときめき、大事。
「ほら、貴方も」
「ア、アトミック・エナジーです」
仕方ないから戸惑いながら彼も名乗りをあげる。
「はい。ありがとうございまーす。
ではまず制服を用意しましょうね~。学級委員さーん」
「は~い」
「御二人を更衣室までご案内しちゃってくださーい」
「喜んで!」
「「え? ええ?」」
戸惑いつつも生徒たちの純粋な笑顔に逆らい切れないララたちは手を引かれて『更衣室』まで連れていかれた。それはほんの少し離れただけで、大きな木の幹の穴だ。中に入ると女子用と男子用に大きな葉っぱで仕切りがされていた。二つを隔てるのはそれだけだ。
「覗かないでよ」
「覗きはしませんが……まだレースの神さまやってんですか?」
「このボケ――――!」
瞬間顔を蒸気させたララ。そこらにあるものを掴んでアトミックに向けて投げ飛ばす。
「痛い! 石投げるのマジ危ない!」
「小石よ」
「小石なら良いとかそんなルールないですから!」
「ふんだ」
二人の一連の行動も笑顔で微笑ましく見守っていた学級委員の女子男子。二人はララとアトミックについて更衣室で分かれるとどこからともなく学生服を取り出した。本当にどこからともなく――つまり空中から取り出したのだ。ララたちはそれを見て改めてここが異常空間なのだと認識したみたいだけれど学級委員の邪気のない笑顔には逆らい切れずに衣装チェンジをしてしまい、
「さ、戻りましょ」
そのまま教室へと戻っていった。
白をベースにした制服に身を包んだララと黒をベースにしたブレザーに身を包んだアトミックは最前列の机と椅子をあてがわれ、着席。最前列とは誰もが最もなりたくない場所であるからして、
「最後尾が良いんすけど」
とアトミックが愚痴るけれど華麗にスルーされた。
「授業続けまーす」
妖精の先生はとても長いチョークを持って黒板に数字を書いていく。算数だ。数学ではなく。
え? ここ小学校?
と二人は小声で言い合うも、ただ四十分程授業を受け続けた。
休憩時間になって二人の元に生徒たちが集まって来て「どこから来たの?」とか「二人の関係は?」とか「年齢は?」とか色々聞かれて二人はちょっと疲弊する。
次いで国語の授業が始まった。これまたただ授業を受け続けて、給食の時間となった。どうやら用意は当番制ではなく皆でするらしくララたちにもエプロンが渡されて学校給食を口にした。最初毒でもあるのかと勘繰ったみたいだが誰もが美味しそうに食べるもので二人が拒否するわけにはいかなかった。渋々口に運び入れる。
「あ、美味しい」
「オレが通ってたとこ弁当だったから何か新鮮」
そのまま三十分のお昼休みに入って、校庭とされている開けた場所でドッヂボールをして遊んだ。流石に二人の運動神経は良く、なかなかボールに当たらなかったからちょっとしたヒーローのように扱われた。好感度アップ。羨ましい。
午後の授業は体育で、水泳だった。プールと言うより湖と言った方が正しい水場で競泳水着に着替えた二人は生徒たちの悪戯で準備運動前にドーンと背を押されて落水し、気づけば授業ほったらかしで遊んでいた。
最後の授業は理科で、宇宙について学んだ。授業内容は一昔前のものでまだ宇宙に進出していない事になっていた。
その後ホームルームがあって、そこで二人は文化祭が近づいているのを知った。どうやら演劇をするらしく生徒たちは今、配役を決める段階にあるようだった。二人にもちょっとした役が与えられて、嬉し恥ずかしながらも受諾した。
「え? 他にも教室があるの?」
「そうだよ。文化祭は五つの教室と合同で行うの」
「近くにあるから行ったり来たりしながらね。それぞれの道中に妖精たちがお店を出すんだ」
それはまた賑わいそうだ。
「楽しみだなぁ」
「何度目の文化祭だろう? 二十三回目だっけ?」
「へぇ二十三。凄いな」
「凄いでしょう。ここは永遠に小学生でいられるんだよ」
「そうなの」
気づけば二人の姿は幼く縮んでいて、しかし不思議には思わない。
ゆっくり、ゆっくりと二人は取り込まれていく――クスクス。ふふふ。
文化祭初日がやって来た。
演目はクラスの脚本担当の女子が書いたオリジナル。ララとアトミックはちょい役の踊り子だったがきちんとこなし、沢山の妖精たちに拍手と声援を送られて幕を閉じた。
それにしても驚いたのは妖精の数だ。二人はてっきり少数しかいないと思っていたようだがどうやら生徒たちの家族も妖精。その総数は千人を超えている。当然ララとアトミックにも家族がいた。二人は演劇が終わると家族と再会し文化祭を見て回る事にした。
文化祭のベースは日本式で、食べ物が売られ展示が行われお化け屋敷に占いの館、お笑いにライブ等があった。
ララとアトミックの二人は自分が思っていた以上にハッスルしていたらしく講堂と言う名の広場入り口で行われていた写真の販売コーナーにデカデカと盛り上がる二人の写真が貼られていた。恥ずかしくなったようで即購入。
文化祭は三日かけて行われて最終日・陽が沈むころにはキャンプファイヤーが行われた。組まれていた木に火が灯され、熱気が森に溢れて火事にならないかとハラハラと気持ちが波打ったようだがそんな事はなく、他の生徒たちに混ざってマイムマイムを踊って幕は閉じられた。
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