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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
261/334

第261話「「妖精じゃん」」

ごゆっくりどうぞ。

「まず姫さまの……何だ……本体?」

「ほ・ん・た・い・は・わ・た・し」


 潜航を続けるドレッドノートの中でララはアトミックの片頬を摘み上げる。

 ワシはそれをひっそりと感じ続けている。


「すんません痛いです」


 素直に謝罪が入ったので手を離し、ララはその場に座り込んだ。どうも落ち込んでいるご様子。


「折角【覇―トリ―】使えるようになったのに……」

「【覇―トリ―】を使えるだろう相手が一人なのは好都合っす。あの看守はオレがやりますから姫さまは次で挽回と言う事で」

「……そうね」


 体育座りをして膝の間に顔を埋めていたララ。その顔をちょっとだけ上げて眉をキッと吊り上げた。


「アトミック! ジュース!」

「へい」


 何とここには冷蔵庫まであるようだ。ただ、情報では一度ドレッドノートの顕現を解くと中に入れたものは放り出されるらしいからここのところアトミックはずっとドレッドノートを顕現してどこかに潜航させている。別に体力を持っていかれたり精神力を持っていかれたりはしないから両者にとって不都合はないと思う。あ、集中力は持っていかれるか。

 冷蔵庫から粒入りのオレンジジュースを持ってアトミックはララの元へと戻ってくる。


「……ワタシ子供じゃないんだけど」

「うまいっすよ粒入り。大人だっていけます」

「……ありがと」


 ララは今一つ納得の行かない顔ながらも受け取った。缶の蓋を開けて一口。開けてから「あ、振ってなかった」と気づいたようだが後の祭り。粒は沈殿していてなかなか口に入っていかず。だから舌で蓋をして振って。


「行儀悪!」

「良いのよ貴方しか見てないし」


 護衛に気を使っていたら気の休まる時間がないのだろう。


「そこは『男に見られているからしっかりしなきゃ』ってなりません?」

「ならないわねぇ」

「そりゃ残念。因みに(ヨイ)だったら?」

「ぶっ」

「うぉっ、アニメみたいに吹かないでくださいっ」


 想像したのだろう。宵に見られたら、きっと泣きたくなる。ふふ、可愛い可愛い。


「貴方が変な事言うからでしょっ」

「別に恋は変な事じゃないと思いますが」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」


 今にも缶を握り潰さんとする握力が缶を握る右手に宿る。もし色が付いていたならその顔は紅潮していて眉も上がっているだろう。わかりやすい程に恋する少女のそれだ。

 ただ。


「……宵には涙月(ルツキ)がいるもの」

「言わないんすか?」

「もう言った」


 と言うかキスしたと聞いたが?


「………………えマジで⁉」

「マジで。パペットウォーリアの後にフラれたけど」

「あ~~」

「まあ良いのよそう言うのは。今は現状を考えましょ」

「……うっす(ま、ゾーイ姫さまと上手く行ってんなら良いか)」


 アトミックはアトミックでゾーイに惚れているのだが、どうやら二人の邪魔をする気はないみたい。どうして? 理解できないね。


「それにしても……真っ黒な姫さまと話しているのってかなり違和感がありますな」

「ワタシだって違和感だらけよ」


 黒色の自分の体を改めて見るララ。


「うん、気持ち悪い。

 アトミック、ここはどこら辺? 看守たちは追って来ている?」

「ちょいとお待ちを」


 ドレッドノートの前方にある大型ディスプレイに外のスキャン状況を表示する。中央がドレッドノートを表す青い点。その周囲十キロメートルを球形にスキャンしたものだ。


「敵は映ってないっすね」

「……別の所に行った?」

「可能性はありますね。あの看守が女性の色にしか興味を示さないならさっさと行ってしま――⁉」


 突如響く鈍い音。何かに当たったわけではないだろう。このドレッドノートは基本あらゆるものに潜航できる。


「ドレッドノートに当たるとしたら同系統のパペットくらいしか……」


 もう一度、鈍い音が。


「アトミック」

「同じ部分から音がしましたね。姫さまはオレの後ろに」


 ララを背に隠してアトミックは海水によるランスを作り出す。音がしたのはドレッドノート後方の天井部。そこを破られたら一斉に攻撃するつもりだ。できるならやってごらん。

 三度、鈍い音が響いた。


「ドレッドノート! 何が攻撃している⁉」

『わからない』

「わからない?」


 攻撃を受けているのに?


『姿が見えない。ただ衝撃だけがある』

「衝撃だけ……透明化能力か?」

「いいえ。これはワタシのパペットよ」

「『え?』」


 そう言った時とうとうドレッドノートの装甲が破れた。穴が開いて―――――何も入って来なかった。


「ううんいるわよ。『プロースト』が」


 ララのパペット、透明色のパペット『プロースト』――『掟』の塊だ。それは決して見られずあらゆる場所に現れる。


「でもとっ捕まえてる状態で色付きのワタシがまともで細かい指示をできるとは思えない。となるとプローストはあくまで穴を開けるだけの役。本命はこの後よ」


 その言葉を現実化する音が穴の上で鳴った。何かが着地する音だ。アトミックはちらりと後方を窺い索敵状況を確認する。が、やはり何も映っていない。


「プローストに寄生しているのね」

「それが上にいる奴らの能力っすね。

 降りて来い!」

「ソウダナ」


 そう言って内部に侵入していったのは、囚人【アルターリ】。その周りには無数のキューブが浮かんでいる。


「【アルターリ】の上にパペット持ちかい」

「アア。ソレガハンソクダナドトハイウナヨ」

「言わないさ。ずるいな」

「イッテル。ソレイッテル」


 急ぐ必要はないから囚人には少々のお喋りを許可してある。おどけろとは言ってないんだけど?


「んで? そのキューブのパペットは一体何だ? ドレッドノートの索敵から逃れられる能力は持っているのか? それとも別の奴の能力か?」

「オレノパペットノノウリョクダヨ。

『ドリーミー』」


 ドリーミー――そう呼ばれたキューブ型パペットが応えるようにくるくると回る。


「ドリーミー、ジョーカーハツドウ」


 一つのキューブが回転を速め、一回り、二回りと大きくなっていって――


「させっか!」


 海水のランスによる攻撃。しかしキューブは寄り集まって囚人の盾となる。ランスはそれに当たるもその中へと吸い込まれて消えた。

 キューブの全辺がドレッドノートを包む程に大きくなる。アトミックとララはそれに呑み込まれてしまう。強烈なライトを浴びたせいで瞼を二人揃って閉じた。だがそれは数瞬の出来事。


「――え?」

「ここは……?」


 瞼を開ける二人。開けた視界に映ったものは――森だ。木の上にツリーハウスが幾つもある。ただそのサイズは小さくて人間用とはとてもではないが思えない。


「マズハココデユックリスルトイイ。ドリーミーノジョーカーハスベテヲノミコミスベテヲガイカイカラシャダンスル。ソトノコトハワスレテマドロムガイイ」

「微睡む? ここがキューブ内なら壁があるだろう? 微睡む前に海水の圧でここぶっ壊して――」

「ちょっと待ってアトミック」

「姫さま?」

「あっちあっち」

「え?」


 ララの指さす先を見てみると、数人の人間が集まって何やら楽し気に遊んでいるではないか。


「……敵と思いますか?」

「行ってみましょ。期待しているわよアトミック」

「全力で護るっス」


 用心の為にと土と草を踏む音をなるべく立てずにゆっくりと近寄っていく。次第に話し声が聞こえて来た。


「妖精が……どうのこうの言っている」

「耳良いですね。オレこの距離だとまだ聞こえないです」


 向かう先にいる人たちには届かない声量で。


「ワタシはほら、聴衆の声を良く聞かなきゃいけないから鍛えたの」

「鍛えられるんすか耳って?」

「冗談よ」

「…………」


 無言のアトミック。その手がララのある部位に伸びた。


「ちょ! 耳引っ張らないでよ!」

「あ、つい」

「護衛対象の王室にするとか裁判ものよ全く」


 二人してぶつくさ言っているとアトミックの耳にも話し声が聞こえる距離にまで来た。木の陰に隠れて様子を窺うと。


「勉強?」


 何と、森の中で学習机を並べてお勉強中だった。古い時代に使われていたチョークで書く黒板まである。


「ちょっとちょっと講師見て」

「見えてます見えてます」

「「妖精じゃん」」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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