第260話「女の子はめんどくさいからさ、芸術として鑑賞して楽しむ事にしたの」
ごゆっくりどうぞ。
「あ――⁉」
何かがララの足を払って後方に倒した。それは倒れたララに覆いかぶさると脚を脚で抑え、手で腕を頭の上で押さえつける。
「なっ……」
ララの動きを封じたそれは、奪われた色の付いたララ自身だった。
「影はちゃんと影の役目を果たさないとね」
色付きララが片手でララの胸の中心に手を置いた。そのまま握るでもなく地面に潰すように力を入れていく。すると。
「体が⁉」
通路へと沈んでいく。通路へと『染みていく』。
「君は綺麗な子だからさ。ワシのコレクションにしてあげる」
「そんな悪趣味なものの一つに何てなってたまりますか!」
力を入れてまず拘束されている腕をどうにかしようとするララ。だけど力が思うように入らない。だからか。
「お?」
頭突きを撃ってきた。相手は自分と言う事で遠慮なしに。色付きララは胸を押していた手で額を抑えてよろめいて。その時緩んだ体の力、その隙を逃さずにララは腕の拘束を解いて横にゴロンと転がった。ララと色付きララの体勢が逆転する。
「えっと」
どうやればこの色付きララは戻ってくるのだろう? 今更になってそんな事を考えているらしい。
「ちょっと! どうすれば良いのよ⁉」
「わかんないからってワシにキレるのやめてくれる? て言うか言ったよ? ワシを倒せば戻るって。それ以外にはないよ」
ララから聞こえる歯軋りの音。倒すべき相手が目の前にいるのに今の自分は満足のいく力さえ入らない。それに苛立っている。
「『ララ』、影を押さえつけといて」
色付きララがララを抱きしめた。抱擁ではない。動きを封じたのだ。
「皆おいで~」
「い?」
真っ黒な壁や通路から騎士のいで立ちをした多くの女が出て来た。どの女性も美しく、或いは可愛らしい様々な人種の女性だ。
「この人たち……」
「うん。さっき言ったコレクション。良い趣味でしょう?」
「どこが!」
女たちは死んでいない。目には生気があるし肌は血色を帯びている。表情こそないものの間違いなく生きている。
これぞコレクション。至高のコレクションだ。
「君もこっちにおいで」
「貴方、男の子が好きなんじゃなかったの?」
「好きだよ。だからコレクションにはしないんだよ。意識のない男の子とヤッて何が楽しいのさ。その点女の子はめんどくさいからさ、芸術として鑑賞して楽しむ事にしたの」
好きなものは大切に、それ以外には冷たくなれるタイプのワシである。
「やっぱりサイテー」
「そう思うならワシを倒して自由にしてあげなよ。できればだけど」
女たちが、コレクションたちがワシを護るように広がった。その内の数人が駆けて来てララをはぎ取って通路に押し付ける。そしてララの掌、足首にサーベルを突き刺した。
「あっ!」
色を失っても痛覚はある。きっと刺された体に電流に似た衝撃が走ったはずだ。
「『ララ』、今度こそ彼女を影に――⁉」
通路に横になったララに迫っていた色付きララ、二人の間に何かが下から現れた。
「こいつは……」
潜水艦。アトミックのパペット・ドレッドノートか。巨体を誇るドレッドノートは床から現れると建物を一切傷付けずに浮かんで、
「姫さま!」
その中からアトミックが現れた。アトミックはララに群がる女たちを傷付けないように払うとサーベルを抜きとって救出。ドレッドノートを挟んで向こう側にいる色付きララの元へ行き腹に一撃を与え、彼女の体がだらんと力を失ったところで脇に抱えてドレッドノートの中へと戻った。
「初めて入ったわねここ……」
情報によるとララは前に軍の本物の潜水艦に入った事はある。が、それとは異なる内装に驚いている。とても広くて、どこか宮殿にも見え。外の様子もちゃんと見える。とても戦闘用の艦には思えない。
その感情も言葉も、ワシに駄々洩れなんだけど。良いのかねぇ放っといてさ。
「ま、こいつパペットですからね」
その中にある柱の一つに色付きララを縛り付けるとアトミックはワシの様子を窺う。ワシも向こうの出方を窺っていて動いていない。ただ女たちはサーベルでドレッドノートを攻撃し続けているが。
「ちっちっちっ、そんなほっそいサーベルじゃ傷付かないぜ」
「あの子たちに攻撃しちゃダメよ。ただ操られているだけだから」
「了解っす。
ドレッドノート! 潜航する!」
『YES』
ドレッドノートが通路に沈んでいく。動きは残念ながらゆっくりで、その間にワシは動いた。囚人の首から大鎌を離したのだ。囚人は白い拘束衣を脱ぎ去ると銀色の【アルターリ】の姿を現し、四つある腕を使って腰に帯びるレイピア四振りを抜剣した。
「急げドレッドノート!」
囚人が駆ける。速い。殆ど一瞬でドレッドノートにレイピアを突き刺して。
「構うな沈め!」
囚人はレイピアを突き刺したまま横に上にと動かしドレッドノートを浅く傷付ける。しかしドレッドノートは痛みを訴えず沈み続け――囚人を残して完全に姿を消した。
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