第26話「格闘に自信はあるかい⁉」
いらっしゃいませ。
人魂を変化させた火炎の剣を以て生徒会長に迫るオレ。
宝玉の一つを水色に輝かせ氷水の剣を以てオレに迫る生徒会長。
二人はあっさりと肉薄して切り結ぶ。
唐竹
袈裟切り
逆袈裟
右薙ぎ
左薙ぎ
左切り上げ
右切り上げ
逆風
刺突
これらを駆使して行われる討ち合い――いや斬り合いは互角。
剣を振る速度も互角。
剣に込められる威力も互角。
それに加えて火炎と氷水も燃やす事なく凍らせる事なく。
ただ紅い剣閃と水色の剣閃とが鮮やかに軌跡を描き、一種のアートのようにも見えて。
実力伯仲だ。
ここまでは。
オレは八つの人魂全てを使用しているが生徒会長にはまだ宝玉が残っている。
今使用している水の宝玉だって剣以外に使い道はある。
それが厄介だ。
生徒会長の剣の腕が厄介なのは当然として、宝形の持つ力も厄介なのだ。
宝玉はジョーカーではなくアイテム。
なのにジョーカー級の力を宿す宝玉が厄介すぎる。
「さあ!」
生徒会長が笑う。
余裕かはたまたバトルを楽しんでいるのか。恐らく後者。
「まずは水からだ!」
水の宝玉が輝いた。
途端。
ド――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!
轟音が辺りを支配する。
何の轟音かと問われると、雨だ。ただの雨。されど豪雨。
視界を奪われ、体温を奪われ、体の動作が鈍化する。
「く!」
たまらずオレは人魂一つを分離させて人魂の炎で体を薄くコーティング。雨を防ぎながら熱を保つ。
しかし。
「!」
気づけば足元の雨水が凍りついていてオレの脚を束縛する。
そこに。
「っつぅ!」
豪雨が凍れる針の山と化して降ってくる。
一つ一つはとても小さい針だ。だから体を取り巻く炎に当たって蒸発するものが殆ど。けれど針が当たった部位に新たな針が当たり、それを何度も繰り返すうちにいくつかの針が体に突き刺さる。
削られていく、オレのライフが。
オレは急ぎもう一つ人魂を分離させてまずは足元の氷を溶かし、次いで針を防ぐ盾にする。
これで終わりではない。水をまだ看破できていないのだ。
「ぐぅ!」
上からの針は防いだ。が、横殴りの豪水がオレを流す。
鉄砲水と言うものだ。
あまりに強い流れにオレの体は制御を失い、大地に、水晶柱にとぶつかりまくる。
ぶつかって、その度に空気が口から漏れて。
このままでも危うい。でも人魂全ての火力を使えばまだ。
が、生徒会長には全てお見通しらしい。なにせ。
「うっ!」
水全てが凍りついてしまったのだから。
人魂は? まだ燃えている。
火炎の剣は? こちらも燃えている。
辛うじて火力が活きている状態か。
けどどうする?
弱った火力で氷の中から脱出するには?
氷を直接斬りつけてもムダだろう。ならば。
ゆっくり、氷を溶かしながら手を動かし、切っ先を大地に届かせる。
「オ―――――――――――――――――――――――――――――――――――オオ!」
そうして精一杯の火を大地に送り溶かし、噴出させると同時に剣を上へと切り上げる。
「っは!」
良し、脱出成功。
だがその先で見た光景は。
「雪」
が、しんしんと降る銀世界。
オレが激流に呑みこまれている間に生徒会長は一面の銀世界を作り上げていた。
寒い。
おまけに何だ? この雪だるまたちは?
百個はくだらないだろうか。雪だるまが至るところに作られていて。
しかもこれ、動いていたりする。まあただの雪じゃないもんね。
「って思ってる場合じゃない!」
雪だるまが殴ってくる。蹴ってくる。ダイブしてくる。
「こっの!」
火炎の剣を振って蒸発させるも数が多い。足元も雪にとられて腰が乗った剣戟とは言い難い。
だから剣の圧は充分に発揮できず押され始める。
「あ!」
腕を掴まれた。両腕だ。
胴体にもしがみつかれて、脚をホールドされて。
「何を!」
するつもりなのか。
フルボッコにでもする気かと暫し待ってみたが何もされずに。えっと……。
「ん?」
困っていると何やら雪が震え始めた。
雪が、震える。
おや、遠くで地鳴りのような音もする。
……まさか。
危惧は割と良く当たる。
オレをめがけて――――――――――――雪崩が来ていた。
「まず!」
火炎の剣、火力最大。
かわいそうに崩れていく雪だるま。何かごめん。
「よ!」
次いでオレは火力を弱め剣を棒代わりにして逆立ち状態。何とか雪崩をやり過ごす。
「うまいな」
雪の上に着地して、そんなオレに向けられる声に目を動かすと水晶柱の上に生徒会長が。
「ではこれだ」
別の宝玉が輝いた。今度は黄色。
一方で雪がかき消えて。
宝玉の力はいくつも同時には使用できないのか。
では黄色の宝玉の力とは?
「ん」
地面が揺れている。
雪崩の揺れに近いがどこか違う。この揺れは経験があるな。なにせオレが住んでいるのは地震大国日本だから。
そう、この揺れは地震のそれだ。
「うぉお!」
揺れが大きくなった。
もしもこの土地にビルなどの建物があったなら全て倒壊してしまうほどに強い揺れ。
立っていられずに手を大地について。
途端。
「なっ!」
地割れが発生。
呑みこまれていく。
しかしここはフィールドだ。浅いはず――と思って油断していたら、海面が見えた。
フィールドごと割ったのか!
「く!」
慌てて剣を割れた大地に突き刺して落下を止める。
止めて体を回転させて、剣を踏み台に地表へと戻った。
一度剣を人魂に戻して再び手に呼び寄せ剣に。
まだ安堵はできない。地震は続いているから。
だから大地の崩壊も続いていて、オレは土の盛り上がる場所を跳躍しながら生徒会長に接近する。
が、地震が止んだ。かわりに緑の宝玉が輝いて。
「わっ!」
風だ。突風が起きて飛ばされてしまった。
「あう!」
おまけに狙いなのか偶然なのか水晶柱に背を打ち付けられる。
しまった、生徒会長が視界から外れた。
慌てて戻される目。しかし同じ場所に生徒会長はおらず。
どこに?
「!」
下から風を感じた。
けれど目を向ける暇は与えてもらえず、生徒会長の放った拳に顎を殴打されてしまう。
これがただの暴力だったならイエローカード。しかし生徒会長の拳には風が纏われていて。
つまり拳に殴られたのではなく暴風の塊に殴られたのだ。
「格闘に自信はあるかい⁉」
体育の授業で習う空手を基礎に我流で嗜むくらいには。
「成程! 我流もなかなか魅力的だけど!」
暴風の殴打。暴風の蹴打。
「一度体勢を崩されてはどうしようもないだろう!」
全くだ。
だから今されるがままになっているわけで。
ちょっ、どうしようこれ。
「がっ!」
腹にもろに殴打を喰らった。
体がくの字に曲がり、
「!」
後頭部を組まれた手で殴られ落とされる。
落とされバウンドした体に追い打ち、顎に蹴打。蹴り飛ばされる。
やられまくっているが、これで一時距離は取れた。体勢を整えるなら今だ。
「な⁉」
今だ、と思ってまず手を大地に伸ばしたら――その手に仮想の傷がついた。
なぜ?
「ただ乱雑に蹴り飛ばしたと思うかい?」
思っていました。
「違うな。
風の刃の檻に放り込んだのさ」
……なんつー……。
「今、宵くんの周囲には見えない風の円のこぎりが無数にある。
下手に動くと体が八つ裂きにされるが、どうする?
俺としては降参してくれても良いんだが」
「じょ、冗談」
ここで敗れるなんて、お断りだ。
「そう来なくては」
オレに向けて伸ばされる腕。
掌が開かれていて、それが捻られる。
「……風」
が、オレを取り巻く。
突風の結界と言ったところか。
「この風の檻はじょじょに小さくなっていく。
風の刃を巻き込みながらだ。
さあ、リザインまでの時間が刻まれていくぞ」
どうする?
炎を暴発させてみるか?
風を受けて燃え広がってくれる――前に吹き消されそうだな。
……どうせダメージを受けるならライフの減少覚悟でやってみるか。
「む?」
人魂の炎、全開放。最大火力で――オレの体を包み込む。
包み込まれたまま跳躍。水晶柱を蹴って足から生徒会長に向けて突っ込んだ。
「火炎を纏い突っ込む事でダメージは最小限に! そのまま俺を蹴り飛ばす気か!
だけど!」
足が傷ついていく。
仮想の傷はこれが現実だったら目も当てられない程についていき。
「脚を切断させてもらう!」
「させない!」
「――⁉」
お読みいただきありがとうございます。
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