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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
255/334

第255話『トレーニングで得た筋肉とー実戦で得た筋肉じゃー質が違うー』

ごゆっくりどうぞ。

「動かない」


 背丈はオレの六割くらい。随分小さい体だ。声が幼いから男の子か女の子かは判別不可だが纏っている黒いマントはジャンヌ・カーラ看守のそれ。何より大鎌を持つ看守何てここの人間以外にいないだろう。


「アルベルトがーお兄さんとお姉さんを見つけたらー即刻首を刎ねなさいってー言っていたんだけどー」


 アルベルト――オレたちを襲った看守の名前だ。


「何かー無理っぽーい?」


 小さな看守は大鎌の柄を押したり引いたりしている。しかし大鎌が首を刎ねる様子はなく。オレが紙剣(シケン)を、涙月(ルツキ)が盾を瞬時に顕現して首と大鎌の間に挟んだからだ。


「ねぇねぇちっこい子」

「なーに? お姉さーん」

「私ら切縁(キリエ)・ヴェールのとこに行きたいんだけどね? 別に看守を相手にしたいわけじゃなくてね? だからできればあっちの遊園地とかで遊んでてくれないかなぁ?」

「う~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ん」


 盛大に悩みだした。ただ相変わらず大鎌をグイグイとやっているけれど。


「ワシー物で遊ぶよりー誰かと遊びたーい」

「おぅ人間関係を求めるとは立派な心掛け!」


 そんなところで感心しないで欲しい。


「だーかーらー」


 押したり引いたりしていた看守の手が右に左にと動き出した。刈り取るから切り取るに変更したらしい。


「ここでーお姉さんとーお兄さんのー首をー切る遊びの方がいー」


 小さな看守、軽くジャンプ。


「うぉっち⁉」


 そのまま脚を持ち上げ器用にオレの背中をドロップキック。その姿勢のままでオレの体を大鎌の刃がある方へと押しまくる。


「そいつはダメだぜちっこい子!」


 体を回転させオレに向き直る涙月。小さな看守の頭の上に盾を突き出して下に叩く。小さな看守を叩き落とすつもりだったのだろう。しかし、


「お?」


小さな看守の体はビクともせずに。


「ねー良い子良い子は早いー」

「ふ……仕事熱心な子を褒めるつもりだったんだぜ!」

「まじでー?」


 絶対嘘だけどね。

 いやそれよりもだ。オレはオレで小さな看守の体を押し返そうとしているのだけどまったく動かない。それどころか徐々に押されている? この体格差で?


「ねぇ、君、随分力強いね?」

「そうでもーないよー? 看守の中じゃー弱いほー」


 これで弱いのか。


「でも切縁はーこう言ってたよー? 『トレーニングで得た筋肉とー実戦で得た筋肉じゃー質が違うー』てー」


 確かにこっちの筋肉は殆どトレーニングで得たものだけどパペットウォーリアと言う実戦で得た部分だってあるはずなのだが。それともゲームは別と言うのだろうか。


「ごめん!」

「ふあた!」


 涙月が盾で思いっきり小さな看守の顔を殴った。流石に小さな看守も痛みを感じたらしく仰け反る。しかしオレを押す脚は決して離さない。


「もー痛いー」

「へ? それだけ?」


 結構な力だったはずだ。ひょっとしたら全力で殴ったのかも。でもそれが「もー痛いー」で済んでしまったのは涙月にとってもオレにとっても意外だった。


「ぬー今度はこっちのばーん。『ぶんぶぶーん』」


 ぶ……。恐らくはパペットの名前だろう。その証拠に小さな看守の傍に何かが顕現する。姿はマスターユーザーと反して巨大で、アメリカの一軒家くらいの体躯を持つ蠅だった。否。これは――蠅の王。


「涙月!」

「あいよ! 一刺し必中!」


 蠅の王を突き殺さんとばかりに出されるランス。回転を加えられたそれは蠅の王の巨大な目の一つを捉えて、接触したと思ったら妙な液体を散らしてランスが流された。


「あーそれ毒だからー」


 ランスを流された勢いを止められずに涙月の体が蠅の王の体を飛び越える。その間に涙月の目はランスに向いて、先端が溶けているのを確認した。


「何の!」


 着地。同時に再び地を蹴って蠅の王へと挑む涙月。涙月の手がランスの先端を握り、離された時には元の尖ったものへと戻っていた。


「今度は毒ごと貫くよ!」

「ぶんぶぶーん」

『ああ』


 蠅の羽が動いた。消える程に速く。蠅の王は涙月の軌道から大きく飛び退り、巨大な体躯を砲丸として上空から涙月へと降下する。


「あっまい!」


 道路を割る程に脚を踏ん張って軌道を変える涙月。蠅の王と向かい合う形でジャンプして、


「リゾーマタ! 火!」


ランスに炎を纏わせた。


「一刺し必――だ……⁉」


 ランスが横から弾かれた。街灯から出て来た銃弾に撃たれたのだ。


『そら、俺をどうする?』


 飛来する蠅の王。

 バランスを崩している涙月。


「どうもこうも予定通りだけど?」

『――⁉』


 蠅の王が動きを止めた。いや、体を固めたまま落下した。


「うんー?」

『これは……』


 蠅の王の細胞の隙間から出ていた毒が凍り付いている。


「言葉にしたものだけ発現できるとは言っとりませんぜ?」

『成程。クリマ』

「んーおっけー。『ウォーリアネーム【花に止まって犯して殺して】』」

「「させるか!」」


 オレは全身から苦無(クナイ)を飛ばし小さな看守クリマに向けて放って、涙月は空中から蠅の王を貫くべくランスを放つ。しかし。


「「――!」」


 オレと涙月を包む光線。黒い街から放たれた数十もの光線だ。苦無は全て打ち砕かれ、ランスには穴が開き。

 その中で幸運と言うか何と言うか同化の為にクリマの体がオレから外れた。しかし光線が飛び回るオレたちを追尾する。オレは苦無を街に向かって放ち色々と壊して見せるが粉となって収束し、すぐに元に戻る。

 ここはいつかの街と違って実際に存在するはずだ。なのに修復される。つまりオービタルリングと同じナノマシン建築か。


「よー君!」


 涙月と合流して光線をかわしながらクリマを目指す。


「ふっはー」


 そのクリマはマントを脱ぎ払い、背中に巨大な蠅の羽を持った姿で息を大きく吐いていた。周囲に漂う液体は毒か。


「さーてとー」


 蠅の王の目を持ったクリマの顔がこちらに向く。不気味――その一言に尽きる顔を。


「始めようかー」


 オレたちを追っていた光線が消えた。


「それで死んじゃったらーつまんないしー」


「しー」の終わりと共にクリマが消えた。それをオレが認識できた瞬間クリマはオレの顔を黒く変色した手で握りしめていて。


「だっ⁉」


 乱暴にビルに押し付けられる。ビルの壁面が壊れる程に。そのままクリマは急上昇。後頭部が硬質の壁を砕き続けるわガラスに当たったりでかなり気持ち悪く痛い。


「こ・の!」


 オレを掴む手首に苦無を集中させる。一つ当たり十当たり百当たり、それでもクリマの手首は尚健在。


「せーの!」


 その手首を涙月のランスが突く。しかしそれでも傷付ける事叶わず。

 オレたちはビルを飛び越えて空(?)に躍り出た。


「今度はーこっちーせーのー」


 地面まで凡そ三キロメートル。そんな高さから思いっきり投げ落とされる。体勢を立て直そうとするも空気が邪魔をしてできない。それならせめてもの抵抗としてエナジーシールドを最大展開。殆ど同時に道路へと頭から落下した。


「ぐ――う!」


 体がゴムボールのように浮いて再び落ちる。


「まーだだよー」


 できれば少し横になっていたかったけれどクリマはそれを許さず、毒の液体を大量に降らせて来た。


「シールドが⁉」


 片膝をついた状態で毒を浴びて、何とエナジーシールドが溶けて行く。このままではまずいと飛んで近くのショップの屋上へと逃れる。

 クリマは?

 上を見るが、いない。あれ? 涙月もいない。と思ったら近場にあったビルが崩れた。煙の中から飛び出る涙月とクリマ。すぐに修復されるビル。


「お?」


 涙月の声が聞こえた。見るとビルの煙に巻かれていたせいで煙ごとビルの修復に巻き込まれている。


「あー」


 おや、クリマもだ。バカなのだろうか……。とにかく反撃の好機と見てオレは駆けた。人魂の紙剣でビルの修復から逃れようともがくクリマを斬りつける。


「よいしょー」

「え⁉」


 蠅の羽が消えた。凄まじい速度で羽ばたいているのだ。風が巻き起こり、クリマを包んでいた煙が飛ばされて風の壁が紙剣を押し戻す。しかしそれはある一つの事柄も示していた。『紙剣を受けたら斬られるから風で防いだ』――と言う事柄を。


「涙月!」

「あいよ! リゾーマタ 空気!」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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