第253話「行くよ……【覇―トリ―】――エスペラント」
ごゆっくりどうぞ。
☆――☆
「一番高良 涙月! いっきまーす!」
<ダメです>
「うぉぅ」
第零等級星冠が奇襲されて数時間後の午後六時、場所は星冠の領域スローンズ。
緊急の会合が行われ【覇―はたがしら―】の機能【覇―トリ―】についての報告を終えた後だ。早速試そうと涙月が手を挙げて宣言したわけだが最高管理によってストップがかかったのが今。
「え~? どうしてですかぁ?」
<成功よりも失敗の可能性が高いからです。幽化星冠卿、貴方がこの機能を黙秘していたのはそれが理由と思いますが>
「そうだな」
<失敗した場合どうなりますか?>
「脳がショートする。単純に言えば死ぬ」
軽く言うが、幽化さんがそう言うならば冗談抜きでそうなってしまうのだろう。
<そのような危険な力には容易に手を出すべきではありません。この度の切縁・ヴェールとの戦いに必要とも限りませんし――>
「いや」
最高管理の言葉を否定したのは。
<幽化星冠卿>
「わかっているはずだ。オレたちに奇襲を仕掛けた看守連中は【覇―トリ―】を扱えた。通常の同化だけでは敵わない」
敗ける、幽化さんがいても。
<現状の戦力に見合う策を講じればどうでしょう?>
「現状【覇―トリ―】を扱えるのはオレとガ――宵だけだ」
今ガキって言おうとしませんでした?
「オレたちが隊列の前後に立つとして左右に回り込まれたらどうする? そもそもジャンヌ・カーラで全員が一塊になって行動できるとも限らない。バラけた場合看守を抑えられるか?」
<…………>
黙す最高管理。
確かに幽化さんの言う通りだけど、決戦前に試して大半を失ってしまう可能性だってあるのだ。それは誰もが避けたい事態のはず。
<幽化星冠卿、天嬢星冠卿。
貴方ガタの『希望』の力でアシストはできますか?>
オレは幽化さんを見た。オレ自身まだこの力の全てを把握できていないからだ。
けど幽化さんなら。
「できないな。できてもやはり博打になるゆえそれは【覇―はたがしら―】によってストップがかけられている。仮にそれがなくともやる気はない。おもりをしてやる気がないからだがそれ以上に自力で乗り越えられないのならば力には手を出すな」
厳しい、が、確かにその通りかも知れない。所謂『過ぎた力』と言うものなのだろう。
<……わかりました>
沈んでいながらも何かを決意した最高管理の声色。
<第三等級以上の星冠の内、立候補者には認めましょう。それ以下の星冠は手を出してはいけません>
「まあ、それが妥当か」
椅子に腰を下ろして腕を組む幽化さん。もうこの場での自分の役目は終わったと言う事だ。
<星冠はそれで行きましょう。ただ――>
「わたしたちがどうするかって話ですね」
言葉を継いだのは、魔法処女会教皇・神巫。
【覇―トリ―】の情報は協力を仰いでいる魔法処女会・王室ネットワーク・アンチウィルスプログラム・パトリオットにも伝わっており、神巫以外のそのトップ、
王室ネットワークの使者、クィーン・パフパフ。
アンチウィルスプログラム代表、スノー氏。
パトリオット隊長、糸未さん。
も再びここに集っている。
「うちは支部長クラスにチャレンジさせるつもり」
と神巫。
「わたくしはわたくし一人なので問題ありません。やっちゃいます」
とパフパフ。
「こちらも問題ない。やりたい者には全てやらせよう」
とスノー氏。
「私たちもやろう。今のままで切縁・ヴェールに敵わないのは身を持って体験した」
と糸未さん。
<わかりました。では予定していた明日午前八時の集合・作戦開始はそのままで構いませんね?>
誰もがそれに頷いて。
<【覇―トリ―】への挑戦はそれに間に合うようにお願い致します。
それでは、この場は解散と致しますがスローンズを使用して戴いても構いません。皆無事に揃うのを願っています>
「んじゃ、わたしは戻るわね」
数分間雑談を交わした後、神巫はそう言って去って行った。ここではなく教会の方で試すそうだ。
「わたくしはここで!」
胸の前で両の拳を握って張り切るパフパフ。
「ワタシもやるわよ」
腰に手の甲を当てて、ララ。彼女に続いてゾーイも顔を上下に一度振る。
う~む、気持ちは汲みたいのだけど反対したい気分。
「よー君」
「はにふんの(何すんの)?」
いきなり涙月に頬をつねられた。痛くはないがみっともない顔になっているのは確かで。
「やるからね」
「……うん」
わかっているよ。反対してもムダって。
「私は戻る。隊員を待たせているからね」
そう言って【門―ゲート―】を開くのは糸未さん。
「糸未さん、念の為に聞きますけど怪我の方は?」
「うん」
自身の体を摩る。切縁・ヴェールに穴を開けられた箇所を。
「問題ないよ」
「……そうではなく」
「……わかっている。こっちだね?」
摩っていた手を握り親指で胸をつつく。
そう、怪我と言うのは心の方だ。一度やられ、心に傷を負わない人間なんていないはずだから。
「こちらも問題ないよ。寧ろ滾っている。本番で私が暴走しないように見ていてくれ」
「はい」
「それじゃ」
糸未さんは軽く手を振ったまま【門―ゲート―】を抜けて消えて行った。
オレは幽化さんの方を見る。幽化さんとスノー氏が何やら話し込んでいる。氷柱さんにも挑戦させるのか聞きたいところだけど邪魔はできないかな。怖いし。二人はその後も数分話し続けて、二人一緒に【門―ゲート―】を通って行ってしまった。ま良いか、氷柱さんには後で連絡を入れよう。
「そうだ、ララ」
「うん?」
「アトミックはどうするの?」
彼女の護衛で、オレの友。彼の性格なら行くと言うだろうが一応確認をとっておこう。
「あ~、どうするゾーイ?」
「護衛は連れて行かなければならないだろう。私たちが良くとも王室ネットワークから苦情が来る」
「ですね、わたくしもお二人を優先的に護れと言われているんですこれが」
人差し指を一本立てて、クィーン・パフパフ。
「護ってくれるのは良いけど、ロボだからって身を挺して庇うとかはなしよ?」
「う……し、しかしわたくしの場合AIユニットさえ無事ならば――」
「な・し・よ?」
「……はい」
笑顔なのに怖い、ララ。
「さ~て、早速やりますか」
言って涙月は周囲を見回す。残った星冠の内、まだ誰もチャレンジしていなかったりする。誰もが誰かがやるのを待っている状態だ。その中で。
「一番涙月! 行っきます!」
大声で宣言する涙月。
「まずは【騎士はここに初冠して】!」
パペットとの同化。同化状態でないと【覇―トリ―】へは挑戦できないと幽化さんに聞かされているからである。
「愛」
次いで自分を支援して、
「はぁ」
息を吐いて、吸う。
「行くよ……【覇―トリ―】――エスペラント」
涙月の挑戦を合図に皆各々のパペットと同化して、
「「「【覇―トリ―】――エスペラント」」」
挑んでいった。
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