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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
252/334

第252話「貴方は閉じ込めるのではなく殺すべき存在のようだ」

ごゆっくりどうぞ。

☆――☆


「神の粒子と呼ばれるものがある」


 オレ・幽化(ユウカ)は静かに手を持ち上げてそれに触れる。檻だ。

 授業が終わり必要な作業も終わりオレは学校を出た。その途端どこかの黒い穴に転送されて三人がかりで特殊な檻に拘束された。檻は三人の【アルターリ】の鉱石によって造られていて硬度はダイアモンドよりも上だと思われる。

 しかし。

 オレの手に触れられて檻は静かに分解されていく。


「それは過去から現在、そして未来に渡って常に存在する粒子だ。それこそが『希望』」


 檻に触れたオレの手首には黄金の光輪が三つある。


「……っ」


 檻が破られていく光景を大鎌を持った看守は息を呑んで見ていた。その全身にオレンジ色の光輪を身に付けながら。

 そいつは考えているだろう。

 なぜ、この男に自分の『希望』が通用しないのか?

 いつ、この男は【覇―トリ―】を御し始めたのか?


「幽化殿――黄金の星章(セイショウ)使い。

 貴方は『希望』にどこまで手を伸ばせるのだ?」

「全てだ」

「――あり得ない! それができた人間は切縁(キリエ)・ヴェールただ御一人のはず――(いや待て。切縁・ヴェールはこの幽化によってジャンヌ・カーラに入ったとも聞く。切縁・ヴェールは自らジャンヌ・カーラに入ったのではないのか?)

 貴方は切縁・ヴェールを捕えたのか?」

「いいや、あれに一時的に協力しただけだ」

「協力! 切縁・ヴェールが協力を許した相手!」


 看守は退避を考えただろう。この男が切縁・ヴェールの域に達しているのなら自分に勝機など存在するはずもないと考えただろう。


「どうも貴方の相手はワシの手に余るようだ。一旦退散させて頂く」


 そう言って看守は『希望』を使って転移しようとする。だが。できない。


「改めて攻めて来ると宣言した奴を逃がす理由があるのか?」

「……――⁉」


 看守は言葉を失くし、自らの死を覚悟したかのように表情が暗く染まる。しかしオレはそれを容易く乗り越える。


「体が――」


 看守の体が消えて行く。


「過去の『希望』に干渉しお前の母の妊娠を堰き止めた」

「……!」


 看守の表情に冷たいものが走る。表情から察するに感じたものは戦慄だ。恐らくは生まれて初めて感じただろうそれに看守は自然と半歩後ろに下がった。恐れている。


「お前の存在は消える。お前が関わった歴史は改竄されて納まるだろう」

「その、大きな改竄がどんな影響を世界に及ぼすか!」

「自惚れるな。お前程度が消えたところで世界に混乱はない」


 檻が完全に壊れた。オレは残骸が体に当たらないようにと檻から外に出る。その瞬間を見計らって三人の【アルターリ】がオレを取り囲んだ。【アルターリ】の胸の中心にエネルギーが集まって行く。

 自爆だ。


「そうか。ワシは思い違いをしていたのかも知れない」

「ほう」

「貴方は閉じ込めるのではなく殺すべき存在のようだ」

「ほう」


 それはオレを殺せると思っている人間の台詞だ。オレはそれを大した感傷も抱かずに聞いて、受け流した。


「さようなら幽化殿。次の人生にこそ希望がある事を」


ド――――――――――――――――――――――――――――――――――!






 パラパラと空間の残骸が落ちて来る。【アルターリ】三人分の自爆。総エネルギーはリスクAに相当する威力と見た。


「…………」


 看守はどこから溢れているのか轟々と唸りをあげる黒煙を注意深く観測していた。自分が無事だったのは切縁・ヴェールによって与えられた大鎌があるからだが幽化にはそれがない。無事とは思えなかったがまだ勝利宣言はできない。なぜならつい先程幽化に戦慄を覚えたばかりなのだ。これで余裕を見せるのはバカである。

 そんな風に思っているはずだ。


「人は――観測されない」


 敵を殺せたか、この空間から逃げられたか。


「【アルターリ】」


 その二つを考慮しどこかに連絡をとっている。間違いなく外にいる別の【アルターリ】に。【アルターリ】からは自我を殺いでいるようだが質問に応えられる知能は残してあるのか。

「外に幽化殿はいないか?」「いない」


 報告を受けて、看守は初めて息を吐いた。


「――――待て。

 幽化殿を殺せたなら――なぜ自分の体は消え続けている?

 幽化殿は生きている。今も生きてここにいる!」


 しかし目を巡らせてみるがその姿はどこにもない。

 怖いだろう。恐ろしいだろう。


「どこに……」


 呟いた瞬間、オレは奴の心臓を握りしめた。


「……っかっ⁉」


 体から摘出したのではない。体内にあるままで心臓を握った。血液は悲鳴を上げるように巡り、肺は警告を発する。


「ゆ……か……」

「聞こえているな」


 壊れかけの空間にオレの声が響く。


「…そ……か……くうか……に」


 オレは、この空間そのものに体を潜ませているのだ。

 凄まじき『希望』。凄まじき『奇跡』。

 ああ、少々強くなり過ぎたか。


「お前は死ぬ。そして消える。

 その前に聞こう。

 切縁・ヴェールの目的は?」

「……ワシは! 死して尚切縁・ヴェールを裏切らない!」

「そうか」


 ぶちゅ。鈍く重い音が奴の体内に響いた。心臓を潰されて看守は力を失い、存在を希薄にして、遂に消えてしまった。

 空間は完全に破壊されてオレは帰還する。


「ご、ご無事ですか⁉」


 小さな人影が近寄って来る。その影に一瞥をくれるとオレは「ああ」とだけ呟いて校庭の見える道へと出た。


「お……お待ちください! 何が起こったのか報告する義務がありますので教えて下さい!」


 舌打ちを返すと、小さな少女は体をびくりと震わせた。


「…………」


 オレは口を開こうとしたがすぐに閉じる。


「あの、ひょっとして名前を憶えて頂いていないのでしょうか?」

「…………」

「ベーゼ! ベーゼ・ブルです!」

「……ああ」


 魔法処女会(ハリストス・ハイマ)から星冠(ホシカムリ)へと派遣されている少女だ。切縁・ヴェールと対立するようになってベーゼはオレの付き人になっている。それはベーゼを護る為の星冠最高管理による判断だったが身勝手なオレを管理するのにも丁度良かったのだ。最高管理が言うに「幽化星冠卿は子供嫌いではありませんので」との事だ。子供嫌いなら教師などやっていないからである。

 ……好きだと自覚した覚えはないのだが。


「で、一体どちらに行かれていたのでしょう?」

「カプセルタクシーを呼んで来い。中で聞かせてやる」

「わかりました! って、わたし小間使いではありませんよ⁉」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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