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AI ray(エイレイ)~小さな蛇は夢を見る~  作者: 紙木 一覇
後章 ~水折り(みおり)の炎~
251/334

第251話「き・ば・れ――――――――――――――――――――――――――――!」

ごゆっくりどうぞ。

 看守はきっと少しでも傷つけられたこの隙を逃さない。だからオレと涙月(ルツキ)は――あえて目を瞑った。実体化の隙を逃さない為に。

 一秒、十秒、一分と時間が過ぎる。首筋にヒヤリとしたものが当たった。オレは目を開けないままに紙剣(シケン)を持ちあげて、看守の手首を斬った。


「……成程」


 看守の声。思った以上に近距離からだった。


「涙月ちゃんの力で体内に走る電流をより鋭敏にしての超反応だね」


 (ピリア)。涙月の聖騎士としての能力の一つに包まれたオレと涙月の体は何よりも早く危険信号を発してくれる。


「それじゃ」


 看守の声が遠のいた。


「今度はその暇すら与えないよ。【覇―はたがしら―】を使うから」


 ? 【覇―はたがしら―】を使う? 今まで使っていなかったのか?


「【覇―トリ―】――エスペラント」


 その一言で、光が発せられた。


「――⁉」


 思わず目を開け、すぐに半分閉じる。

 灰色の火の玉。見ていられない程の光量。まるで小さな太陽を間近で見ているような光景。けれども決して目を離せない、人を魅了する光だ。『対峙するな』と本能が叫んでいた。

 灰色の太陽が渦を巻く。幾つもの円環が生まれては消えて、看守を包んでいた太陽は弾けた。


「……よー君……」

「うん……」


 ユメのパペットを見た時その神々しさに目を惹かれ圧倒された。あれが上限だと思っていた。なのに、看守の手首、足首、体、頭頂部に現れた灰色の光輪はそれすらも子供に見える程に輝いている。


「これが、【覇―はたがしら―】の真骨頂だよ」


 看守から発せられる言葉にすらも脳を通じて魂を揺さぶられる。


「人が得て良い智慧知識の限界突破。人の体は人であるのを赦されず、一時的に天上の位に持ち上げられる。

 切縁(キリエ)・ヴェールのそれと似てはいるけれど少し方向が違うかな?」


 怖い……あまりの素晴らしさに恐怖を感じる。


「さあ、行くよ」


「よ」と同時に看守は背後にいて。


「な――」


 普通超速移動すれば風が渦を巻く。しかしそれはなかった。気配を感じないどころか空気を一切震わせる事もなかった。

 透明化? それとも転移した? いや【門―ゲート―】は開いていなかった。例え開くのが早かったとしても痕跡は必ず【覇―はたがしら―】が感知する。では何をした?


「転移だよ」


 優しくオレと涙月の首元に触れる。オレたちは振り向きすらできないままだ。


「ただ【門―ゲート―】じゃない。そこに行きたい、そう思うだけで空間も時間も超える」


 通常、空間を超える際には空間の『座標』を計測し、同じ値にする事で道を繋げる。時間を超える際にはそれに加えて時間の『座標』を計測する必要があると言われている。けれども時間座標の計測が難関らしく、少なくとも一般市民の間には知らされていない。綺羅星(キラボシ)とエレクトロンは今それに挑戦しているとの話だが技術は確立されているのだろうか?


「確立されているよ。だって【覇―はたがしら―】を造ったのはその二つなんだから」


 心を――読まれた。


「ただ、彼らは【覇―はたがしら―】を使いこなせない人と【覇―はたがしら―】に体を任せるのを拒否している人の為に別の方法を考えている。

 では――」

「【覇―トリ―】――エスペラント」


 オレは看守と同じ言葉を口にしてみた。


「誰もが詠唱すれば成れるのか? ってなるよね」

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――⁉」


 首に触れられたまま、オレは体を震わせて目を(ミハ)った。頭の中に宇宙の誕生から現在までの膨大な量の記憶が流れ込んで来たからだ。

 何か前にも似た経験したな……。

 自然と涙が流れる。

 頭が……割れる!


(ヨイ)ちゃん、【覇―はたがしら―】を切った方が良いよ。でないと人格壊れるから」


 できない……できない……できない。【覇―はたがしら―】を切るはできない。だってこれを使いこなさなければ看守に負けてしまうから。

 魂を鼓動に乗せて、想いを心に乗せて、強く一歩を踏み出せ。

 護るんだ――涙月を!


「気合いだけじゃどうしようもないって」

(ピリア)!」


 涙月がオレの手を握って来て、そこから力が流れ込んで来る。


「よー君! き・ば・れ――――――――――――――――――――――――――――!」


 収斂していく。膨大な歴史がオレの魂に納まって満ちて行く。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ァ!


「え」


 今度は看守が目を瞠った。

 虹色の小さな太陽を目にしたから。

 思わず首から手を離して【アルターリ】の肩に転移する看守。その一方で虹色の太陽は煌々と輝いている。やがて太陽は幾つもの虹の光輪に包まれ弾けて、消えた。

 ただ一人、体の至る所に虹の光輪を飾ったオレを残して。

 わかる……わかる……『希望』へと届く手がある事が。


「成程。素晴らしき才能。素晴らしき理解力。素晴らしき愛。素晴らしき心。

 けれど!」


 灰色の光輪が輝いた。同時に世界が黒に潰される。看守と【アルターリ】、涙月の姿にオレの体すらも見られない。


「人が生きるには『希望』が必要だ。ホンの一粒で良い。それだけでワシらは明日を夢みて歩いて往ける。ワシらはその『希望』を操る術を身に付けている。たった今できたばかりの宵ちゃんには負けないよ」


 声が脳に直接届いて来る。オレはそれを受け入れてどこかに向かって手を伸ばす。どこか? いや、『希望』の一粒に向かってだ。指の先にそれが触れる感覚。指先に小さな輪ができて消える。


「――⁉」


 風船でも割れるかのように暗闇が割れて消えた。


「なぜ……」


 なぜだって? だって『希望』の方からやり方を教えてくれるじゃないか。


「――そうか、宵ちゃんは星章(セイショウ)の使い手でもあったっけ」

「看守。あんたには声が聴こえないの?」

「……声?」

「『希望』の声」


 オレは左手を少し持ち上げる。ただそれだけで良い。『希望』の方がそれに応じて降りて来る。掌の上に虹色の光輪ができて消える。


「―――――ああああああああああああああああああああああああああ!」

「「――⁉」」


【アルターリ】が巨大な口を開いて叫び声をあげた。【アルターリ】を縛っていた洗脳を解いたのだ。その巨大な手が看守を握り潰さん程に強く掴まれる。


「よくも……よくも――――――!」


 いや、潰すのではない。殺すのだ。


「やれやれ」


 ため息を零す看守。瞬間黒マントを残して看守が消えた。


「――ぉ」


 声が漏れた。【アルターリ】の口から。その首が白人の姿を見せた看守の大鎌に切り落とされる。


「手頃な兵士だったんだけど、まあ良いか」


 良くない。だからオレは『希望』に手を伸ばした。


「なに……?」


【アルターリ】の姿が消えた。首も、胴体も。魂だけが抽出されて再現された彼の人体に戻っていく。


「成程。どうやらワシよりも『希望』に好かれているみたいだね」


 大鎌を一周させて肩に担ぐ。


「それなら」


 大鎌の姿が解けて行く。紫炎の数式になって行くそれはこの空間に広がって染め上げる。


「仕方ないね」


 紫炎の数式がたった今体を取り戻したばかりの男に収斂する。


「知っている? 人の体って高性能な爆弾になるんだよ」

「――涙月!」

「君の『希望』を操る力ではまだまだ切縁・ヴェールには届かない」


 それがわかったからオレは涙月の体を引き寄せて抱きしめた。


「じゃあね。陳腐な台詞で申しわけないけど、生きていたらまた会おうね。

 ワシはアルベルト。

 宜しく宵ちゃん、涙月ちゃん」


【アルターリ】だった男の体が真っ黒に染まった。さながら影。その影にヒビが走って光が漏れる。看守が姿を消した。それと間を空けずに。


ド――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!


【アルターリ】だった男が爆発を引き起こした。

 大熱量と大暴風。壊れる空間。吹き飛ばされるオレたち。暫く息すらできずにただ飛ばされて気が付くとオレたちは、学校の見慣れた廊下に転がった。ゴロゴロと転がって壁に体を打ち付けてようやく止まる。


「っつぅ」


 オレたちは打った体を摩りながら周りを見て、こちらを「なんだなんだ」と見て来る生徒たちと目が合った。


「よー君」

「うん」

「「逃げよう」」

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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